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第98話 詩郎を頼む

「カンパーイ!」

 めずらしく美瑠が乾杯の音頭を取った。


「美瑠、お前随分と積極的になったんじゃね?」

 結衣香が言うように、美瑠はどちらかというと人を引っ張るより、陰に隠れて様子を見ている感じがする。


「そぉですか? まあこのメンツならこれ位の事は訳ないですよ」


「立花は前に比べるととっつきやすくなったな」


「もーぉ、真島課長まで」


「褒めてるんだぜ? いい事だよ」


「ならいいんですけど。で、悟パイセンはなんでニヤニヤしてるんですか?」

 おっと、早速火の粉が飛んできたな。


「立花さんと、こうやって乾杯したりする間柄になるなんてね。ちょっと感慨深かったんだよ」


「キモっ」

 なんだよ、そんな言い方…… 


「おい、美瑠。いい加減にしろ」


「だってー、結衣香先輩」


「お前、センパイの事『ちょっと見直しちゃった』とか言ってたじゃねーか」

 え? 立花美瑠が? 僕の事を?


「結衣香先輩! それは言わない約束……」

 立花美瑠はたちまち顔を赤らめて言葉を失ってしまった。


「た、立花さん?」


「おいおい、マジになんなよ。尾上悟。冗談に決まってんでしょ?」

 まあそうだよな。期待した僕がバカだった。


 すぐに真島課長が割って入った。


「ところでだ。今日の本題に入るけどいいか?」


「は、はい」

「ほーい」


「水野を、何とかしたい。詩郎を頼む」

 どうやら課長は水野を不憫に思っているらしい。

 オフサイトミーティングで結衣香にフラれて以来、水野はクソ金持ちのクソイケメンの癖に(僕のヒガミも相当だな)彼女は居ない。

 それは水野が結衣香にいまだに未練があって、「いつでもワンチャンあるんじゃね?」とか言って人のアドバイスを聞かないことに起因しているのだが。

 

「ボクはちょっと……」

 そう言った結衣香は、原因を作った当事者として当然のごとく気乗りはしないのだろう。


チャラ(水野)先輩、なんか『堕天使』のポチャコさんとうまくやってるんじゃ?」


「おい、沙織っちをポチャコとかいうなよ」


「めーんご」

 舌を出しておどける立花美瑠。憎めないやつだ。


「いや、それなんだがな、沙織はほら、割合と惚れやすいし冷めやすいだろ」


「まあ確かにヨッシー(真島)さんにもなんかなびいていましたよね?」


「あれは競馬の話で盛り上がっただけだよ。それを言うなら悟は最初に惚れられてたじゃないか」


「え、ええ。そう云う事もありましたかね」


「なーに余裕ぶっこいてんだよお前!」


「じゃあなんて言えばいいんですか!」

 不毛だ。あまりにも不毛なやりとりだ。


「それはそうと、詞郎(水野)の件だが」

 話は戻ったらしい。


「チャラ先輩をどうしたらいいんです? マジマン」

 水野をチャラ先輩、真島課長をマジマンと呼んだことで結衣香が美瑠を睨んでる。


「詩郎はチャラい感じだけどな。結構ピュアなところもあるし優良物件だぜ? 立花」


「無理して薦めないでくださいよ。私にはあすか先生がいるんですから」

 そういえば美瑠は百合だったよな。


「パイセン、お前百合だったよな、とか思っただろ」

 図星です。


「あ、ああ、あすかさんとは最近どうなの」


「どうなのとか訳分かんないだけど。私はあすか先生の作品が好きなんですーぅ」

 どういう反応をしても角が立ちそうなので意味不明な笑顔を作ってやり過ごした。


 課長が少し説明に入った。

「立花にお勧めという事ではなくてだな」


「私を呼んでおいて、じゃあ他に誰がいるんですか‼」


「うーん、美瑠がキーマンであることは間違いないんだ」


「私が?」


「おお。営業一課の土居ちゃんっているだろ?」


「レミの事ですか?」


「ああ。そのレミちゃんの事だ」

 鈍感な僕でもわかる。土居さんが水野にちょっと興味があるって話だよね、これ。ところが立花美瑠は、

「やだー、マジマン、レミの事狙ってんですか?」


 明後日の方向に話が進みそうだったので、同じく真島課長の本意に気が付いていた結衣香が美瑠をたしなめた。

「本当に美瑠は察しが悪いというか、人の話聞いてんのか? 課長はぽちゃこだろ」

 口に含んだビールを噴き出す真島課長。

「汚ったなーい」


「結衣香、おまえなぁ」


「すんませーん(笑)」


「え、え、よくわかんないんだけど」

 立花美瑠はまだ状況が呑み込めていないらしい。


「要するに、土居さんと水野の仲を取り持て、っていう事ですよね? 課長」

 真島課長は大きく頷いた。

 ようやく話が進みそうだ。

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