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収録終わり

「不味い。園咲さんと綴木さんが取り憑かれた鬼に追われてる。急がないと」


 そうしたいのは山々だがカメラマンさんの目とカメラがある。


 目的もなく急に走り出すのは極めて不自然だ。


 せいぜい早歩きくらいが関の山。


 そうも言っていられない状況だが、なにか走る理由があればいいんだけど。


「お」


 一人分の足跡を耳が拾う。


「鬼だ!」


 取り憑かれてはいない、普通の鬼。


 思わずナイス! と叫びそうになったのを堪えて地面を蹴る。


 追い掛けられている状況なら走ってもなんら不自然じゃない。


 このまま園咲たちの元へ急ごう。


「そこの角だ」


 必死に逃げる園咲と綴木が駆けていくのが見えた。


 そのすぐ後ろに怪異に取り憑かれた鬼がいる。


 俺が間に入り込まなきゃ捕まってしまう。


 そうなった場合、鬼に取り憑いた怪異が二人に何をするかわからない。


 二人の安全のためだ、賞金は諦めるとするか。


 速度を上げ、角に差し掛かり、出会い頭に取り憑かれた鬼と衝突。


 その瞬間に魔術で電流を流し込み、取り憑いた怪異を人体から引き剥がす。


「後は任せてくれ」


 小鳥が回転しながら弾丸のように飛び、引き剥がされた不定形な怪異を貫く。


 存在が霧散するのを確認して一息をついた。


 これで万事解決だ、俺は捕まってしまったけど。


「あちゃー、やってしまいましたね。あと十分? うわー、惜しい」


 取り憑かれていた鬼も瘴気を取り戻したようだし、俺を追い掛けていたほうの鬼も踵を返した。簡単にリアクションをして自らの足で檻へと向かう。


「惜しかったですね。あとすこしだったのに」


「えぇ、でも楽しかったですよ」


 歩いて檻まで向かうまでの間に十分が経過し、超鬼ごっこが終了した。


 生き残った出演者は二人。なんと園咲と綴木だった。


 身を張って助けた甲斐があったってもんだ。


 そうして迎えた収録終わり。


「紫雲くん、紫雲くん! 焼き肉行こ! 焼き肉!」


「私と瑞紀さんも参加するのでよければ貴方と九十九さんも」


「いいね。支払いはもちろん?」


「賞金から!」


「そう来なくっちゃ!」


「あと、なんだけど……追加でもう一人いるんだ」


「ん?」


「魔術師のこと、バレちゃった。葵に」


「え?」


 園咲の後ろを見ると、険しい顔をした楠木が立っていた。


「卒業ライブの時に紫雲くんを見掛けたみたいで。なんでなんでって詰め寄られちゃったから、つい」


「いや、それはしようがない。やあ、魔術師の紫雲イヅナだよ」


「……未だに信じられませんけど、美琴が嘘を吐くとも思えないし」


「ほら」


 手の内でバチバチと紫電を光らせる。


「マジックとか、そういう類いじゃなくて」


「疑い深いなぁ。綴木、見せてやって」


「え、私ですか? えっと」


 綴木は周囲をキョロキョロと見渡して俺と同じように手の内で氷を生成する。


「本当、なんだ。でも、魔術師? がどうして美琴と」


「それは焼き肉屋で話そうぜ? 腹減っちまったよ、俺」


「……そう、ですね。わかりました。そうします」


 大所帯になりながらも有名な焼き肉店に向かって歩き出す。


 ちょうどこの近くにもあるらしく、それほど移動せずに済みそうだ。


「イヅナ。お疲れ様」


「八百人もな。色々と助かった」


「裏方はある程度自由に動けるのが強みだからね。取り憑かれた人はどうしようもならないけど」


「なに。八百人にできないことは俺に任せりゃいい。その逆もまたしかりだ。そうだろ?」


「だね。これからも頼むよ、相棒」


「おう。任せとけ」


 秘匿の開示にはあと何年もかかる。


 準備が整いその時が来るまで八百人と一緒に芸能界で精一杯頑張るとしよう。


 不動の地位を築き上げて、新たな世界への礎にする。


 それが俺の俺たちの役目だ。

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