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第83話 対決(4)

「まあ常務、関東テクノス(こちら)さんも、私が過去5年くらいかけて随分と買い叩いてますからね。乾いた雑巾を絞るような作業だったんじゃないでしょうか。もちろん、アステラスのデータの信ぴょう性や真島さんからの補償のお話も含めて、総合判断なさってはどうでしょうか」


「吉永部長、随分と物分かりがいいじゃないか」


「いえ、私たちも、少し行き過ぎると大変なことになります」


「どういう意味かね?」


「ええ、関東テクノス(こちら)さんは下請法の対象となる取引相手ですので」

 都賀常務はそこでフリーズした。

  

 しかし、敢えて僕たちに聞こえるように吉永部長に苦情をぶちまけた。

「なぜそんな重要なことを先に言わなかったんだ。もう、関東テクノスとは手を切れ。他のサプライヤーなどいくらでもあるだろう?」


「常務、サプライヤーのプロファイルには目を通していただいているものと思っておりました」


「それはもういい。という事だ。関東テクノスさん。我々は違うサプライヤーを探すことに今決めた。いろいろと無理を言ってすまなかったね」

 と、逃げを打ちながら僕たちとの取引終了を匂わせた。

 

 阪下さんが吉永部長をたらし込んだことは鈍感な僕でも分かったが、僕は取引終了をチラつかされて窮地に立たされたわけだ。


 しかし、田淵部長がここで逆襲を試みた。

「都賀常務、大変失礼ながら他のサプライヤー、とはどこの事をおっしゃっていますか? 我々よりも安価に納入できるサプライヤーの候補がおありのようですが」


「それを君たちに言う必要はない」


「果たしてそうですかな? 先ほど吉永部長がおっしゃったとおりです。我々が乾いた雑巾を絞るように御社に尽くしてきたわけです。しかし吉永部長はその努力にきちんと数量で報いてくださいました。5年間もの間に、他社が追従でないような条件で我々は納入しているのです」


「うぐっ」

 そう言って都賀常務は黙り込んでしまった。


 しかし、阪下さんがとどめを刺す。

「サプライヤーを変える、という脅しは下請法で禁止されている「報復措置」に当たるものです。我々も取引を打ち切られることになるのであれば対処する必要が出てくる可能性は否定しません」

 都賀常務の表情から色が消えた。


 真島課長が僕の脇腹を小突いて、まとめに入ることを要求した。


「弊社と、岩田電産さんが長い時間をかけて築き上げてきた関係を壊すのではなく、さらに深化させる目的のスキームです。正直今の今価格を15%下げることは我々にとって完全に赤字を意味します。しかし、この考え方であれば、双方に義務は生じますが、都賀常務のご要望を超える条件をかなえることができるのです。ここはひとつ、前向きにご検討いただけないでしょうか!」


「では、そちらのスキームが予定通りにならなかった時の補償について、詳しく説明してもらえるかな」

 かろうじて面子は保とうとしているが、都賀常務は白旗をあげた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「完全に我々のシナリオ勝ちでしたね」

 岩田電産での勝負に勝った僕たちは、駅までの帰り道で歩きながら話し合った。


「いや、まだわからんぞ。都賀常務は口では納得した素振りだったが、最終的にどう出てくるかはわからんな」


「田淵部長、阪下さんも報復措置は違法だって言っていたじゃないですか。杞憂ですよ」


「岩田電産ほどの会社なら、違法を合法に変えてしまう様な弁護士を抱えていてもおかしくはない」

 田淵部長の云う事もわかるけど、いずれにしても関東テクノス(ウチ)を切ることにメリットはなさそうだ…常務のプライドを護る以外には。


 先を歩いていた真島課長が僕の方に振り向いた。

「悟、実際に提案したスキームをベースにした覚書を作成して捺印させるようにプロセスを急いでくれるか?」


「分かりました。覚書のドラフトは僕がすぐにでも。レビューは阪下さんにお願いすることになりますがよろしいでしょうか?」


「ああ、それは問題ないよ」

 多分田淵部長の優柔不断に業を煮やしたんだろう。より実務的な真島課長は、先に進めたかったのだと思った。


「ありがとうございます! じゃあ、結衣香、社に戻ったら申し訳ないけど手伝ってもらえるかな?」


「もうできています」


「ええ⁉ もう?」

 全員がびっくりして声をあげた。


「アタシを誰だと思ってるんですか!(笑)」

 今回の功労者は間違いなく阪下さんだ。しかし、結衣香の有能さは僕たちには余りある事のような気がしていた。

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