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【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト6:後輩オーディションのウラガワ!?
133/141

#133【五期生オーディション】ある受験生と月雪フロルの先読み合戦【#電ファンスナップショット】

 クラ限配信を終えて共用リビングに降りると、PCの前にライバーが集まっていた。ハルカ姉さんとハヤテ先輩、それから二期生の火玉修翔先輩。二人はちょうどファン研の収録にきているところだった。

 集まっている理由は、まあ言うまでもないか。五期生オーディションの二次選考はもう終わる頃合いだ。


「フロルちゃん、ちょっとこれ見てほしいんだけど」

「いやに話が早いね。なに?」

「そろそろ確定のタイミングだから、だいたいは合否の振り分けが済んだんだけど……ちょっとだけ残っててね」

「今? 合否通知あさってだよね?」

「だからここに並んでる子たち以外はもう作業に入ってるよ。あとはこれだけ」


 電ファンのオーディションは二次選考が一番狭き門だから、当然ながら特に慎重に判断される。母数が多いぶん判断基準がブレないようにされたり、当落線上は繰り返し検討されるし、だからこそ今回ライバーが参考意見を出すことになったりしていた。

 ライバーたちのほうも自分たちの同僚で目が肥えているからか、意外なことにジャッジは厳しめ。このノートPCに送られてきたものの中でも、多数の高評価を受けたものは少なかった。

 そして私が肯定的な感想を書いたのは二、三人。私はスタッフ視点で基準を知っているから、迷わず通されるような人はもう通っていることも考えればもともとそのくらいになるとは思っていたけど。


 今日が2月2日で、合否通知は明後日の月曜日の予定。つまり今はもう、ほぼ二次選考が済んでいないといけないんだけど……PCには数組だけ残っていた。スタッフも相当悩んでいるということだろうか。


「というわけでフロルちゃん、見てみて」

「なんか、そこまでもつれてるなら私の意見がそのままどっち方面にも最後のひと押しになりそうで怖いな」

「なるだろうな。責任重大だ」

「火玉先輩? なんでプレッシャー増やしにきたの?」


 この火玉修翔、一見するといかにもエースストライカーなサッカー部っぽい爽やかイケメンなんだけど、実態はとんでもないキラーパスを全方位に振り撒く傍迷惑なボランチだ。チームメイトを酷使するタイプのセッターにも近い。

 それが同僚のエンタメ能力を信頼してのものであるところがまたタチが悪いんだけど……なんだかんだ悪い気がしないから強く言えないのは、完全に周囲のライバー側が悪かった。


 まあ仕方ないか。半年前なら固辞していたところだけど、電ファンのスタッフやライバーが私のことをどう見ているかもいい加減わかってきたところだ。私のことを敏腕スカウト扱いしてくるなら、応えられるかはともかくそう試みるのも一興……我ながら四ヶ月そこそこで変わったものだね。

 というわけで見てみることに。最後まで悩んでいるということはそれなりに有望な面々なのだろうけど、だからといって「それなら通すか」と決めることもできていないということでもある。システム的には「とりあえず二次通過=次回以降の二次選考免除券を与えて、後で落とした場合も再挑戦を促す」ことも可能だけど、スタッフがそれをしていないなら私が考慮するのは基準のブレになる。

 言うまでもなく、他人の人生を変えかねない選択になる。しっかり隅々まで見届けて……。


「参考までに聞くんだけど、三人はここまでの中で一番いいと思ったのは誰?」

「じゃあ、一斉に指してみようか」

「うんっ。せーのっ」

「……一致したね。私も、通すならこの人かなって」

「おや。他は再挑戦か?」

「悪いけどね。すごく惜しいから、ぜひ次回も来てほしいけど」


 数人いたけど、その中で自信を持って通せると思ったのは一人だった。三人とも一番は一致したし、そう孤立した判断になったりはしていないはずだ。

 後で聞いた話だと、本当にその通りの合否になったらしい。本当に判断に窮していたのか、はたまたルフェ先輩やみゃーこの件で私がそこまで信用されているのか。判断は本気だったから、気に病んだりする気はないけど。






 ただ……実はここまでの話は全て、最後のひとつを横に置いての話だった。


「で、わざわざ分けられたこの応募は何?」

「見てみればわかるよ。正直、これは本当に迷ってるから……フロルちゃんの意見も聞きたいの」

「ってことは、単にクオリティ面でギリギリってわけじゃなさそうだね」


 何やら最後に一件だけ、さらに隔離されているのだ。仮にもプロとして選考を行っているスタッフたちが、判定そのものを下せずにいるらしい。珍しいことだ、よほどのイレギュラーがあったと見える。

 たぶん、単に基準に照らし合わせて決めかねているわけではないだろう。そうならここまでのものと区別する必要もないし。


 というわけで実際に見てみる。


「…………なるほど」

「こういうことなんだけど」


 言いたいことがわかった。この応募、()()()()()()()()()()のだ。

 内容としては、一定割合で存在する雑談系のアピールなんだけど……その内容が、「電ファンに対する好き語り」なのだ。自分の得意や能力は軽く話すくらいで流して、とにかく自身の「好き」に正直になっている。このライバーのこういうところが目標、あの番組のここがいい、という話がひたすら続く。


「みんな好感触ではあるんだけどね。どこまでいっても、結局この子が何をどのくらいできてどんなことがしたい子なのかがわからなくて二の足を踏んでる状態」

「だから通す理由か落とす理由のどっちかが欲しくて、最後の最後まで残ってると」

「そう。気持ち的には通してあげたいけど、気持ちだけなんだよね」


 トークは上手だと思う。本当に脈絡なくちぎっては投げしているわけではなく、ちゃんと自分が電ファンのオーディションに志望しているという軸はあって、そこからとてもシームレスに話が分岐している。

 そして当然、私たち電ファンからの受けはいい。当たり前だ、自分たちをここまでまっすぐ好きでいてくれる子のことを煙たく扱う理由はないし。


 ただ……だからこそ、迷わず通すことに気が引けるのはわかる。自分たちは本当に能力で通しているのか、煽てられて通してしまってはいないか、なんてことを考えてしまうのだろう。

 で、それが高じて、結局誰も決め切れないまま私まで回ってきた。……回ってきたというか、悩み続けている最終局面に私が居合わせた。


「あくまでフロルはどう思うか、で大丈夫だよ。責任を負う必要はない」


 あの火玉先輩がこう言うということは、本当に窮しているのだろう。気持ちはわかる。




「んー……まあ、想像するに、たぶんこの子は今回の二次選考を通ることだけを考えてやっているわけではないと思うんだよね」

「どういうこと?」

「結局この選考って、『通したい、採りたいと思わせるようなアピールをしてください』というお題ではあるでしょ? なら当たり前だけど、通過することだけを考えるならとにかく自分をアピールしたほうがいい」

「そうだね。他の子がしてるみたいに」

「だけどこの子は、今回そうしてない。……だけど、全選考員の記憶に残ったでしょ?」

「……つまり、最初から次回の応募を見越してやってるってことか」

「それなら筋が通るよね」


 想像してみることにした。この子はどうしてこんなことをしたのか。迷われることは想像がついただろうし、自分が選考の趣旨とは少しズレたことをしていることもわかっているはずだ。

 もし、こうして悩ませること自体が狙いだったら? 今回これだけ記憶に残っていれば、次回しっかり能力を見せればより通りやすくなる。三次選考以降にも印象が残るだろう。数千倍もの倍率の中で、強烈な個性を得られることになる。


「だとするとさ。これって、電ファンの求める『アイデア』そのものじゃない?」

「確かにね。この子じゃなきゃダメな理由になる」

「ま、二期生以降のライバーの半分以上はどっちにしろ一度は落ちてるしな」

「うん。私はこれ、いい勇気だと思うよ」


 オーディションではもちろん能力や人格を見るんだけど、電ファンの場合はそれ以外にも見るところがある。特に意識されているのが、多くの応募者の中から自分が個性で突き抜けるためのアイデアと実行力。当たり前だけど似たようなことをやっていたら印象に残らないから、応募者の中でも珍しいことをする子は後を絶たないし、そういう子の方が通過する。

 私の想像通りなら、この子は「一度落ちることを織り込んだ上で、とにかく記憶に残る」というアイデアを見せてきている。どちらにしろ初挑戦で採用まで届く例のほうが少ないのだから、そのほうが上手く見せられると。そういう仕掛けは、電ファンの好むところだ。


「それとさ。うちのオーディションで最初に求められるのは人格だけど、この子の性格はどう見える?」

「今の話を聞いたらしたたかに見えてきたけど、それ以上に人への好きをまっすぐ伝えられるいい子、かな」

「じゃあ最後に求められるのってなんだっけ」

「面白さだね」

「これ、面白くない?」

「……ああ。めちゃくちゃ面白い」

「ね。内容に持ってかれてわかりづらいけど、喋りはかなり上手いし」


 そして最後に、基本に立ち返ってみる。電ファンに、ライバーに何より求められるのは何か。……面白さだ。結局そこはどうしても譲れない。

 ではこの子は面白いかどうか。……言うまでもない。面白がられていなければここまで悩まれていないのだから。


「ってわけで、私が決めていいなら、この子は通過なんだけど……どう?」

「うん。今のを聞いて、私もそうすべきだと思ったよ」

「……フロルちゃん。あなたやっぱりスカウト向いてるよ!」

「惜しむらくはライバーのほうが向いていて、フロルは一人しかいないことだな」

「分身してよフロルちゃん」


 おそらく……「前回のあの子」という印象が残った状態で、六期生のオーディションに今度はまっとうなアピールを応募してきたら、この子は通過できる。ほぼ確実に。

 それが想像できる以上、今回通そうが次回通そうが同じなのだ。この子が今回通ろうが次回通ろうが同じだと考えて挑んできたように。


 これにハルカ姉さんも賛同して、この場で通過がほぼ決まった。スタッフさんたちは決めかねたからここに残していたわけで、覆りはしないだろう。あの人たちは私のことを信用しすぎてもいるし。

 愚問だよハヤテ先輩。ルフェ先輩一人だけだったならまだしも、みゃーこまであれだけ見事にこなしてみせている前では私だってわかる。私のスカウト面での感覚は、ちゃんと自信を持っていいものだ。

 まあ、あくまで主体はライバーだからね。オーディションにこれ以上直接関わることは難しいし、これ以上は任せることになるだろうけど。頑張れ、スカウト部。

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