#120【#創建組】試合に勝って勝負に勝って魔性に負けたパンドラ【電脳ファンタジア切り抜き】
「か……勝った……?」
「どういうこと……? 金鉄とはいえフロルちゃんに勝てるなんて……」
「二人は私のことなんだと思ってるの?」
いい勝負だった。三チームがしっかり接戦を演じて、最終的には二位。優勝はアリエッタ姉とぱーちゃんのペアだった。
しかしこの二人、勝てるとは全く思っていなかったとでも言いたげだ。研究し尽くしたガチ勢がどうかは知らないけど、私たちのような素人の場合は運のほうが大きいくらいのゲームバランスで誰でもチャンスがあるものなのに。
「ハルカとペアとはいえ、それでもフロルちゃんに勝てるとは思ってなかったよ」
「私のことはなんだと思ってるのかな?」
「だってハルカ、ドヤ顔で引き継いでから流れるように最下位に痛い痛い痛い!」
「でも実際ハルカはだいぶオモリでしたよ」
「まあ……フロルが口出してたときとそれ以外で相当くっきり明暗が分かれてはいたような……」
〈容赦なくて草〉
〈ハルカさんさすがに言い逃れは無理ですよ〉
〈事実陳列罪〉
〈アリエッタ……いい奴だったよ〉
〈星夜にまで言われたらおしめぇよ〉
〈まあ実際そうだった〉
〈金鉄に下手はある〉
〈*芥 叶夢 - Tom Akuta:天災はいる、悔しいが〉
〈人災だろ〉
そしてアリエッタ姉のこの物言いには今度はハルカ姉さんがご立腹。無理もない……とはいえ、こればかりは私も否定できなかった。なにしろ決算の折れ線グラフで目に見えて出てしまっている。
ハルカ姉さん、すごろくは極端に苦手みたいだ。虜になりそうなほどすっごくいい顔で「あとは任せて」と言いながら明らかに行ってはいけない方に向かっていったり、無自覚のままひたすら確率の低い方ばかり選んでいたり。
私たちは「金鉄はカジュアル的には運ゲーだが、選択肢を間違えればその限りではない」ということを学んだ。……まあ、翻して私に助けを求めてくるときの情けない表情はすごく可愛かった。
私を置いてアリエッタ姉の頭をぐりぐりしに行ったハルカ姉さんに入れ替わるように、私の背後を取ったのはぱーちゃんだった。何をするかと思えば、ハルカ姉さんとほとんど同じ形で抱きしめてくる。時は2030年1月、あすなろ抱きと呼ぶのはさすがにもう古いかな?
「……ふむ、ぱーちゃんの方が力加減は優しくてゆるっとしてる」
「そーお?」
「何をレビューしているんだフロル。パンドラもそんな声ハヤテ相手にすら聞いたことないぞ」
「星夜さん知らないの? こんな距離感でぎゅってしてくれる相手が何人もいるのはすごく恵まれたことなんだよ?」
「君の場合はあと五人くらいはいるだろ」
〈ハグ評論家月雪フロル〉
〈とろっとろじゃん〉
〈はいてぇてぇ〉
〈ぶっちゃけ一番ナチュ感あるのはパンフロなのよ〉
〈ぱーちゃん普段は優しいから〉
〈後ろ抱きされることに本当に一切違和感を抱いてないの良すぎ〉
〈そうだぞ星夜〉
〈そうだぞフロル〉
まあね、私からすればぱーちゃんも実はそこそこ特別な相手だったりするから。一緒にいた期間が長いのはエティア先輩だったり、一番打ち解けているのはみゃーこだったりはするけど、ぱーちゃんはハルカ姉さん以外で初めて私を全面的に受け入れてくれたひとだ。だからデビューを断ったとき、一番心苦しかったのは彼女に対してだった。
許してくれるとわかっていたから気まずくならなかったハルカ姉さんとどちらの方がいい関係なのかはなんとも言いがたいけど、今となっては親友と呼んで差し支えない。近しいからこそ距離感がわからなくなって怖くなることって、あると思うんだ。
「星夜さんもしてみる?」
「炎上させたいのか?」
「私的にはイトコのお兄さんとじゃれるくらいの感覚なんだけど」
「おじさんじゃなくて?」
「そこまでの貫禄は……げふんげふん」
「言いたい放題だな君たち」
〈おうずるいぞ星夜〉
〈敵だったか……御門星夜……〉
〈イトコ距離感よい〉
〈パンドラ……w〉
〈フロルさん?〉
〈フロルがここまで言う間柄なんですね!?〉
〈秘蔵っ子組の絡みもっと見せて〉
ほら、私数百歳だから。……というのを置いておくと、もはや存在に慣れすぎて距離感に遠慮の必要を感じないんだ。そのうち変わるとは思うけど、今のところは同期の陽くんより気を許せていると思う。
実際、別に私から見て完全に恋愛の対象外とはならない程度には歳も遠くない(というか、発足三年の電ファンには今のところ三十路を過ぎているライバーは一人もいない)から、威厳とまで言えるほどのものはなくて当然だった。……だからこそ確かに炎上リスクはあるんだけど、別に星夜さんと私の空気感ならそうは見えないと思うよ。
「でもそういう意味では、私から仕掛けたほうがいいのか」
「勘弁してくれ。俺はまだ引退したくない」
「兄妹にしか見えないと思うのになー。ま、精神的にもはや家族ってだけの話だよ」
「それは同意する。さすがに近くにいるのが当たり前すぎるというかな」
「……ふーん」
「ぱーちゃんの場合は、いま近くにいるのがうれしい」
「……!」
「見たか皆、あれが魔性の女だ」
〈いいぞやれやれ〉
〈燃やさないからやって♡〉
〈三年も半同居すりゃそうだわな〉
〈ハウス組距離感いいぞ〉
〈ぱーちゃん……〉
〈ぱーちゃんやきもち〉
〈うおっまぶしっ〉
〈ぱーちゃん陥落〉
〈お、恐ろしいものを見てしまった……〉
〈これはImitateAlice〉
まあ、さすがに本当にやったりはしない。私だって杞憂させるつもりはないからね、冗談で済む範囲は守るよ。自然な距離感くらいは見せるけど、まあハイタッチや手繋ぎくらいかな。
もちろんぱーちゃんの好感度上げ……冗談冗談、対応も忘れない。というか紛れもない本音だからわざわざ何か意識して言う必要もないし。これまでよそにいたのは私のせいだし、これからは一緒にいるし、いくらでも取り戻せるだろう。もしかすると一生ものの関係なのだ。
……だからこの、ぱあっ、と効果音がつきそうなぱーちゃんの反応も私にとっては嬉しいだけだったんだけど、星夜さんとコメント欄の反応はちょっと心外だった。私が魔性ならイミアリの他のメンバーは何なのさ。
「同格だよ」
「ロリの自覚も魔性の自覚もないのか……」
「この子に人気者の自覚だけでもつけさせたハルカってすごいんですねー」
「わ、私はただ自分のことをニュートラル寄りな女の子だと思ってただけで」
「「「「「あれで?」」」」」
「…………」
〈うわぁ……〉
〈両立してるだけで奇跡なのに〉
〈自覚以外の全てがある女がよ……〉
〈ニュートラル???〉
〈草〉
〈嘘だろ……〉
〈ハモってて草〉
こまち姉どころか背景でじゃれていた二人まで戻ってきて、五人がかりでここまで突きつけられると、さすがに心が折れるね。私の負けだ、今後はちゃんとロリも魔性も自覚していこう。
というか、ね。何も私も属性自体を認識していなかったわけではなくて。その二つが相殺してしまっていると思っていただけで……。
「ママは別に何の反応もしてきてなかったし、みゃーこも一緒にいて比べられなかったし、近くに似た属性の子がさらにもう一人いたから……」
「環境のせいだったかー」
「都とお互いに自分と同じだから普通認定してたわけか」
「確かにsperちゃんはそういうのあんまり言葉にしないよね。代わりに絵に出る」
「もう一人いるんですか……?」
〈特徴が溶けてたわけか〉
〈傍からは濃いの二人組に見えてたのでは?〉
〈類友だった〉
〈sperは指摘せずに美味しい思いをしたまま絵にするって配信で言ってたな〉
〈もう一人!?〉
〈そいつもスカウトしてきて♡〉
無理だよ、いつの間にか公式ゲーム配信者になることになってたし。そもそもあの子、私たちから見れば親会社のオーナーのご令嬢である。
……結果的に同業に近くなった今となっては、スカウトすれば面白くはなってたのかな、と思わなくもないけど。でも周りに九津堂の関係者が固まっているし、向こうは向こうで既定路線だよね。
……待って、こないだのソロ配信でママそんなこと言ってたの?
いや予想はついてたけどさ。わざとと言われると、ちょっとフクザツなものが。