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第91話 エリカの企み

「エリカちゃん、少しお話があるんですけど」

 私、思い切って仕事が終わった後にエリカちゃんに声をかけてみた。


「あら、りおんちゃんが私なんかに話なんて、珍しいわね」


「実は折り入ってお願いがあるの」


「お願い? どんな?」


「最近、エリカちゃん仲井様と同伴とかしてますか?」


「うーん、最近はないわね。どうして?」


「できれば今週の金曜日に仲井様に同伴をお願いしてもらえたらなって」


「……何か裏があるようね。聞こうじゃないの」

 エリカちゃん、ちゃんと話を聞いてくれて嬉しい。


 私はエリカちゃんに両親が堕天使ここにやって来て、私の仕事ぶりを観察するという話を打ち明けてみたの。


「えー、なんか斬新な話よね。で、もしりおんちゃんパパとママが『こんなところで働いちゃだめです!』とか言ったら、りおんちゃん辞めちゃうんだ(笑)」

 あれ? エリカちゃんひょっとして私の事辞めさせるいいチャンスとか思っちゃったかな……?


「エリカちゃん、私辞めたくないの。ここで働くことが好きなの」


「でも彼ピは嫌がってるんじゃない? なんだっけ、悟クンだっけ?」


「うん、悟さんは気が済むまで働いたらいいよ、って言ってくれてるの」


「随分信用されてるんだね。りおんちゃんは」


「えー、そう云う事なのかな。でも悟さんと結婚したらもちろん辞めないといけないってことは覚悟してるんだけど」


 結局エリカちゃんは同伴の件には答えず、短く『あがりまーす』と言って控え室から出て行ってしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「あー、仲井さん? 私」


「あれあれあれ、どうしたのエリカちゃん。珍しいじゃない? 営業の電話?」


「うーん。そういうんじゃないんだけどねー。ちょっと声聞きたくなっちゃって」


「ははははは! 俺、悪いけどそういうのではなびかないからね。分かってるだろ?」


「ちぇっ、冷たいわねぇ」


「まあ、話だけなら聞くけど。どうした」


「あのね、今度の金曜日、ウチの店に久しぶりに来たりします?」


「ちょっと最近忙しくてさ、でもそんなに間空いてたっけ?」


「いいえ、前回は二週間前。私がいない時に来たって聞いたけど」


「そうだよね、まあ堕天使だけに行ってるわけじゃないからなあ」


「どおりで。他にも贔屓のキャバクラがあるんだ。仲井さんって、ウチの店のみんなからなんて呼ばれているか知ってる?」


「えー、そんなあだ名みたいなの付けられてたんだ(笑)。お客さんにあだ名付けるとかひでえ店だな(笑)」


「そんな酷いあだ名じゃないよ。酷いあだ名だったらいう訳ないじゃん。


「そりゃそうだ。で、なんて呼ばれてんの? 俺」


「みんな『神出鬼没の仲井さん』って」


「まあそうだよね。仕事忙しかったり、暇だったり、他のキャバクラにも行ってるから定番の時間とかはないのは確かだ。でも神出鬼没は酷くない?」


「で、金曜日はどうするの、って話なんだけど」


「うーん、仕事もひと段落ついている頃だし、行こうかな」


「で、厚かましさついでになんだけど、その日同伴してくれたりしないかな?」


「成績ヤバいの?」


「いやー、そこまで悪くないけど」


「じゃあなんで?」


「だから仲井さんと一緒に居られる時間が長くなるじゃない?」


「ハハハハ! じゃあそう云う事にしておくか。何時ごろがいい?」


「そうねえ、私のシフト8時からだから、それに合わせてもらえれば」


「オッケー。じゃあ楽しみにしておくよ」


「こちらこそ。ありがとう、仲井さん」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「という事で、仲井さんと同伴することになったから。9()()ごろ出勤の予定だよ」


「ええっ、本当? エリカちゃん本当にありがとう!」


「困ったときはお互い様でしょう? 私が困ったとき、りおんちゃんはちゃんと助けてくれる?」


「もちろんよ? エリカちゃんとこうして話をしたりすることが今までなかったけど、これからはもっとお話ししましょう」


「まー、これはこれ。でも、売り上げの競争で馴れ合いたくはないからね」


「そうですね。お互いに切磋琢磨しないとね。頑張りましょうね!」

 私がそう言うと、エリカちゃんは少し意味ありげな笑顔を作って、店長に促されていた三番ボックス席に行った。


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