#125【限定公開】レリシエルさんとの馴れ初め
あ、そういえば。ちょっと寄り道だけど、これは話しておこう。
「こないだ、九鬼朱音さんがDCOの公式配信者に、って発表があったじゃないですか」
〈あったね〉
〈やっぱチェックしてるのか〉
〈もしかして〉
〈DCOやって♡〉
「まあいずれはやる気ありますけど、それがいつになるかは。ベータ応募はしませんし……じゃなくてですね。水波ちゃんが言ってたんですけど、やっぱりあの人がおさななじみさんらしいです」
〈マジ!?〉
〈ちょっとそんな気はしてた〉
〈シオンちゃん言ってたもんな〉
〈確認取れちゃうんだ〉
〈けっこう気軽に明かすもんだな〉
これは私自身は本人から直接聞いたけど、それだけではない。フロルとして知っていて、話していい情報なのかを測りかねて置いていたんだけど、なんと水波ちゃんのほうから話していいとお墨付きがあったのだ。
朱音視点では、もはや伏せておく意味のない種明かし、といったところなのだろう。もしかすると私がいずれDCOに参入するときにそこからコネを作るつもりなのかもしれない。ゲーム強者エピソードには充分すぎるし、九津堂ファンという要素も又聞きレベルで出てもいたから……ああ、「この話が来る前からファンと言っているから、リップサービスではないよ」という主張になるのか。
ちょっとイメージ戦略に利用することになってしまう埋め合わせは、いずれコラボで、みたいなことは朱音はするほうだ。私はどちらにしろ乗っかるだけだけど。
話を戻して次……実のところ、ハウス組については同居状態なこともあって話せることが多すぎるんだよね。試しに誰の話が聞きたいか聞いてみると……コメント欄に多いのは、みゃーことぱーちゃん。
「あの二人についてはちょっと私許してないことがあるんですよ」
〈おっ〉
〈穏やかじゃないですね〉
〈何があったん?〉
「なんかこないだ、私抜きでお泊まり会してて」
〈仲良しじゃん〉
〈あんなにライバル営業してるのに?〉
〈やっぱ仲良しだったか〉
〈それで妬くとかフロルも自覚出てきましたなぁ〉
「それだけなら別に私も何も言いませんよ。だけど二人とも、ずっとそれぞれの知る私の話で盛り上がってたみたいで、それを翌朝わざわざ私に言ってきたんですよ?」
〈草〉
〈密会してて草〉
〈好きすぎだろ!〉
〈なんでよりにもよって本人に自慢するんだよ〉
〈舐められてて草〉
〈愛されてるじゃん〉
失礼しちゃうよねほんと。知らない間にみゃーこしか知らなかった私の失敗も、逆にぱーちゃんしか知らなかった恥も、すっかり共有されていた。
知らないうちにというのが本当に怖いのだ。一体どこまで、どんな語り口で話されていたのやら。まだ目の前で話された方がマシなくらいである。
「なのでここで仕返しします。あの二人、こないだのメリパタイマンのとき肩ぴったりくっつけてプレイしてたのバラしちゃいますもん」
〈そうなの!?〉
〈マジか〉
〈可愛すぎないか〉
〈はいてぇてぇ〉
〈なんだよ……フロル以外でもできんじゃねえか……〉
〈ライバル営業終了のお知らせ〉
〈完全に仲良しです本当にありがとうございました〉
〈恐ろしい仕返しだ……〉
あの二人は最近、私を巡って勝手にライバル営業を始めていたんだけど、そのバチバチ感は完全に作り物なのだ。実際はくっついて寝るし、肩を寄せ合ってゲームをするし、「一口ちょうだい」は私にと同じくらいの頻度でする。端的に言えばかなり仲良しだ。
だからそれをバラしてやることにした。正直可愛すぎて即暴露を考えたんだけど、そのときは我慢したのだ。だけど、そんな形でハブってくるなら、ねえ? 私の方も考えがあるよということで。
〈ちょっと待てフロルにと同じ頻度?〉
〈フロルもやってるんですね???〉
〈あーんするとかデキてるじゃん〉
〈フロルはハーレム全員に気軽にあーんしてそう〉
〈ポリアモリーってこういうことか〉
ふふ。そこはご想像にお任せします。
……そんな感じでしばらくとりとめもなく話していたら、彼女は現れた。
〈*Reliciel ch. 【@Project】:クラ限で仲間の話いいなあ、まねしていいですか?〉
〈!?〉
〈なんかいるゥ!?〉
〈えっ今日そういうのない日なんじゃ!?〉
〈電ファンライバーは来れない(Vtuberが来ないとは言ってない)〉
「えっレリシエルさん!? ファンクラブ入ってたの!?」
不意に流れてきたその名前は、私からみれば同僚ではない同業者だ。名をレリシエル、活動歴的には私より一年ほど先輩ということになる。
彼女は現在Vtuber業界で人気を分け合う事務所である『@Project』の所属だ。あちらは電ファンと比べるとややアイドル路線にも強くて(とはいえ本格的にアイドル売りをしているというほどではないけど)、あくまで比較の上では電ファンよりはまともな人が多い。少なくともMC適性者がいなくてデビュー二ヶ月ちょっとの新人に公式番組を預けたりはしない。
レリシエルさんもまさしくその口で、たぶん彼女が電ファンにいたら余裕でナンバーワン清楚だろう。ちょっと心が広すぎて慈愛に満ちすぎているから、ツッコミは鋭くないくらいだ。……そんな彼女が@プロではボケ側なほうと扱われているあたりで察してほしい。
ただ、そんなレリシエルさんと私は、Tsuittaが相互で何度かリプライを送ったくらいの関係しかないはずだった。当然、私のファンクラブに入っているだなんて……というか、たぶん今日入ったのだろう。加入者の一覧は別にじっくり見ているわけではないけど、さすがに目立つ名前があればたまの流し見で気付いているはずだから。
「えっと、このクラ限に隠れての仲間の話? 真似というか、別に私が権利主張したりするようなアイデアでもないですし、ぜんぜんやっていいと思いますけど……」
〈*Reliciel ch. 【@Project】:やった。こんどやろ〉
〈ああ……あとプロもやられるのかこれ……〉
〈被害者が増えた〉
〈そっかフロルとレリシエルの共通点ってそこか〉
〈まあ確かにフロルがどうこう言うことじゃないけど〉
〈フロルが止めなかったから恥を晒される子もいるんですよ!〉
いやだって、実際のところ@プロも本質的にはそういう感じだし。いいかなって。
と、そう。このレリシエルさん、慈愛担当と呼ばれているしそれは事実なんだけど、同僚大好き属性という私との共通点があった。確かにコレを@プロで誰がやりそうかといったら、満場一致で彼女なのだ。
「それにしても、なんでこんなところに……確かにウチも@プロも、入っちゃいけないのは自箱のファンクラブだけですけど」
〈ほんとそれ〉
〈同類だと思われてそう〉
〈同僚スキーとして参考にされてるとか〉
〈*Reliciel ch. 【@Project】:しんぱしー〉
〈マジで仲間認識じゃん〉
「そんな。私と同類扱いだなんて、レリシエルさんに失礼……本人が認めちゃってるし」
〈フロルはそれでいいのか〉
〈自分のことなんだと思ってるんだ〉
〈*Reliciel ch. 【@Project】:あと元スタッフならではの気配りと立ち回り、いいなーって参考にしてます〉
私は自分の立ち回りを悪からぬものだとは思っているけど、@プロみたいな綺麗なところ(当社比)と比べたらちょっとアレというか、迷惑かけかねないと思っているよ。電ファン自体が良くも悪くもアレだってことは忘れちゃいけないし、たぶん私が@プロに混ざったらツッコミなんてせずに済むと思う。
と、そうだ。せっかく来てくれたんだから。
「よければ今度コラボとかします? 今月は詰まってるので少し先にはなっちゃうんですけど、私もそろそろ箱外コラボ考えてて」
〈今!?〉
〈草〉
〈クラ限でコラボ勧誘する女〉
〈この時点で電ファンクオリティ〉
〈これほぼ最低値だぞ〉
〈*Reliciel ch. 【@Project】:やりたい!!〉
〈おお乗り気だ〉
〈これは見てみたい〉
〈待ってます〉
〈*Reliciel ch. 【@Project】:でも初めてなんですか? みくりんとかは〉
「正確にはママとか水波ちゃんとかはいましたけど、外のVtuberは初めてです。……みくりん? いえ、特にそういう話は。DM開いてすらないです」
〈ないんだ〉
〈みくりんあの反応しといて話してないのかよ〉
〈*Reliciel ch. 【@Project】:あの子ったら……〉
〈ママモード出てる〉
〈同期相手なのに……〉
〈*Reliciel ch. 【@Project】:つれていきますね〉
〈強☆制☆連☆行〉
〈まあみくりんヘタレてるし〉
私のことをファンクラブに入るくらい気にかけてくれているようだし、コラボを持ちかけてみる。電ファンと@プロはかなりの高頻度で混合コラボが発生しているから、向こうが乗ってさえくれば障害は何もない。
即答で乗ってきてくれたから、計画しておこう。……と思っていたら、みくりん……リオネッタ=御厨の名前が出てきた。私はオリ曲の踊ってみたショートを出して、あちらは私の30万人配信に来てくれた間柄の、レリシエルさんの同期だ。裏で先にコラボ予定が立てられていると思われていたらしい。
実際は個人どうしではチャットもないと明かしたら、呆れた様子のレリシエルさんが連れてくることになった様子。となると……けっこう私のことを気に入ってくれているのかな、同期にヘタレ扱いされるくらいには。
とはいえ、今月中はちょっと予定が埋まっているから、少なくともルカナさんのウミガメコラボが終わってからになるだろう。……私の方からも誰が連れて行って二対二にした方がいいかな?




