#110【雑談コラボ】後方腕組お姉ちゃん面に凸ってぎゅー【明日ハルカ / 月雪フロル / 電脳ファンタジア】
〈確かにずっと待ってたけど!!〉
〈トケル……トケル……〉
〈ちょっと供給激しすぎないですかねぇ!?〉
「そうかな? いつも通りだけど」
「みんな勘違いしてますけどね、私はハルカ姉さんのこと本気で好きですからね」
〈いつも通り!?〉
〈これが!?〉
〈本気で好き発言いただきました!!〉
〈マジ助かる〉
〈最高ですありがとうございます〉
〈地味にハルカ姉がここまで素でべたべたするの珍しいぞ〉
ちょっとね、そろそろ我慢がきかなかったんだ。
実は私、明日ハルカガチ勢なんだよね。デビューからこのかた三ヶ月近くあんまり接触されないままでいたら、自分からコラボを持ちかけて突っ込んでくっつくくらいには。
ハルカ姉さんのやりたいことを尊重したかったからこれまで動いていなかったけど、さすがにそろそろ我慢の限界。後輩にとっての「大きなお姉ちゃん」でいたいという思いは尊重するけど、私はそろそろこれまで通りを求める権利を行使する。
「そもそもですよ。私はハルカ姉さんに精神的にどん底から引っ張り上げてもらったんです。連れ込んでもらえなかったら、今もからっぽのまま適当に……ライバーなんて知りもしないまま生きてましたから」
「私は全ての弟妹を愛しているつもりだけど、電ファンの中でここまでちゃんと甘えてくれるのはフロルちゃんくらいなんだよね」
〈まあガチ恩人だもんなぁ〉
〈フロルに対するルフェみたいなもんか〉
〈だからこそどこか節度があるわけだ〉
ライバーになったどころか電脳ファンタジアと出会ったこと自体、それどころか上京してきて今の友達に出会ったことすら全部ハルカ姉さんが誘ってくれたおかげなのだ。もしそれがなければ、双葉やことりほどの親友は一人もいない地元で、少年劇団もオーディション参加もやめて味気ない人生になっていたことだろう。……今となっては、考えたくもない。
だから今、ハルカ姉さんの部屋でこうして背中から抱きついてくっつきながら雑談オフコラボをしていても何もおかしくない。コメント欄に需要も見てとれたし、もちろんアポは取ってある。
〈*白雪詩:どっちもズルい!! そこの隙間に挟まる!!〉
「おいでー。今度またコラボしようね」
「三女は真ん中、相場だよね」
〈姫、ご乱心〉
〈百合の間に挟まる妹〉
〈姉と姉(概念)の間かぁ〉
〈ここに挟まる権利があるの全宇宙で姫だけだよ〉
詩、ご案内。今日はどこかのタイミングで来ると思ってたよ。私も積極的に挟まりに来てほしいし、案外できていない三姉妹(後天的)での絡みもしたい。
ハウス的にも詩にはフリーパスが交付されているから、前回は不在だったマネージャーさんともども好きなときに来られることになっている。ときどき言い出すようになってきた「そこに住む」が本気で問題もないなら、こちらとしては特に否やはないのだ。
「コラボといったら、最初の六人でのコラボもしたいな」
「みんな待ってたからね、近々しよっか。次にスケジュールが合ったときにでも」
最初の六人というのは、電ファン設立時に集った元個人勢である0期生の三人と、そのそれぞれがスカウトしてきた「秘蔵っ子組」と呼ばれる三人の組み合わせのことだ。私が固辞していなければ、本来はそこにオーディションから採用された三人を加えた九人で始動する予定だった。
ハルカ姉さんと私、アリエッタ姉とパンドラ先輩、そして七歌こまち姉と星夜先輩の六人だ。多忙もあってハルカ姉さん以外の0期生とはまだ表立って絡めていないけど。
「ちなみに六人でやる歌ってみたの曲はもう決まってるから」
「え!?」
「フロルちゃんがデビューしたらこれやろう、って五人で話してたんだよ」
「二年半も待たせたのに、一体いつからそんな話してたのやら……」
「星夜くんとパンドラちゃんにはデビューを賭けた勝負をしてることまでは伝えてあったからね」
〈諦めろフロル、君の負けだ〉
〈用意がよすぎるだろ〉
〈当然のようにデビュー前提で話してて草〉
〈まあ決定権は所属ライバーにあったし……〉
〈星夜はデビュージャッジのときどんな気持ちで聞いてたん?〉
それは初耳。イタズラは成立していたから本当に勝負の存在までだったんだろうけど、星夜先輩はあの日集められた時点で全てを察していたということだろう。どう思われていたのやら。
〈お互いの第一印象は?〉
ちょっと質問募集してみて、拾ったのがこれ。馴れ初めについてはちょっと話せないからね。血縁関係にあるから親戚の集まりで会った経緯を、どうすれば人間とアルラウネに落とし込めるかの答えは未だ出ていない。
そんな流れと大伯父の家という背景を消して、できるだけイメージを森の中に書き換えて。
「この子たちだ、って思ったね。この子たちが私の妹だったら、どんなに幸せだろうって」
「一目惚れ?」
「うん、ビビっときてた」
「そっかぁ、そんなに見蕩れられちゃってたなら仕方ないかぁ」
〈ハルカさん……〉
〈完全に不審者です本当にありがとうございました〉
〈それが最初だったのか〉
〈全ての始まり〉
〈出会ってなければ明日ハルカはこんなことになってなかったし、電ファンもなかった〉
〈嬉しそうですねフロルさん〉
そりゃ嬉しいよ。想像してみてよ、推しに「一目惚れだった」って面と向かって言われたらどうなる?
溶けるよ。たぶんガンに効く。そのくらい健康にいい。
と、そう。聞く感じでは、そうなんだよね。ハルカ姉さんはあの場で私たちと会ったことで新たな内なる自分に目覚めたらしい。それが拡大解釈されてキャラになったことを思えば、引き伸ばせば私たちと出会っていなければ電脳ファンタジアそのものがなかったかもしれない。
ハルカ姉さんは個人勢時代から「全人類のお姉ちゃん」というパンチの効いたキャラで人気を集めたわけだから、そもそもそれが目覚めていなければどうなっていたか。……といっても、結局ここまで成功を収めて事務所設立まで辿り着いて軌道に乗せたのは本人だから、私が誇ったりする気はないけど。
「フロルちゃんは?」
「私は……正直、最初はちょっと怖かった。パーソナルスペースがね、最初から今と同じだったからね」
「でも今はこんなに受け入れてくれちゃって」
「吊り橋効果って凄いよね。詩はずいぶん早くから私にとそんなに変わらないくらいべったりだったけど」
〈よかったフロルの感覚は正常だった〉
〈初対面からゼロ距離は怖すぎん?〉
〈ハルカ姉……〉
〈吊り橋効果か〉
〈燃え尽きた直後って話だもんなあ〉
〈そりゃ惚れますわ〉
〈姫もしかしてチョロ……〉
〈*白雪詩:無礼者は10分コメ禁です〉
ちなみに詩は私のチャンネルのモデレーター権限を持っているから、発言には気をつけてね。配信が終わってもそのままだったら私が釈放してあげるけど。
それはさておき、さすがに私たちのほうはいきなりべったりとはいかなかった。小学生くらいの子供ってけっこう、怖いもの知らずでありつつも警戒心が強かったりするじゃない?
だからしばらくは「優しいけどちょっと怖い親戚のお姉ちゃん」だったんだけど、夢を諦めたそのときに声をかけてくれたときは本当に救われた気がしたんだ。自分が見失った自分の価値を示してくれて、誇張抜きで人生変わったからね。
結局私のほうが怖気付いて時間がかかったわけだけど、その間も私にとってハルカ姉さんは心の拠り所だった。大した挫折も嫌な思いもなかったのに週に一度はべたべたしに行っていたくらいだから、我がことながら筋金入りだ。
「そんな私からもう半年近く、後方腕組お姉ちゃん面で月に一度しかくっつかせてもらえなくなったらどうなるでしょう?」
「禁断症状が出てコラボ配信になるんだ」
「そういうこと」
〈そういうことだったのか〉
〈そりゃ辛くなるわ……〉
〈罪深いぞハルカ姉〉
〈もっと軽率にイチャつけ〉
後方腕組お姉ちゃん面そのものが私をデビューさせることに成功して「見なよ……オレのフロルを……」になっていたことが原因なのは百も承知だ。だけどねハルカ姉さん、一度拠り所になったものって案外離れられないものなんだよ。
幸い、たぶん今後はもう完全に離れる必要はない。ハルカ姉さんも私も電ファンから出ていくことはまずないだろうから。お互いに引退もまだその可能性を考えてすらいないし、好きなだけくっついていていいということだ。
「とりあえず配信が終わるまで離れる気ないから」
「いいよ、そのまま泊まっていっても」
「そこまでは準備してないからどこかで接触を解除しないと」
「ついて行って半径三メートル以内にはいるよ」
〈え、誰これ〉
〈ドロ甘じゃん〉
〈これ本当にフロル?〉
〈こんなデレデレのフロル知らない〉
〈もしかしてあの六人全員負けヒロイン?〉
そんなつもりは別にないけど、ハルカ姉さんはもはや別枠というか、そもそもそういうカップリングの概念の外なんだよね。本当にお姉ちゃんというか。
他のみんなも、普通なら誰か一人を選ぶのが誠実というものではあるんだけど……ほら、私たちライバーだからさ。今のまま振る舞うのが六股ということになって、それが面白くて全員幸せなら、それが一番いいかなって。たぶん現役でいる限りそれが一番いいし。