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第33話 クレアの助け舟

 明日は休みだし特にこれと言って重要な案件はなかったはずだ。


 しかしりおんちゃんの上りの時間は午前0時だったはず。

 

 そこから「アフター」っていうと……「どこに」は別として、確実にお泊りじゃないか。

 はやる気持ちをおさえつつ、僕は言った。


「僕はどこかで時間を潰しているから、上がったら電話をくれるかな? 今日は充電は大丈夫だよ」


 りおんちゃんははにかみながら頷いた。


「じゃあ、後でね」


「はい、楽しみにしていますね」


 楽しみにしているって。

 僕も楽しみに決まってるじゃん。

 というか嬉しすぎてどうにかなりそうだよ。


 しかしその前にこの人たち(会社の同僚)を何とかしないといけない。


「さあ、もう遅いから今日はお開きですよね? ヨッシー先輩?」


 恐る恐る真島課長に尋ねた。


「何言ってんだ。まだ早いだろ? ここはお開きだって、俺言わなかったっけ?」


 確かに「今日はお開き」とは言っていない。僕の表情は、きっと鳩が豆鉄砲を食ったようなもんだったろう。


「なんだよ、その顔は(笑)。次も付き合えよ。まだ10時だろ?」

 

「い、い、いや、今日はちょっと家でまとめないといけない仕事があるんで……」


 真島課長の眼の奥が鈍く光ったような気がした。


「へぇえ、架空の仕事まで作って。そう。付き合い悪いな、悟君」


 僕に君付けとか悪い予感しかしない。


「本当は、りおんとこれから会うんじゃねえのか?」


 この人はこれだから嫌だ。仕事もこう云う事も鋭すぎるんだよ!



「え、ええ。いけませんか?」


 口惜しくてちょっと強く出てみようと思ったのが僕の間違いだった。


 真島課長はちょっとだけ面食らった表情を浮かべたけど、直ぐに何か企んだような顔に変わった。


 僕の表情もブラフを精一杯張った顔から恐怖に慄いている顔に変わったに違いない。


「結衣香、立花、悟パイセンがもう今日は付き合えないってよ」


 おい、何がパイセンだ!


「えー、先輩、帰っちゃうの?」


「悟パイセン次行こうよ! 私カラオケ行きたい!」


 これはヤバいことになってきた。


「今日は勘弁してくれよ」


「だめです! 徹底的に付き合ってもらいますよ? ボクのこと振ったんだから」


 ううう、それを結衣香に言われるとかなりキツい。


「ひ、日を改めてちゃんと付き合うからさ」


「おいおい、ずいぶんお前都合のいいこと言ってんな? 結衣香が振られた相手に今晩徹底的に付き合わせる事で手打ちにしようっていうんだ。何が不満なんだ?」


 鬼の所業だろ、あんた知ってるくせに!


「とにかく、今日はだめです!」


 もう僕は一杯一杯だった。こんな時出てくる語彙はとても乏しい。


 立花が追撃を喰らわしてくる。


「あれー、パイセン、ひょっとするとひょっとするかも」


「美瑠、なんだよ、その『ひょっとするかも』って?」


「りおんちゃんと2人で会うんじゃないんですか?」


 結衣香は表情が剥がれ落ちて、急に大人しくなった。


「あれ? あれ? わたしなにか悪いこと……言いましたね……ごめんなさい」


 覆水盆に返らずとはこの事だよ。立花。


 すると、思わぬ助け舟が。


「ここはさ、このクレアさんに任せてくれないかな? 尾上」


 クレア(姉小路)が見かねて助け舟を。


「ねっ、これから3人で重要な話をしに行くぞ? いいだろ? 結衣香ちゃんに美瑠ちゃん」


 2人は少し戸惑いながら頷いた。


「わ、悪いな姉小路。シフトとかお前大丈夫なのか?」

 

「そんな事に気にすんなよ。その代わりちゃんとりおんのこと面倒見てやってくれ」


 姉小路〜! お前には本当に感謝だ。


 でもなんで姉小路は僕にそんな親切にしてくれるんだろう。


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