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【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト5:はじまりの六人と勧誘大作戦
121/141

#121【朝活】みんな! コーヒーは持ったか!【月雪フロル / 古宮都 / 電脳ファンタジア】

〈飯テロやめろォ!!〉

〈朝っぱらからそんな美味そうなもの描くなよ……〉

〈オシャレすぎるだろこのアルラウネ〉

〈食事を見せるときに写真じゃなくて絵を使うやつ初めて見た〉


 年明けからは自由登校だから私自身のスケジュールは平日でも変わらないようにできるんだけど、これは配信だからやはりリスナー側の都合というのもある。平日の午前九時に朝活、なんてやっても見られない人が多いだろうけど、土曜日なら問題ない。

 というわけで今日はゆったり九時から一時間。いつもは雑談くらいしかできないものだけど、これならやろうと思えば軽く歌うくらいはできるかな。やるかは決めていないけど。


 せっかく時間があったから、今日は共用のほうのキッチンでイングリッシュマフィンを焼いてきた。電ファンハウスは大所帯ということもあってスタッフが誰かしらリビングにいて、生活力のないライバーたちのためにトーストくらいなら焼いてくれるんだけど、私はだいたい自分で作る。

 それを部屋に持ち帰ってきて、思いつきで三分くらいでスケッチした。写真に撮るより味が出ると思って、そのまま配信画面に。……この時間って飯テロになるのかな、朝食にはけっこう遅い時間だと思うんだけど……ああダメ、「まだ入居ライバーの半分は降りてきていない」は禁止カードだ。


「……私ももうここ来て一ヶ月だけどさ、ほんといろんなものあるよね。冷蔵庫に普通にスモークサーモンあったし」

「冷凍庫にシーフードミックスもあるから、それ使うかも迷ったんだけどね。わざわざ解凍するのもアレだし、まあいいやって」

「わざわざポーチドエッグ作っといてそれ言う? こんな小洒落たの初めてだよ私」

「オランデーズソースは諦めたから。星夜さんがいろいろ教えてくれてね、このくらいなら」


〈キラキラ女子すぎる……〉

〈イングリッシュマフィンがあるとしていったい何人のライバーが使うのか〉

〈そういや星夜こないだマリネ作ってたな〉

〈どっちにしろオシャレなのでは?〉

〈むしろ面倒なことしてる〉

〈御門星夜と半同居してるってアドなんだなぁ〉

〈他のライバーは……〉


 ちょうどばったり会ったからそのままみゃーこと一緒に作って、流れで私の部屋に来て一緒に配信を始めている。そのくらいの自由な展開は普通に起こる場所だ。少し遅れて降りてきたマギにゃはまだ寝起きでぽやぽやだったから呼んでいないけど、ついでに一人分余計に作って置いてきた。

 やっているうちにちょっと楽しくなってきて、星夜さんが使った余りのスモークサーモンにポーチドエッグを添えてエッグベネディクトまで作ってしまった。まあ見事なカリカリベーコンとスクランブルエッグを作っていたみゃーこのも羨ましくなったから、半分ずつにして交換だ。


「……これ美味しい。今度作り方教えて」

「うん。そんなに難しくないから、みゃーこならすぐできると思うよ。……ん、みゃーこ腕上げたね。とろとろ」

「フーちゃんがいつも目に見えて凄いの作るから、少しでも追いつこうと思って練習してたの。蓋を開けてみたら御門先輩はズルいよ」


〈距離感がナチュラルすぎない?〉

〈もう姉妹じゃん〉

〈フーみゃのいいところが詰まってる〉

〈この実在感がいい……〉

〈なんて気の置けない関係〉

〈*マギア・ワルプルガ -Magia Walpurga-:わたしにもおしえて〉

〈*マギア・ワルプルガ -Magia Walpurga-:おいしい〉


 うん、マギにゃもね。……それか、三人で星夜さんに教わりに行ってもいいかもしれない。

 今の私たちは声色以外はほとんど素でただ会話しているだけだけど、ことみゃーことの二人のときはそれにこそ需要があるらしいことはなんとなく察している。普段の配信中ほどテンションを上げていなくてもコンテンツとして成立するから、私たちとしても楽だった。






 食べ終えて、そのまま少し冷めてきたホットコーヒー片手に雑談。


「そういえば、リビングのノートPCの話ってもうしていいんだっけ」

「うん。むしろ泣き付かれて即決したらしいよ」

「まあ、そりゃそっか。スタッフさんからしたら降って湧いた救いでしかないし、楽になるだけだもんね。オーディションの審査の一部をライバーが請け負うなんて」


〈おや、何の話だ〉

〈ノートPC?〉

〈ライバーに泣き付くスタッフ陣〉

〈!?〉

〈そんなことするの!?〉


 昨日の配信前にしていた、一部の選考にライバーが意見を出すという話だ。さすがに運営に一度話を通さないといけなくて、とりあえず「そうなるかも」的な張り紙とともに気の早いスタッフがリビングに再生用のノートPCを置いていた。それをみゃーこはもう見ていたようだ。

 結果としては部長が泣いて喜んだことでほぼ即決。今朝の時点で既に形になっていることを私たちは確認していた。


「こないだハルカ姉さんとオーディションの形式について話しましたけど、そのうち二次選考ですね。ありがたいことに今回ほんとうに応募が多いとのことで、担当スタッフが『一度保留枠を作って当落線上の応募は後で落ち着いて考える』とやり出しまして」

「その保留箱をハウスのライバーが見て、任意で意見するって話になってるんです。ぶっちゃけ一人一人の権限はほとんどないですけどね」


〈なるほど〉

〈つまり当落線上ならライバーに見てもらえる!?〉

〈それが即決になる信用があるのが電ファンよな〉

〈まあ参考程度か〉


 どうやら夜なべしてシステムを作ったスタッフがいたようで、並んだ応募動画とそれへの評価論評システムができていた。よほど嬉しかったのかもしれない。せっかく減る負担を前に一晩がっつり負担を受けるくらいには。

 動画ひとつひとつにフォームが用意されていて、そこにライバーが記名しつつ五段階評価とコメントをつけられるようになっていた。合否のチェックでなく緩やかな段階評価であることからもわかる通り、あくまで参考程度だ。

 ハウスに来さえすれば住んでいないライバーでもつけられるし、それらの合算がそもそも参考止まりだから一人一人の意見はさして強くない。一人が強く気に入ったり首を傾げたりしても、あくまで最後に参考のひとつになるだけ。……ライバーは自身がオーディションかそれに類する目利きを通ってきたとはいえ、選考者でもないし責任も持てないからそのくらいでいいと思う。


「私たち的には『この子いいかも』を探すちょっとしたスコップ作業でしかないとはいえ、もしそれがモチベーションになるならそれもまた八卦ということで」

「でもさ、それでモチベになって応募数がさらに増えたら本末転倒じゃない?」

「そのときはまあ、みんなでちょっと追加で頑張ろうってことで。オーディションとしての質は上がるわけだからね」




「あとは……やっぱりミラーリング?」

「たくさん触ってもらえてありがたい限りだよね。最近の流行りからはちょっと外れてるのに」


 ミラーリングは公開から三週間ほどになるけど、話題が話題を呼んでくれたのか現時点で500万再生を突破している。同業者を中心にショート動画で踊ってくれていて、そこから流入してという好循環に乗り始めている様子だった。

 ダンスナンバーとしてはちょっとハイテンポかつダークなロック系で、再生時間も三分半以上というやや売れ筋の外の曲なんだけど、ImitateAliceらしさを優先しつつも伸びてくれて作曲者も一安心していた。私たちは伸び具合にかかわらずそれでいいと思っていたけど、作った本人は気にしていたようだ。


〈*ANZ:どうかfullのダンスを……!〉

〈本物!?〉

〈ついにANZまで来たぞ〉

〈なんでも来るなこのチャンネル!?〉


「フーちゃん、すごいねこのチャンネル! 歌手、プロゲーマー、声優ときて今度は踊り手だよ。次はどんな人が来るんだろうね!」

「少なくとも今は他人事じゃないよみゃーこ……。フル版は、出るとしても三月のライブの後になるかと。需要さえあればたぶん出せはします」


 元旦にセレーネ先輩には冗談で言われていたけど、本当に来てしまった。ANZというのは踊り手兼振付師のユニットで、AZukiさんとkareNさんの二人組だ。私がこの間撮ったデコイの振り付けも彼女たちのオリジナルだった。

 振付師としてはまだまだ駆け出しとのことだけど、電ファンは今後を見据えて声をかけようかという話になっているらしい。問題があるとすれば、SNSでの発言的に二人ともおそらく高校生であることか。


 そんなANZに欲しがられたミラーリングの全編ダンスカットだけど、初披露を春の感謝祭の中でやるライブで予定しているから今はまだ公開できない。その後ならたぶん、スタッフがこれを嗅ぎつければ出すことになると思うけど。


「頑張った甲斐があるね!」

「まあぶっちゃけ歌より苦労したからねー。完璧に合わせないとカッコ悪くなるタイプのやつだし」

「歌のほうは……フーちゃんは見てる? リアクション動画」

「めちゃくちゃ見てる。これまで他人事だったけど、嬉しいねアレ」

「あと初見演奏系!」

「もう自分たちの結晶が楽しまれてるだけで救われてるのかもね。普段の三倍厳しかったディレクションも報われるよ……」


 ありがたいことに、楽曲に対するリアクション動画も早くもいくつも投稿されている。さすがに作品としてのクオリティには自信があったけど、ボイストレーナーなんかにもベタ褒めされるとかなり気分がよかった。凄いよねあの手の人たち、狙ってやったこと全部言い当ててくる。

 さらには初見ドラムやピアノのような楽曲そのものの再コンテンツ化も。これまでカバーだけだったけど、オリジナル曲だと自分たちの子供かのような愛着が生まれるものと私たちは知った。

 もう少しだけ待っててね。もう一曲も合わせてもっと仕上げて、感謝祭で魅せてあげるから。

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