#126【四期生コラボ】ウミガメのスープvs我らが名探偵アンリ【電脳ファンタジア】
さて、Xデーだ。私たちではなく、ルカナさんにとっての。
「───ってわけで、ルールはウミガメのスープそのものです。ただ、アンリさんは探偵だから特例」
『ああ。私が解くときは一人で、だね』
『ふろるちゃんたちも、問題についてはしらないんだよね?』
「うん。作問についてはセレーネ先輩に任せた上で、外部に委託してるよ」
ウミガメのスープというのは、水平思考パズルの推理ゲームを指す俗称だ。最初に一見すると奇妙な状況が提示されて、回答者は出題者に対して「はい」か「いいえ」で答えられる質問をする。それに対する答えを足がかりにして、問題文だけでは導き出せない正解へ辿り着くことができればクリアとなる。
予告していた通り、今日はこれをみんなでやっていく。特に勝敗を定めたりはせずに、みんなで解いていくだけの形式だ。ただしアンリさんは一度一人で解いて、正解が出なかったときだけ私たちも参加する。アンリさんと他の六人が交互に挑戦することになるね。
「出題者はそのセレーネ先輩がやってくれます。ただ、作問者との通話がセレーネ先輩にだけ繋がっているので、解釈の齟齬とかはないはず」
『ええ。微妙なところを取り違えて詰み、なんてことにはならないから、安心して質問してちょうだい』
〈だいたいわかった〉
〈つまりわちゃわちゃと能力を眺める回と〉
〈いつも通りだな!〉
四期生とセレーネ先輩、計八人がオンラインで集まって通話しているんだけど、この臨時ボイスチャットに作問者であるルカナさんもミュート状態で入っている。それとは別に、セレーネ先輩とルカナさんが通話している状態だ。
だから、最終ジャッジは基本的にもっぱらセレーネ先輩がやる形になる。配信画面の操作はネタバレ防止のためマネージャーに任せてあるから、私たちはただ彼女の目の前で問題を解けばいい。
『まあ、習うより慣れろってやつよ。さっそくやっていきましょうか』
というわけで一問目。まずはアンリさん以外からだ。
なお今回は、コメント欄はセレーネ先輩にしか見えていない。回答者がコメントを参考にしてしまわないためだ。
『作問者曰く、まずはジャブからよ。……“Aさんは店の商品を会計せずに持ち帰ったが、店主は咎めなかった。一体どういうこと?”』
『おお……?』
『これジャブなんだ……』
『結構ちゃんとしたものというか、情報量のそんなにないものが来たな』
〈ちゃんと水平思考だ〉
〈思いのほかしっかり難易度があるな〉
〈電ファンはこういうのあんまりしてこなかったから新鮮〉
〈やっぱりフーみゃゲーになるか?〉
ふむ。確かにフォーマットにのっとった、聞いただけでは有り得なく思える問題文だ。だけど、このゲームは伏せられている情報の中にそれを説明するものがある。
素直に受け取れば万引きということになる。だから考え方は二つだ。みゃーこも同じところまですぐに辿り着いていた。
『とりあえずこれからかな。“Aさんは違法行為をしましたか?”』
『“いいえ”。犯罪、具体的には万引きはしてないわ』
「これ一番大事だよね。今ので相当難易度が下がったはず」
『違法行為をしてないってことは……“Aさんの行為に店主は気付いていましたか?”』
『“はい”』
「そういうことだよね。店主が認めた形で、だけど買わずに持ち帰ってる」
〈真っ先に潰したな〉
〈みゃーこ慣れてる?〉
〈経験者の立ち回り〉
〈まあ万引きでわざわざ問題にしないか〉
〈抜け道を潰しておくのナイス〉
「万引きをしたのに気付かれなかったか見逃された」か、「そもそもミスリードで万引きではないか」。この二択が、今ので後者に確定した。ひとつめにいきなりクリティカルな質問をしたみゃーこのおかげで、かなり考えやすくなったんじゃないかな。
あとは、陽くんの質問では勝手に持ち帰ったわけではないこと、つまり「もってけドロボー」状態ではないことがわかる。無料配布とか、そういうのでもなさそう。
『こういう形で進めるのですね。では……“店主にとって、その商品は惜しいものでしたか?”』
『“いいえ”、ね。持ってってくれて構わないものだったわ』
『えっと……そうだ! “持ってかえったのは、営業時間内ですか?”』
『“いいえ”。時間外よ』
〈これ相当絞れたのでは?〉
〈商品なのに持ってかれていいもの〉
〈ちょうど商品じゃなくなったものとか?〉
〈閉店後だ〉
〈日持ち系っぽいな〉
続けてちよりんとマギにゃが立て続けに。繋げると「店にとっていらない商品を、営業時間外に店主の許可を得て持ち帰った」となる。そろそろある程度見えてきたかな。
『難しいなぁ、こういうの……えっと、“Aさんは店の関係者ですか?”』
『“はい”。ただの客ではないわね』
『“Aさんはお金を払いましたか?”』
『それは“いいえ”』
「そのあたりも大事そうだね。“では、それは翌日の開店時にはもう商品ではなかった?”」
『“はい”よ』
『んー……“持ち帰ったものには値札にシールが貼られていましたか?”』
『“いいえ”よ』
『あれ?』
〈全員ちゃんとできてる件〉
〈電ファンで同期全員が推理できてる!?〉
〈由々しき事態ですよこれは〉
〈学力あんなのな幽子もできてるの何故〉
〈同期にアンリとフロルがいると雑談で鍛えられたりするのかな〉
〈やっぱり商品じゃなくなったパターン〉
〈おや?〉
〈半額惣菜とかじゃないのか〉
立て続けだけど、このあたりから拾い上げるなら……店の関係者、店員とか営業部とかであるAさんが、タダでもらっている。だからバックヤードでお金だけ渡して処理は任せる、みたいなことでもない。これは惜しいものでなかったという点にも繋がる。
続けて、それはちょうど売り物ではなくなったところだった。つまり、時間経過でダメになるものだ。だけど、値引きシールはない。
『整理しとくか。“食べ物ですか?”』
『“はい”。そこは疑わなくて大丈夫よ』
『やっぱり食べ物ではあるよね。だけど値引きとかされてない』
「たぶんこうだよね。“そもそも値札自体がない?”」
『“はい”』
『これ、大筋はわかってて細かいとこ詰めるパートに入ってるよね』
『ルールによっては筋が通ってれば大丈夫だけど、細かく定めに行くならやっていいわよ』
〈食べ物ではある〉
〈まあ使用期限切れの日用品とか店員でも持ち帰らないだろうし……〉
〈フロル動く〉
〈なんか今回フロルなしでもやれそうだったけど〉
〈詳しくいくパターンね〉
たとえばスーパーの惣菜とかなら、その日いっぱいでダメになる。だから廃棄するくらいなら売れ残りは店員が持ち帰ってよかったりする。大まかにはそういう、まかない的な余り物の持ち帰りでいいはずだ。
細部を詰めるというなら、その値引きシールがないところ。これはたぶんそもそも値札をつけている、商品として並んでいる状態ではないものを扱っている。
「つまり、“飲食店ですか?”」
『“はい”』
『ああ、そっか!』
『フーちゃん、やっちゃって』
「うん。『Aさんが持ち帰ったのは、飲食店の保管期限を超過した食材、または料理だった』」
『はい、正解。やっぱり少なくともフロルと都には、もう少し歯応えが必要そうかしら?』
〈外食だったかー〉
〈確かにそれなら値札とかないわ〉
〈みゃーこによるフロルの扱い草〉
〈だいぶ余裕そうだったな〉
〈やっぱセレーネから見てもそういう扱いなんだ〉
〈この二人シンプルに頭いい〉
〈そりゃ普段からマ○クの女子高生しぐさしてたら思考力も鍛えられるわ〉
最初にジャブだと言われたけど、確かにジャブだった。とりあえず、私やみゃーこにとっては。
むしろちょっと寄り道が少なすぎたかもしれない。
『“Aさんは勤務先の飲食店での閉店作業中、期限が今日までの食材を見つけた。店主に聞いたところ持ち帰っていいとのことだったので、自分で食べるために持ち帰ることにした”……ということで、ほぼ完璧ね』
『この二人がいれば負ける気がしませんね』
『私たちがわかんなくても、四期生にはフロルちゃんと都ちゃんがいる!』
「ちよりん、ゆーこさん、丸投げしないで。一緒に解こうね」
〈細かいとこまで当て切ったな!〉
〈まあフロルはこういうの得意よな〉
〈フロルも別枠のほうがよかったのでは?〉
〈放棄で草〉
〈それ言い出しちゃおしめぇよ〉
〈そもそも二人も割とできてたよ〉
と、こんなところ。チュートリアルも兼ねていた一問目はさほど苦戦せず終わった。私とみゃーこは同級生と遊んだことがあって、陽くんも経験があるようだけど、残り三人は初挑戦だそうだからこれで慣れてもらえればいい。初めてと思えないくらい、ちゃんといい質問ができていたと思うよ。




