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第71話 美魔女登場

「良く聞こえなかったんだけど。誰が来たの?」

 僕は二階の部屋から出て、階段の上から一階に呼びかけた。


「東堂さん、って聞こえたけど。あんたの会社の人じゃないの?」


「えっ! 東堂さんだって? 母さん、もっと早く言ってよ!」

 東堂さんにインターフォン越しに対応したのは、僕の母麻子だったのだ。


 母さんは、僕の父と21歳で結婚し、翌年兄の透が生まれ、三年後に僕が生まれた。


 母さんの年齢は五十五歳だが、口性のない周囲からは「美魔女」と噂されるほど若く見える。息子が言うのだから間違いない。


 さすがに二十代は無理だが、三十代前半と本人が言えば、本当の年齢を見破れる人はほとんどいないだろう。



「あ、ああ。いま、お付き合いさせてもらって……いや、ちょっと複雑な事情があってさ。二か月くらい連絡が取れなかったんだ」


「それは穏やかじゃないわね。アンタ浮気でもしたの?」


「何だよそれ、そんなのしてねえし」


「じゃあどうして?」


「これはちょっと母さんにも言っていいかどうかわからないから今は言えない。本当に深刻な話なんだ」

 母さんも事の深刻さを分かってくれたのか、僕がそう言うと反論はしなかった。


「お母さんが手伝えることがあったら、何でも言ってね。一人で抱え込まないの」


「ああ、ありがとう」

 多分、第三者から見ると、三十路の僕と、美魔女の母さんは親子ではなく恋人同士に見えるかも。


「東堂さん、帰っちゃったみたいね。アンタがなかなか部屋から出てこないから」


「……いや、母さんの声を聞いて誤解したんじゃないかと思う」


「えっ……私?」

 それを聞いて僕は頭を抱えた。


「あちゃー、申し訳ない……って仕方ないじゃない! ここは私の家なんだし!」


「それはそうなんだけどさ。ところで突然今朝帰ってきていったい何があったの? 父さんと喧嘩でもした?」


「全然! 今でもラブラブよ?」


「二人とも仲のよろしいことで。で、どうして?」


「実はね、高校の同窓会が明日あるのよ。ついでだからアンタの顔も久しぶりに見たくなって早めに帰ってきちゃった。どうせろくなものも食べていないんだろうし」


お生憎様(あいにくさま)。ちゃんと家で料理つくっているし、それなりにバランス良い食事を取ってるさ」


「そお? まあたまには()()()()の味っていうのもいいでしょう?」


「ああ、それはありがたく頂戴する」


「それはそうと、その東堂さんを帰しちゃったけど電話しなくていいの?」


「あっ!」

 悟は絶句して慌てて二階の自室に駆け上がってスマートフォンからに電話を掛けてみた。


 しかしコールが十二回続いたあと、「ツーツーツー」という音がなり呼び出しはキャンセルされてしまった。


 でも、電話はかかるんだ。きっと軟禁状態は解けたんだな。 


 だけど、僕がこの件のキーマンである東堂さんのお父さんと話をする前に何故、あの東堂さんのお母さんが軟禁を解いたのだろうか。


 考えても仕方がない。

 とにかく、東堂さんの家に行って誤解を解かなければ、そう悟は決意して着替え始めた。


 そこに着信。


「曉子さん? すまない、さっきのは僕の母さんなんだ!」


「おい、尾上、何の話だ?」


「えっ、姉小路……だったのか」

 電話の主は、クレアこと姉小路雪子だった。


「姉小路だったのかじゃねえって(笑)」


「すまん、さっきりおんちゃんがウチに来たみたいなんだ」

 姉小路はそれを聞いて一瞬絶句して、


「マジか! 軟禁解けたんだな? で、何をしくじったんだよお前。バカ野郎だな!」

 と怒鳴った。


「すまん、母さんが一時帰宅してて勘違いされたみたいなんだ。想像なんだけど」


「え、お前の母さんって、二十歳くらいにしか見えないあのお母さんか? 噂にしか聞いたことないけど」


「ああ、あれからさすがに十五年経ってる。もう二十歳ってことはないがな。でも声も若いからインターフォンでそう思われた可能性はものすごく高くて」

 姉小路は爆笑した。


「かははっはっは! 笑えるねえ! 君たちぃ!」


「笑い事じゃないって。だからこれからりおんちゃんちに行こうと思ってさ」

 笑っていた姉小路だが、秒で素に戻り、


「うーん、気持ちは分かるけど、今は止めておきなよ」

 と、僕を(たしな)めた。

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