#100【電ファン切り抜き】デビュー3年弱、ハヤテ初の本気ゲーム【#電ファンde年越し2029】
さて、キッチンから逃げてきて、次。……あれ? 星夜先輩の枠のコメント欄のみんなに頑張って突っ込んでもらおう。
とりあえずあの、あまりにも盆と正月に集まった親戚感を漂わせすぎているところからいこうか。こういう雰囲気というか、3Dだからこその動きや距離感には確かに需要があるよね。
「そうだよね、クラブラってこういうときにやるゲームだよね」
「フロルちゃん、百人組手は楽しかった?」
「そりゃもう。……久々のハウスは楽しい、アリエッタ姉?」
「めちゃくちゃ楽しい……けど代わりに個性をひとつ失ったんだなって実感してる」
「それ気にし始めたらおしまいだと思うよ」
〈そうだぞ〉
〈e-Sportsではあるから……〉
〈まあライバーはパーティゲームしてなんぼだよね〉
〈フロルのも一応オリジナルルールだったけど〉
〈アリエッタさん……〉
〈芸人根性が染み付いてやがる〉
〈電ファン結成前はこんなんじゃなかったのにな〉
ハウス出禁ってそんなに個性というほど個性じゃないと思うし、ほぼ形骸化していたし。気にしているのは本人だけだったとは思う。自身の秘蔵っ子であるパンドラ先輩がハウスに来たタイミングでの解除はちょうどよかったんじゃないかな。
この人、デビュー当初はちゃんと清楚系で売っていたんだけどね。今となっては電ファンにガチ清楚は存在しない始末だ。どうしてこんなことに。
「五期生には清楚が欲しいなぁ」
「ボケない清楚が電ファンに来てくれるとでも?」
「悲しいこと言わないでよ」
「今日だって競合他社は年越しライブで俺たちはフリータイムだぞ」
「いいもん……イミアリのオリ曲で度肝抜いてオリコン入るもん……」
「入ったところでリリりでの芸人具合を見られて終わりだと思う」
この人たち、自分たちが芸人であることを疑わなすぎだと思う。……いやまあ、私だってそういう売り出し方にも誇りを持ってやってはいるけどさ。
でも、総応募数5000人だよ? 清楚で有望な子も一人くらいはいるんじゃない?
「まあそれはそれとしてだ。せっかく来たならフロルも一戦くらいは見せておくべきじゃないか?」
「そうそう。ちょうど隣にもう一人のゲーム強者がいるわけだし」
「ん、わかった」
「え……私まだフロルちゃんとやり合いたくないんだけど……」
「避けられてる……!?」
「だって勝てる気しないし!」
そうかな。別に私も、ハヤテ先輩相手だったら圧倒できる気はないんだけど。
まあ、こんな配信の余興だ。仮にハヤテ先輩がちょっと嫌でも、ほいほいついてきた時点で手遅れだ。彼女もわかって来ていることだろう。
「やっぱめちゃくちゃ強いじゃん! 勝てる気しないって何!?」
「プロリーグじゃん……」
「タイマンにして正解だったね」
「ガチって負けたのほんとに久しぶりなの! くやしー……!!」
〈やば……〉
〈これが月雪フロルかぁ〉
〈とんでもない試合だった……〉
〈ハヤテの本気ここまで凄かったのか〉
ハヤテ先輩、とんでもなく強かった。時間制のアイテムあり乱闘、つまり「みなみのおさななじみ」さんとやったのと同じルールで、あのときと同じ一点差だ。つまり三人の間に実力差はほぼないということになる。違ったことといえば、お互い配信者だからリスク上等の殴り合いになってスコアの数字が伸びに伸びたことか。
それにしてもこのひと、どうやら普段は配信中もずいぶん抑えていたらしい。私と違って初期から視聴者参加型の対戦ゲームをやっているけど、どうやら普段は本気の片鱗も出していなかったようだ。
「ハヤテ先輩、ここまで強かったのか……」
「最初にちょっと抜いてやったらちょうどよくて、そのまま引っ込みがつかなくなったんだよね」
「あ、あの『変身をあと二回残している』って本当だったんですね」
「まあ、そっか……本気対戦にあんまりいい思い出はなかったのは、私と同じだもんね」
「久々に本気出せたの! だからこそ勝ちたかった……!」
ハヤテ先輩は最初期のころ、よく某戦闘力53万のひとみたいなことを言っていた。あれが本当であることは聞いていたけど、本気を見たのは私も初めてだ。ともに二期生の火玉先輩とささげ先輩が知らないあたり、キャラが定着してからはそれが事実だと明かしてもいなかったらしい。
そうしていた理由は、私と同じく本気で楽しめる相手がいなかったから。……これからはもっと積極的に二人でやるのもいいかもしれない。楽しそうだ。
続けて……スタジオにも行ってみようか。実は向こうにもライバーが何人か集まっている。
「結局カラオケやってる」
「まあやるよね、需要あるし」
いるのは当然、歌に自信のある面々。アイドル系を走る他箱であるところの『@プロジェクト』あたりはそもそも歌えないとその時点で足切りを受けるそうだけど、電ファンは上手い人がかなり多いとはいえ全体的にはまちまちだ。
特に目立つのは、五年ほど前のヤンキーアニメのオープニングをノリノリでデュエットしているエティア先輩と陽くん。かなり声が高いエティア先輩は男性ボーカルのJ-POPの中でもやや低めの曲が低すぎて歌いづらいのかオクターブ上だけど、二人とも楽しそうで何よりである。
「とっても楽しいよ!」
「見ればわかるよ。心愛先輩、こういうの好きだもんね」
「結局、こういうのが一番楽しいみたいなとこはあるよねー」
心愛先輩はもともとASMR畑、つまり声をうまく使うのが得意だ。本人的にはそれと近縁ジャンルという扱いのようで、かなり得意な部類に入る。一緒に聞いていた一期生の芥叶夢先輩も、こちらは演劇畑で同じく歌にも造詣が深い。
隣にいるのはこちらもPROGRESSのセレーネ・バルミューダ先輩。個人勢時代からバーチャルシンガーで、明確に歌姫として売り出されているひとだ。……まあ、それだけとは言わない。
「……素晴らしい夜を演じるには一人足りないわね」
「やりたいんだ」
「ああいう人数の多いのをやるには、やっぱりこういうときでしょう?」
「まあ確かに」
「足りないのは……男一人?」
「陽くんが合わなければ、少年人形役の枠だよね。……いないな適任者。もず先輩は来てないし」
「元声優志望ならショタ声くらい出るでしょ?」
「あ、私?」
いろいろある要素のひとつとして、とてもエネルギッシュだ。人数がいるからという理由で、いきなり八人曲を歌いたがったりするし。
以前から「企画ものの合唱やリレーをやりたい」とは言っていたセレーネ先輩だけど、ここ一年でこれだけ人数が増えた今ならできるかもしれない。本人とも確認しつつ考えてみようか。
消去法で私が少年声を出すことになって、空いた枠を適当に呼んだらみゃーこが来た。さすがは大手Vtuber事務所というべきか、スタジオにマイク八つくらいはしっかりあったからセットして待つ。
そのまま即興でパートを割り振って、歌ってみることに。ここにいるのは歌えるメンバーだから、覚えてさえいれば問題ないし……デビュー前からか後からかはそれぞれながら、そんな中にボカロにノータッチの人はいなかった。コメント欄でも望まれたこともあって、そのままいざ。
「いや楽しいわ。こっちいてよかった」
「生でこれできる箱、入ってよかったぁ……」
「これ次の感謝祭でやらない?」
「やりたいです!」
〈いやさすがに良すぎ〉
〈これだよこれ!〉
〈どうか続編も……あわよくば四部作全部……〉
〈素晴らしいものをいただいた〉
〈みゃーこが村娘役なの示唆に富んでていいな〉
掛け合いも多くて簡単な曲ではないんだけど、やっていてびっくりするほど完成度が高かった。全員即興だよね?
セレーネ先輩はスカウトにかなり乗り気だったんだけど、そのときの理由が「歌コラボがやりやすそう、多人数もやりたい」だったからか今は感無量だ。以前に六人曲の歌ってみたを出していたこともあるけど、さすがに配信中は初めてだものね。
今年の夏フェスはソロに力を入れていた彼女、来年はやりたいことをより主張してくれるかもしれない。セトリの準備はそろそろやる頃だから、忘れたりもまずないだろう。
「動画とリレーとそれまでできたら、やりたいこと全部達成できるわ」
「けっこうあるな」
「まあすぐじゃない? 四期生で人数も現実的になったし」
「四期生かなり歌強いですもんね。フロルちゃんと陽くん、それに都ちゃんにマギアちゃんも」
実際、四期生が入る前と後ではその手の企画のやりやすさは大きく違うと思う。なにしろ過半数が即戦力だ。……ゆーこさんは四期生唯一の歌下手とか自称するけど、別に彼女もそれなりにできている。まだボイトレも長くはやっていない彼女は、あまり自分で同期と聴き比べないほうがいいだけで。
まだ30人そこそこの箱だから、単に七人増えれば大違いというのもあるか。決して小規模な事務所ではないけど、規模からすれば加入ペースは緩やかなのは確かだし。
あとは彼女がやっていることといえば、PROGRESSの発掘だけど……これは表に出せない情報だから誰も触れない。まあ、そっちが気になったら私たちは後日個人的に聞いたらわかるから。




