#127【片弦ルカナ】電ファン史上最大のシンデレラガール現る【電脳ファンタジア切り抜き】
なお問題は全て自作です。クオリティはお目溢しください。
さて、続けてアンリさんのターンだ。これまでの活動でも時折見せていたから疑いはないけど、名探偵のお手並み拝見である。
『“Bさんは欲しかったものが目の前でなくなって喜んだ。なぜ?”』
『お、今回もまっとうにウミガメっぽいやつだ』
『最初の二問はオーソドックスなやつがいいでしょうし、とのことよ』
〈だいぶ情報量ないな〉
〈またありそうなやつだけど情報量少な〉
〈つまり次以降は……〉
〈後半が楽しみですね〉
こちらも前後が矛盾しているように見える、水平思考らしいひとひねりがある問題だ。しかも問題文が短い。私はどちらかというとこういう、すっきりした問題文の方が好きかも。
と思ったら、そういういかにもな問題で掴みにきているらしい。構成を考えてくれている。
『そうだな。まずは、“喜んだのは目の前でなくなったからですか?”』
『“はい”。直接的な因果関係があるわ』
『では、“そうならなくてもBさんの目的は達成されていましたか?”』
『“はい”』
〈抜け道潰しは大事〉
〈一旦ね〉
〈欲しかったものがなくなったから喜んだ?〉
〈Mだったとか?〉
〈なくならなくても大丈夫だったのか〉
〈ほなMじゃないか〉
探りから入る。実は目の前でなくなったことは悲しかったけど、同時に別の嬉しいことが起こっただけ、みたいな可能性もあるから、それを潰しておくのは大事だ。
だけど、仮になくならなくてもBさん的には問題がなかった。ただなくなったことでよりよくなった。……ことはさっきほど単純ではないね。
『細かく詰めるか。“目の前でなくなったことでBさんは明確に得をしましたか?”』
『“はい”よ』
『ふむ。一度状況を洗うか。……“Bさんは何かしらの行列に並んでいましたか?”』
『“はい”。目の前でなくなったというのは、つまりそういうことね』
『つまり搦手ではなく、額面通りのことが起こったわけだ』
〈なんかアンリが探偵に見えてきた〉
〈推理してる感あるな〉
〈ちゃんと推理してるとこんなかっこいいんだなこいつ〉
〈義務教育テスト平均点レベルでも探偵はできる〉
〈やっぱ行列か〉
〈前提は疑わなくてよさそう〉
慎重に進めるアンリさん、ここでは前提が実は意味をなしていないパターンを除いてきた。喜んだのはただの気持ちの問題とか、目の前というのはただ通りかかったときの物理的位置とか、そういうのではない。
ちゃんと起こったことで実利を得ているし、得たものを求めて列に並んでいた。一見するとこれは当たり前だけど……そうなるといよいよ、提示された通りの矛盾に向き合わないといけなくなる。Bさんは欲しいものが自分の番になる前に失われて、それに対して喜んだのだ。
『“なくなったこと自体が直接的に利益をもたらした?”』
『“いいえ”ね』
『それなら、“なくなったことが、Bさんの利益となる何かを引き起こした?”』
『“はい”。そっちでみて問題ないわ』
〈詰め方が丁寧だ〉
〈アンリは手前から順に詰めていくタイプか〉
〈思考が突然かっ飛ぶ天才タイプじゃなくて安心した〉
アンリさんはこう見えて秀才型だ。順序立ててことを進めていくA型タイプで、それを普段は頭の中で進めるから突飛な思考に見えるだけ。ウミガメのスープではこうしてじっくり進めるのも、同期の立場から三ヶ月見てきた私たちからすれば解釈一致である。
進行は劇的ではないけど、着実にわかってきている。「欲しかったことが目の前でなくなったこと」は直接Bさんを喜ばせたわけではなく、あくまで間接的。だからここからはその、「なくなったことで引き起こされた、Bさんが喜ぶこと」を考えればいい。
ここを考えるにあたって、ひとつ欲しい質問がある。
『そろそろこのあたりを聞こうか。“Bさんは最終的に当初の目的を果たしましたか?”』
『“はい”』
『“Bさんが得たものは、当初欲しがっていたものより価値の高いものでしたか?”』
『“いいえ”』
『なら“安いものでしたか?”』
『“いいえ”』
『ふむ。では、“欲しかったものと同じものでしたか?”』
『“はい”』
『考えなければいけないことが絞れてきたな』
『ふろるちゃんはどう?』
「私? 上手い詰め方だなって。たぶん今考えてるところは、アンリさんと同じじゃないかな」
〈つまり?〉
〈結果得たのは元のお望み通りだったと〉
〈やっぱフロルは追いついてるんだ〉
〈顔的にみゃーこも同じところにいそう〉
〈残りの三人見てみろよ、ぽかんとしてるぞ〉
マギにゃはなんとかついてきている様子。陽くん、ゆーこさん、ちよりんは推理を放棄していそうだった。……まあ、私やみゃーこが今ここまで到達しているのは、アンリさんの丁寧な質問あってこそだ。
気にしなきゃいけないのは、Bさんは目の前で欲しかったものがなくなったことで、「その欲しかったものを過不足なく獲得しつつ」「元々より得をした」という点。ではどんな得をしたのかというところを突き詰めると……。
『あったものがなくなって、時間的にむしろ得、ということにはならないだろうから……“Bさんが得たものは、当初そこにあったものより質がよくなっていた?”』
『“はい”』
『なんとなくわかってきたな。これはたぶん、“食べ物ですか?”』
『“はい”』
『二連続で食べ物なんですね』
『問題にしやすいのもあるし、そんなこともある』
〈なくなったからよりいいものになって出てきた〉
〈食べ物だ〉
〈ワンモア食べ物〉
〈入れ替わったってことは鮮度とか?〉
〈みゃーこのそれは作問経験がある人の納得なんよ〉
値段が変わらず、ものも変わらず、だけど客観的に見ても得をしている。つまり質の問題ということになる。そうなるものとしてわかりやすく説明もつきやすいのは、やはり食べ物か。みゃーこも言っているけど、食べ物は問題を作りやすい。決して作問時のルカナさんがはらぺこだったわけではないだろう。
ただ、これでだいたいわかったね。なくなったら同じ食べ物が出てくる。それが新しいものに差し変わるから、取り替える前より美味しいものを入手できる。
『なら、まあこれか。“Bさんがいるのはビュッフェですか?”』
『“はい”』
『もう充分か。『Bさんはビュッフェで目当ての料理の列に並んでいたが、目の前で並んでいたものがなくなって新しいものに取り替えられた』。これでどうでしょう』
『正解。さすがというか、筋道にほとんど無駄がなかったわね』
〈おお〉
〈当てたねえ〉
〈あーそういう〉
〈確かになくなったら出てくるわ〉
〈すごい順当な当て方〉
〈模範解答を見せられた気分だ〉
と、あっさり解答が出た。物語の中の探偵のような奇想天外さはないけど、論理立てての思考がしっかりしている。地頭がいいんだよね。
セレーネ先輩も満足げだ。私やみゃーこは経験があるからわかるんだけど、気持ちよく解かせると出題側も楽しいんだよね。
『“Bさんはビュッフェレストランで料理を取っていたところ、次に取ろうと並んでいた料理がちょうど目の前でなくなったところだった。しかしすぐに新しい料理が出てきて、結果的により温かいできたてのものを食べることができて喜んだ”。……これも100点と言っていいんじゃないかしら』
『さすがあんりさん!』
『得意分野である以上は順当なのですが、なんだか裏切られた気分ですね……』
「でも今アンリさんだいぶ加減したよね。もっと少ない質問数でいけそう」
『得意分野とはいえ、なかなか買い被るねフロルくん』
だって、ノーヒントで私の隠れテトラスを見抜いた人だし。実際のところの推理力はこんなものじゃないんだと思うよ。ただ配信でリスナーがついてこられる速度でやっただけで。
というわけで、両チームともに答えが出せずに困るということは起こりにくそうだ。このままの形で続けてよさそうだね。
……そんなこんなで、予定していた配信時間はあと30分ほど。
『あと二問にしましょうか』
「そうだね、時間もそのくらいだし」
『あれ、そんなに経ってたの?』
『時間がたつの、はやいね……』
『楽しんでくれたようで何よりだけど、こっちは安堵してるわ。なんとか問題数が足りたわね』
『使い尽くしてるのか……』
〈四期生コラボ毎回めちゃくちゃ盛り上がっててよい〉
〈おう既に一時間半以上やってるぞ〉
〈見ながらやってた課題が進まねえ!!〉
〈問題が尽きるレベル〉
〈多めに作ってもらったって言ってたのに……〉
〈途中瞬殺がいくつかあったからなぁ〉
〈大量の良問を爆速で食い尽くしていくアンリとフーみゃ〉
なんと作ってもらった問題がちょうど枯れるらしい。確かにあの消費速度ならそうもなる、アンリさんが三回、私とみゃーこも一回ずつ質問回数一桁で終わらせてしまっているのだからさもありなん。
というところで、セレーネ先輩からテキストチャットのほうで合図があった。これは彼女だけが見ているコメント欄の反応が上々だったことを示すものだ。つまり、
『そしてここで、とある人物に来てもらっているわ』
『お!?』
「というか、実は最初から見守っててもらってたんですけどね。私たちがてんでダメだったとき気まずいので、しばらく鑑賞しててもらってたんです」
『というわけで、作問者さんよ』
〈特別ゲスト!?〉
〈来たか〉
〈作問者呼ぶって話はしてたよね〉
〈ずっと天界視点してたんだ〉
〈愉悦凄かっただろうなぁ〉
〈誰なんだろ〉
彼女を呼ぶことになる。当初の予定だと名前を隠して出題者をやるはずだったんだけど、こっちの事情だからとさらに安全策を強めておくことになって、あとセレーネ先輩がこの配信での存在感を強くしておきたいとのことだったからこうなったんだよね。
ゆえに好評の確認はもうできているということで、いきなり出てくるということになっている。画角の調整はスタッフさんがやって……。
『ファンファンのみなさん、はじめまして。そして……幻の劇場へようこそ。今回お呼びいただいたバーチャル怪盗、片弦ルカナと申します。どうぞお見知り置きを』
「というわけで、セレーネ先輩紹介よろしく」
『個人勢のVtuberで、普段から謎解きをコンテンツにしている子よ。私の最近のお気に入りで、実はこのコラボ自体も彼女を呼びたくて企画したの』
〈お?〉
〈知らない顔だ〉
〈え〉
〈雰囲気あるな〉
〈怪盗さんか〉
〈どこかの個人勢さんかな〉
〈もしかしてPROGRESS候補?〉
〈ルカナ!?!?!?〉
〈ついっとから飛んできました マジか〉
〈ルカナが……電ファンに出てる……!?〉
〈セレーネのお気に入り!!〉
〈ついに見せてもらえた!〉
〈探してたって言ってたもんね〉
〈登録者842人!?〉
〈よく見つけてきたな〉
〈セレーネのリサーチ力ヤバくね?〉
〈マジでどこからでも発掘してくるんだな電ファンって〉
ルカナさん、堂々たる第一声だった。この配信は一枠しか立てていない八人コラボだから、同接は四万人ほど……普段の彼女の同接から見れば500倍以上になるんだけど、そんな緊張は全く感じさせない。
それを受けてなのか、セレーネさんは即座にお気に入り宣言。電ファンがときどき連れてくる個人勢の中でも特に発掘傾向なこともあって、もう全力で庇いに行く様子だけど……コメント欄が見えているはずのルカナさん本人の顔色から察するに、そもそもそんなものは必要なさそうだった。ファンファンはこういう個人勢コラボにも慣れているのだ。




