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第34話 憧れ

 僕は「堕天使」を出て、また「アーチーズ」へ一人で戻った。


「あら、悟さん、でしたっけ? ほかの方たちは?」


 麻衣さんがまた素敵な笑顔で迎えてくれた。


「この後、人と待ち合わせなので閉店までいさせてもらっていいですか?」


「もちろんですわ。何をお持ちしましょう?」


 もう、東堂さんを待っていることは麻衣さんも分かっていると思うので余計なことは聞かれなかった。

 

「そうだなぁ、外は少し冷えてきたので何かノンアルコールの何か温かいおすすめがあれば」


「わかりました。唯人君、ロイヤルミルクティー、 ワンでお願い」


 麻衣さんはカウンターの中にいる大学生の男の子にそう告げると、


「ごゆっくり」


 とにこやかに言ってほかのお客が帰った後のテーブルの上にある食器を下げに行った。


 しばらくスマートフォンでニュースを読んだりしていると、唯人、と麻衣さんに呼ばれていたカウンターでドリンクを作っていた男の子がやってきて、


「ロイヤルミルクティーです。お待たせいたしました」


 と言ってポットに入ったロイヤルミルクティーを持ってきてくれた。振り返ると麻衣さんはこちらを見て少し興味深い目で見ている。


「作ってくださった上に、直接持ってきてくれるんですね」


 その男の子は少しはにかんだ感じで半分からかったような僕の言葉にこう応えた。


「あ、実は僕、お客様にお聞きしたいことがあって」

 

 僕に用? 

 

 ちょっと予想外だった。


「僕なんかにどんなことを?」


「あの、僕平賀っていうんですが、今大学の2年生で、ロボット工学のゼミに入っているんです」


「そのロボット工学を専攻している平賀君は僕にどんなことを聞きたいの?」


「一昨日もいらっしゃいましたよね」


「ええ、それがどうしました?」


「その、すごくカッコいい方だなって思って。そのさわやかな感じ、どうやったら出せるのかなって」


 遠巻きに見ていた麻衣さんが笑いをこらえきれなくなって噴き出した。


「唯人くん、そんなお客様に不躾じゃない?」


「え、でも」

 

「いきなりごめんなさいね。悟さん。この子超秀才で、恋愛とかしたことがないんだけど、今女の子から猛烈にアタックされてるらしくって、悟さんを見て何か感じることがあったみたいでいろいろ参考にさせてほしいんだって」


 麻衣さんはツカツカと近寄ってきて言った。


「いやいや、そんな。僕だってそんなに恋愛経験は……」


「そうじゃなくてね、悟さんの自然にしていても醸し出されるその雰囲気が……」


「そんなの僕自身わかってないですって!」

 

「私の経験上、あなたみたいなタイプはめちゃくちゃモテるはずよ。そうじゃない?」


 麻衣さんの経験ってどんなのなんだろう。


 僕が目を白黒させていると、追い打ちをかけるように、


「当たってる……でしょう?」


「自分でも不思議なんですが何人かに気に入られているみたいです」


 麻衣さんは僕の肩を何度か叩いた。


「そうよね、そうでしょ?」


「僕も悟さんがモテるんだろうなというのは感じます」


 唯人君も真剣なまなざしで言った。


「僕が君の参考になることなんてないと思うけどな。君だってとても……その……美形だし、見た目からして頭がよさそうに見える」


「いえ、そんなことはないです」


「謙遜は美徳じゃないよ」


 この言葉は真島課長からの受け売りなんだけど。


「それを言うなら悟さんだって変に謙遜してますよ」


 さすが秀才、切り返しうまいな。


「まあ、自分に自信を持ったほうがいいと思う。君はスペックもルックスも十分女性にとって魅力的な存在だと思うよ」


「そんなものですかね」


「ああ、自信もっていいよ」


「なんか男同士褒めあって気持ち悪い(笑)」


 確かに麻衣さんの言う通りだ。


 話題を変えないと。


「僕には好きな人がいるんだ。これからその人とここで会う約束をしているんだよ」


「そうですよね。お邪魔してすみませんでした」


「今度また会おう。その時はちゃんと君の相談に乗る時間を作るから」


「ありがとうございます! 楽しみにしています」


 そういうと、唯人君はカウンターに戻っていった。


「悪く思わないでね。彼なりに真剣なのよ。その女の子を受け入れるには自分が不十分だと思っているの。何かアドバイスをしてあげてくれるとアタシも嬉しいな」


 僕なんかに何がアドバイスができるかわからない。


 でも、人に頼られることは嫌いじゃない、そう僕は思った。

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