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第85話 考えてもみなかったんですけど

 翌日は生憎の雨。

 それでも僕は仕事の一つのヤマを越えたことと、たった1週間だったけど久しぶりに曉子さんに会える期待感でいっぱいだった。


 僕らは銀座和光の前で、10時に待ち合わせをした。

 雨はそれほど強くは降っていなかったが、昼にかけてどんどん増えていくのだろうけど、街を歩く人はまだまばらですぐに曉子さんがやってきたのが分かった。


「悟さん、少し遅れてすみません」


「その赤い傘、曉子さんにとてもお似合いです」

 曉子さんは少し照れた。


「もう。すぐにそうやって褒めるんですから」


「僕は正直なんですよ」

 自分で言っていて恥ずかしい。


「ところで、同僚の方々にお渡しする品を買うお店はある程度めどがついているんですか?」


「実はあまり銀座は詳しくなくて。でも松屋とか三越とかプランタンとかで選べばいいかなって」


「そうですよね。僕もなかなかそう言った高級デパートへ買い物をすることがなくて、今日はいい経験になるかも」


「じゃあ、手始めに三越に行きましょうか」

 そう言って曉子さんは銀座四丁目の交差点の横断歩道を晴海方面にわたりだした。

 三越はすぐ目の前だ。


 角の入口には三越のシンボル、ライオンのブロンズ像が鎮座していて、そこを待ち合わせ場所にしている人が多数いた。

 僕もここを待ち合わせ場所にすればよかったな。


 エスカレーターで地下二階の和菓子、洋菓子売り場に降りて行った。

 

 僕でも知っている有名な海外の洋菓子店や、老舗の和菓子店があって、どれもおいしそうだ。

 僕はお菓子には詳しくないから気の利いたアドバイスも出来ないけど、きっと曉子さんはこういうお菓子が好きだろうし、いろいろと知っているんだろうなと思っていた。


「曉子さんの好きな洋菓子店とかあるの?」


「ええ、私は母の影響であのお店が大好きなんですよ」

 と、曉子さんが指さしたのは神戸発祥の老舗洋菓子店だった。


「じゃあ、行ってみよう」

 

「そうですね!」


 二人でその洋菓子店に歩いていくと、店員さんに声を掛けられた。

「いらっしゃいませ。あら、りおんちゃんと悟さん」

 え? 洋菓子店に二人の共通の知り合いなんていたっけ? と思いながら店員さんの顔を見ると、なんと、堕天使のあすか嬢が洋菓子店の制服を纏ってそこにいたんだ。


「あれ、あすかさん? どうしてここに?」

「わー、あすかさん! お久しぶりです!」


「りおんちゃん、どう、元気になったの? ええと、どうしてって、私も小説だけで生活できないから昼はここで、夜は堕天使で働いているのよ。堕天使はまあ、人間観察というか取材目的が半分なんだけど」


「そ、そっか、でもギャップが激しいというか、昼も夜も大変だよね」


「そうね。あ、あと、あすかという名前はここでは使わないでね」

 と小さな声であすかさんは言った。 制服には、「松谷」と書かれた名札がついていた。

「松谷さん、なんだね」


「ええ、私の本名よ。松谷明日海。明日の海って書くわ」


「いい名前ですわ。あすかさん、っと、明日海さん」

 ずっと呼びなれたあすかという名前を本人を目の前に明日海と呼ぶのは結構難しい。


「それで今日はどうなさったの?」


「ええ、来週月曜日から職場へ復帰するので、同僚の皆さんにちょっとした贈り物をしたくて」


「それなら、この商品なんてどうかしら?」

 と言いながらチョコクリームが挟まれた個別包装されたビスケット菓子をお勧めされた。


「わたし、このお菓子大好きで。こちらおすすめなんですね。じゃあ、こちらを20個の詰め合わせでお願いできますか?」


「かしこまりました。包装に少々お時間をいただきます。お支払いはいかがなさいますか?」

 そういうやり取りをしているあすかさんと曉子さんのやり取りを見て、ちょっと微笑ましく思えてきた。


 しかし、他の店員さんがいなかったためか、あすかさんは会計後、包装をしながら「復帰するのは昼の仕事だけなんでしょう?」

 と何気なく聞いてきた。


 「えっ、」

  曉子さんは、不意を打たれたみたいにそう言って絶句してしまった。


「あの、私なにか悪いこと言ったかしら?」

 困った顔をしたあすかさん。


「あの、私、『堕天使』を辞めるなんて何も考えていなかったんですけど」

 あ、そうか、家庭の問題はお父さんが戻ってきて、お母さんも教団から距離を置くという事になりそうだから、「堕天使」のキャバ嬢として働く必要なんてないんだな。


「辞めなきゃいけないのかしら? 私」

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