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第56話 お前らしい答え

 ぼくと姉小路は、駅前のファミレスに入った。


「で、そっちの用事ってなんなの?」


「お前さぁ、そうやって自分の用事が済んだらとっとと帰ろうとするなよ。信じらんないな」


「あ、あ、ごめん」


「こうして、ちゃんとお前と一緒にいても恥ずかしくない格好してきたんだぞ?」


 キャバドレスを着た姉小路しか見たことがなかったから、今日の装いはなかなかのセンスだと思った。


 シックでパールカラーのボウタイブラウスと、テーパードの白いボトムに、ナイロン生地のトレンチを羽織っていた。


「昔は割とラフな格好が多かったよね、姉小路は」


「お前は高校生の頃センスのかけらもなかったな」


「まあ、それは否定しないよ。でも今日は暁子さんにセンスがいいって褒められたんだ」


「へー」


「なんだよ。その棒読みのセリフみたいなのは」


「尾上はどうしてそんな面倒くさい女が好きになったんだ?」


「面倒くさい……か……」


「面倒臭いだろ? どう考えたって!」


「客観視できてないから何ともいえないよ。好きになった人がそんな事になってたってだけでさ」


「お人好しだよ。ホント」


 お人好し?


 いや、僕はそんな人間じゃない。


「多分姉小路は、高校生の頃のぼくの事しか知らないからそういうふうに思うだけじゃないか?」


「まあ、十何年も会ってないお前が突然ウチの店で遊んでてちょうウケたけど」


「ていうか、真島さんに連れてこられただけだし」


「あのさー、この際ハッキリ言っておくけど、りおんは、地雷女だよ。一応警告しておく」


「ど、どういう意味だよ?」


 なんだよ、人が好きになった人を悪くいうなんて。


「そういう意味だよ。気をつけないとあの子は、いつかお前をダメにする」


「じゃあ何で暁子さんのことで、姉小路は色々助けてくれるんだ?」


「自分でも良くわかんない。お前たちがうまく行って欲しいって気持ちもあるのは本当だけど、りおんのせいでお前が潰れるのは見たくないのもある」


「よくわかんないよ。そんなの。暁子さんのお母さんの事を知ったからそういう風に言ってんだろ?」


「いや、それは関係ない。あの子、お前が好きだと周りが見えなくなってる。そのペースに巻き込まれたらお前、自滅するぞ」


 ふとここ二日間くらいのことを思い出してみると東堂さんの無鉄砲な行動が脳裏を駆け巡った。


「思いあたる感じだろ?」


「ま、まあそうかもな。でも大した実害はない……」


「それが甘えって言ったんだよ! 今回の件だって完全にあの子のペースじゃん! お前がちゃんとりおんをリードしてやらないとダメだよ? お前にはそれを一度ちゃんと言っておきたかったんだ。」


 何を言い出すかと思えば、姉小路なりにぼくの東堂さんに対する態度にブレがありすぎるからちゃんと導いてやれ、って応援してくれてるんだと分かった。


 この一言はとても重い。


 そして、とてもありがたかった。


「姉小路、本当に恩にきるよ。目が覚めた様な気分だ」


「分かればよろしい!」


 姉小路はそう言いながらふと寂しそうな顔をした。


「どうした、そんな顔して」


「うるさい! アタシは前からこんな顔だよ!」


「そんなことないぜ? 姉小路はめちゃかっこいいと思う!」


「何だよ! いきなり! 恥ずかしいからそんなこと言うな!」


 褒めたのに怒られた。


 でも、姉小路がいい奴で良かった。

 あの時、名古屋に引っ越す事を告げずいなくなった事を真剣に後悔した。


「あの子からお前を取ったりしないから。店長があの子のお母さんと話をつけるまで、アタシと一緒にいてくれないか?」


 姉小路、顔が真っ赤だ。


「たぶんそれは暁子さんが一番嫌がることだから断るよ」


「……」

 

「姉小路だって、そんな男は嫌だろう?」


「まあ、お前らしい答えだな。安心したよ」


「まさか、ぼくを試したの?(笑)」


「当たり前だろ?(笑)私はお前になんて勿体ないんだよ!」


 どれだけ自分に自信があるのか。


 まあいいや。


 僕らは駅で別れた。

 別れ際にぼくに手を振る姉小路はなんだかやっぱり寂しそうに見えた。

 

 その後、堕天使の店長、葉山さんから電話がかかってくるまで、数ヶ月掛かるとは、思いもしなかったんだ。

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