1話 吸血鬼の誕生
吸血鬼・・・国によっては『ヴァンパイア』・『ドラキュラ』と呼ばれる事が多い。発症由来は謎であり、『奴隷売買』や『血を好む殺人鬼』、『日に当たると肌が荒れる病気』など数えきれない程の『始まり』が存在する。ちなみに『吸血鬼』という単語は『中国』が由来だ。
21世紀でも信じる地域が多く、吸血鬼と間違われ殺されるケースも存在する。
Q 貴方は本当に吸血鬼がいないと思いますか?
A いる訳がない。あんなのフィクションだ!
Q 何故いないと思うのですか?
A 実際に見たものしか信じない。
日本人に質問するとこういった回答が得られるのは間違いないだろう。しかし、吸血鬼に関しては『いる』という可能性が高い。何故なら『宗教』や『文化』が違う地域、グローバルな関わりがなかった17世紀以前から吸血鬼が世界中で確認されている。つまり、『吸血鬼』と呼ばれる存在がいるという事だ。
このお話は特殊な体質により、特殊な異世界へ召喚された少年のお話である。
20▶︎□年7月2日・・・少年が異世界へ行く数日前、とある施設にいた。病院というより研究施設のような場所であった。少年の名は『芳谷 霞阿流』・・・正直、『クソダサイ名前TOP100』に入るくらいのセンスのなさだ。霞阿流はオールバックに身長190cmを超える大男で、地元では『不死身の霞阿流』と呼ばれている。真っ黒の髪、真っ黒の制服、打たれ強い中学生として有名だ。喧嘩が強いというだけで、不良やヤクザからの勧誘が多く、その度に殴り合いに発展する。
そんな彼が、一昨日、拳銃で14発撃たれた。見ていたギャラリーの1人が警察や消防署に電話したおかげで、発砲した人は逮捕された。
重症を負った霞阿流だが、発砲された銃弾は内臓に達する事はなく、筋肉で止められていた。さらに傷は1日で塞がり、拳銃の跡が綺麗さっぱり消えていた。
医者は細密検査をしたいと偽り、『研究施設』で霞阿流の身体を調べた。その結果、驚くべき事が判明した。
何と普通の生物の何億倍の速さで『細胞分裂』を繰り返したいたのだ。
人間の身体は成長段階が終わった後も細胞の破壊と再生を繰り返す。これは、傷の再生に作用するが、この細胞分裂も限界が存在する。これが生物の『老化』なのだ。普通、何億倍のスピードで細胞分裂を繰り返せば、老化が進む筈だが、霞阿流の身体に『細胞限界』をむかえた細胞は存在しなかった。つまり、霞阿流は『不老』の可能性が高い。
更に検査をしていくと、細胞だけではなく、『血液』も特殊な事が判明した。普通の人間は骨髄の中で血液を作っている。しかし、霞阿流は全身の骨が血液を作成する部分となっている。本来存在しない筈の『頭蓋骨』のような箇所にも、そのような機能が備わっているという事だ。これが1つの『特殊な細胞分裂』の補助機能になっていると研究者は結論付けた。
更に更に、研究を重ねていくと、人間離れした身体能力の高さに研究者達は驚く。事前情報では、『喧嘩がめっぽう強い』という情報に「ふ〜ん」くらいにしか思って無かった。しかし、軽いスポーツテストをした結果、以下のような評価がでた。
『
握力:握力計の故障により測定不能(推定:200kg以上)
上体起こし:68回
長座体前屈:84cm
反復横跳び:約90回(ラスト10秒はやっていない)
持久走(1500m):3分46秒(最後、500mはスキップ)
50m走:5.7秒(持久走で靴が損傷した為、裸足で実施)
立ち幅跳び:450cm(後ろに転ばなければ550cm近くはいっていた)
鉄球投げ(ハンドボール投げ):56m(鉄球の重さは5kg)
』
明らかに人間離れした身体能力だ。普通の人間では達する事ができない規格外の領域。
彼ら研究者の1人がこの結果を見てこう言った。
『吸血鬼』と・・・。
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霞阿流は研究所にきて飽きていた。孤児院で育てられた霞阿流は、『親』という存在がいなかった為、いつも1人で考えて行動してきた。それが良くも悪くも『周りの空気に流されない』という状態を築きあげたのだ。
「そろそろ、家に帰りま〜す。お世話になりやした〜。」
「え?え?え?」
研究者達は唖然とした表情で首を傾げる。そりゃ、世紀の大発見をした対象が研究所から居なくなろうとしているのだ。
「いや〜。申し訳ないけど、明後日の朝早くから、農家のおばちゃんの手伝いがあるからさぁ!別に身体に異常も無かった訳だから、帰ってゲームするわ。じゃあね。」
「ま、待って!!君の身体は異常があるから、病院にいた方が・・。」
「ん〜。こちらとしては居てもよかったよ。飯もうまいし、看護師のお姉さんも可愛いし♡」
研究者達は何とかして、霞阿流を研究所へ留まってもらう為に、1 流のコックや若い看護師(美人さん)を雇ったのだ。だが、それでも霞阿流は帰ろうとしている。
「あくまで、入院や治療は『本人の意思』で決めるからさぁ。後、流石に『スポーツテスト』は検査じゃねぇだろ?本当に身体に異常があれば、1500mも走らせんだろ?」
そういうと、霞阿流は病院(研究所)を出た。研究者達は『中学生』だと甘く見ており、思春期の男の子が好きな物で釣ろうとしていた。ただ、よくよく考えて見れば、『どう考えても、普通の男の子ではない少年』に普通の男の子が好きそうな物で留まる訳がない。無言で少年を見送った後、研究者達の目は獲物を狙う狼のような目をしていた。
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研究所を出て翌日、霞阿流は東京の秋葉原にいた。両手には大きな買い物袋を持っており、服装は『正義を貫けデビルちゃん♡』という文字と『デビルちゃん』がピースをしたデザインが描かれており、その姿はオタクであった。人通りの多い秋葉原で190cmのある人間がそんな格好をしていると、目立ってしまう。秋葉原周辺では『オタクの巨人』と呼ばれていた。
「カオル氏! 待ったでござるか?」
霞阿流と同じような格好をしたオタクが手を振って近づいてくる。ついでに服のデザインは『デビルたんしか勝たん』というシンプルな文字だけ書かれていた。
「待ってないでござるよ。それよりも目当ての物は買えたでござるか?」霞阿流は『オタク』である。最近、『悪を滅ぼせデビルーズ』というアニメにハマっており、その期間限定フィギュアを買いに仲間のオタクと一緒に来たのだ。
「買えたでござる。では、この後はメイド喫茶に・・・あっ!そういえばカオル氏はアニメ一択でしたな。ではネットカフェでカラオケでもどうでござるか?」
「いいでござるな。ただ、我輩、明日に知り合いの手伝いがあるので次回にするでござるよ。すまないで候」
霞阿流はオタクで頭を下げると、駅へと向かう。
人通りの少ない道で『悪を滅ぼせデビルーズ』のオープニングの曲を歌っていると、黒服の男達に囲まれる。
「芳谷 霞阿流 様ですね。」
「いえ、デビルちゃん押しのオタクでござる。で?何でござるか?」
「少々事情をお伺いしたいのですが、ご同行の方をお願いします。」
「ん〜。申し訳ないでござる。」
霞阿流は自動販売機の前にフィギィアの入った袋を置くと、咄嗟に走り出す。すると、黒服の男達が霞阿流に向かって銃を発砲したのだ。
「がっはっ!い、いきなり発砲かよ!?」
数発撃った弾が霞阿流の背中を直撃する。その痛みで足が一瞬止まるが、再び走り出す。
「ば、馬鹿な!弾が弾かれただと?情報と違うじゃねぇか?おい、ドローンを出せ!」
(情報と違う?何を言っている?マフィアの勧誘じゃねぇのか?)
霞阿流は拳銃での襲撃を反省して防弾服を着ているのだ。
(弾を一つでも貰えば即入院になる。・・ん?さっきの黒服が言っていた情報って、銃の事だよな?何故、その事を知っているんだ。)
霞阿流の足がピタリと止まり、振り返って黒服の男達に向かって走る。黒服の男らは「は?撃てぇ!」と銃を発砲する。
「弾を喰らえば、向こうの思うツボ・・。だったら!」
霞阿流は近くにあった『HOTEL MAMA』という看板を素手で破壊して、男達に投げつけた。
「なっ!!?あいつ化け物か!?」
男達は何とか看板の直撃を回避できた・・が、もう一度、霞阿流の方を見ると、既に姿は無かった。
「逃げたのか?」
「いやぁ。逃げてないねぇ〜!」
男の1人が霞阿流の声がした方向へ振り向くと同時に、銃が握り潰される。他の男達も同様に銃を破壊した。霞阿流はボール状にした拳銃を空高くに投げると、銀色のドローンが空から落ちてくる。
「銀色というより、鏡みたいだな・・。なるほどな斜めから見ると、ドローンが消えて見える『光の屈折』を利用したという事か・・。」
「くっ!!」
すると、黒服の1人が右ポケットから何かを取り出そうとする。
「おっと!?何を出そうとしたのかなぁ〜。」
霞阿流はニコニコしながら、怪物並みの握力で男の顔を掴む。あまりの痛さで男は手を離すと、黒い堅い物が落ちる。
「ん?無線機か?」
霞阿流は気絶した男の上半身を脱がす。所持品を確認すると、銃の弾と財布以外は持ち合わせていなかった。
「・・・なるほどなぁ。お前ら、裏の人間じゃねぇだろ?」
「・・・・・。」
「やっぱりな。最初っからおかしいとは思ったわ。いくら人通りが少ないといっても、ここは東京だ。目撃者の可能性が高くなるような行動をする訳がねぇ。特攻隊であれば、身分証が入ってなくとも、証拠になる可能性がある物を持ってくる訳がないし、銃の他に小刀ナイフや小さな拳銃を持っている筈だがそれもねぇ。後、裸にして分かったけど、血行の良い肌にタトゥーや傷がない・・どう見ても表の人間だな?」
黒服の男達の表情は変わらない。そこはプロだろう。しかし、マフィアであれば、最後まで抗う事を知っている霞阿流は『違う』と確信した。であれば、誰が命じたのか?そんなの決まっている・・。
「研究所・・いや、もっと上か?」
最悪の場合、国が関わっていると思った方がいい。人間離れした肉体を持つ少年を拉致して、医学の道を進める事も大切なのだろう。
「15歳で親なしであれば誘拐したくなるよな。」
霞阿流は彼らの服を破っていくと、彼らの財布から合わせて50万近くを抜き取る。
「これは口止め料としていただいておくよ。後、次にあったら殴るから覚えておけ・・。」
軽い脅しだが、この化け物みたいに強い男に殴られれば一貫の終わりだという事は理解できた。黒服の男達は壊れたドローンとグチャグチャの拳銃を拾うと、車に乗って何処かへ行ってしまった。
「こりゃ〜周りに迷惑をかけちまうなぁ〜・・・。よ〜し!海外にでも逃げるか!」
(日常会話程度の英語なら話せるし、海外に逃げれば向こうは追ってこない筈)
翌日、霞阿流はアメリカ行きの飛行機へ乗って海外に行く筈だった。
まさか、この時、異世界へ転生するとは思っていなかったのだ。
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この日の夜、霞阿流は海外へ行く準備をしていた。長い間、孤児院に居た為、学ランとジャージ、オタク服(7枚)しかない。古着屋で洋服を買ってもよかったが、アメリカで服を購入する予定だった為、無駄な出費を抑えたかった。その結果、オタクの服装で行く事になった。
「農家のバイトで稼いだお金が130万円、先ほど、黒服の男達に貰ったお金が50万円で合計180万・・後、デビルちゃんグッズ を持っていくと、結構量あるな・・。」
パスポートは中学の修学旅行でシンガポールに行った事があったおかげで存在した。
「アメリカでも『デビルちゃん』人気なのかな?まぁ、今の時代、ネットショッピングという神機能があるから何とかなるか・・。」
農家のおばちゃんには用事で海外に行くと伝えてある。学校を無断退学するのはまずいと思ったが、後から辞める事を連絡すればいい話だ。
「この土地もこれで最後だな。」
親がいない人生だったが、近所の人や友人、オタク仲間のおかげで楽しい人生を送れた。
霞阿流は心の底から感謝していた・・・・・・・扉を開けるまでは・・。
霞阿流が扉を開けると、黒服の人達だけではなく、完全武装した警察や武器が搭載されたドローンが飛んでいる。
「クククッ!!・・こりゃあ、パスポートは使えねぇな。」
霞阿流は荷物を下ろすと、右下半身と上半身を前に出し、フェンシングのようなポーズをとる。
「悪いが、俺は喧嘩で負けた事がないんでね。」
そういうと、1人の武装した警察官が拳銃を発砲、その弾は霞阿流の脇腹に当たるが、防弾服を着ている為、問題ない。霞阿流がフェンシングのようなポーズをとったのは、攻撃範囲を狭める事ができる点や正面にいる敵に対して最大の防御ができる事だ。このスタイルの弱点は左右の攻撃にはとても弱く、左手と左足で攻撃する事ができない点から攻撃を読まれやすい。
「俺を無効化させる気、満々やないか・・。」
霞阿流が撃ったと同時に警察官との距離を縮める。
「・・・!!?」
警察官は驚いただろう。7m以上離れた所から発砲した筈なのに、少年は1秒程で距離を縮めたのだ。
「拳銃って意外と手の反動がすごいって知らなかっただろ?慣れてないと、動きながらの発砲なんて無理だ。」
周りの警察官が霞阿流に発砲しようとするが、周りの警察官に当たる可能性があり、発砲する事ができない。霞阿流は発砲した警察官の身体を片手で持ち上げると、警察官4人に向かってドッジボールの球みたいに投げた。
その光景に焦った警察官が霞阿流に向かって乱射する。だが、そんな弾が当たる筈もなく、防弾服の上から霞阿流に腹部を殴られると胃に溜まっていた物を吐き出し、その場で倒れる。
「防弾服は拳銃には非常に効果が高い。だがな、ナイフのような『突き』や『衝撃』には効果抜群なんや」
霞阿流は足元に落ちていた石をドローンに投げつける。落下すると思ったが、ドローンは思った以上に丈夫だった。
すると、ドローンがこちらに近づいてくる。大きな銃が搭載されており、銃口の大きさは直径20cm程度。どう見ても対重厚車両用のドローンだ。
「あっ!まずい!!」
ドローンから直径20cmの弾が霞阿流目掛けて発射された。
撃った反動でドローンが落ちないように設計されており、弾速は遅かった。だが、防弾服を皆無させる攻撃が空から来ると考えていなかった為、霞阿流の右脇腹に直撃した。
「がはっ!!」
(まずい・・。内臓が痙攣を起こしてやがる・・・。銃というより砲弾と考えた方が良さそうだな。)
霞阿流は上を見上げるとドローンが10台飛んでいる事を確認した。
(ドローンを何とかしないといけないが、この人数を相手に戦いながらだと難しいなぁ・・。)
いくら喧嘩が強い霞阿流でも、反撃手段がない空からの攻撃は回避する事が困難だ。
霞阿流は思考を凝らすが、ドローンだけは無理だと判断した。
では、このまま捕まるのか?
このまま研究される人生を送るのか?
自由を奪われるのか?
『否』
「俺の自由は誰にも奪わせやしねぇよ・・・。」
霞阿流はポケットの中から黒色の筒を取り出す。その筒には『100m』という文字だけが書かれていた。
(まさか、ヤクザが使っていたこれを使うのが・・こんなに早くとはな・・。)
その筒を足元へ全力で投げつけると『ボンッ!!!』 という爆発音と共に真っ白の煙が発生し、警察官や黒服、ドローンの視界を防いだ。霞阿流が投げたのは『発煙弾』と呼ばれる物でヤクザが警察から逃げる際に用いる事がある道具だ。以前、ヤクザを半殺しにした際に手に入れた物を『逃走用』としてポケットにしまっていたのだ。
「あ、あの野郎・・・っ・・!まさか、逃げるつもりか?」
黒服の男がそう叫ぶ。
真っ白な視界の中、人もドローンも動く事は出来ない。当然、霞阿流の視界も見えていなかったが、長年過ごしてきた地形を覚えていた為、その場から逃げる事は可能だ。
(く、くそぉ・・。脇腹が思った以上に重傷だ・・。)
霞阿流は服の中に着ていた防弾服を脱ぎ捨てると、玄関入り口近くに置いてあったリュックだけを持ってある場所を目指した。本来は長年集めた『デビルちゃん』グッズを持って行きたかったが、そんな余裕はない。
「はぁはぁ・・っ!今の時代、監視カメラが多いから逃走ルートは2つしかねぇ・・。」
血を吐きながら、霞阿流は考える。
1つは何処かへ隠れて、撤退するまで耐えるか。この方法だと、より強化して包囲される可能性がある。ただの時間の無駄だ。
2つ目は川を下って海まで行く。この方法はリスクが大きいが、見つかる可能性が非常に低くなる。それに加え、監視カメラの設置数も少ない為、犯罪者やヤクザが死体を遺棄する際は河川敷で行う事が多かった。
発煙弾の効果時間は3分だ。隠れても直ぐに見つる事から、答えは1つしかない。
「川に行くしかねぇ」
川まで発煙弾の煙で隠れている為、潜って逃げるには絶好の機会だ。考えている暇はないと霞阿流は川の方向へと走り出す。
(胸を撃たれなくて良かった・・。一回の息継ぎで5分間は潜れるから、目撃されるリスクは減る・・だが、これからどうしよう・・?」
音を立てずに走った為、1分程かかって川の中へ飛び込む事に成功した。この川は天龍川といい、川の幅が150mとかなり大きい。ここまでの大きさの川は流れが速く、数時間で海に出る事ができる。
(まさか、警察も動くとはなぁ・・。そりゃ、細胞分裂が通常の何億倍のスピードで行われる生物を逃す訳がないよなぁ・・・・ん?)
川の流れに身体を任せながら霞阿流は考えていた。普通、こんな非人道的な事を国が許可するのか?もしかしたら、裏で誰かが手を回しているのか?
(そもそも、一般人に向かって銃を発砲するのもおかしい・・。ドローン攻撃も俺じゃなかったら致命傷の筈だ。)
直径20cmの鉄の弾を受けて生きている人間など、この世界に存在する訳が無い。では、一体誰が指示を出していたのか?
(そういえば、普通、警察官って『抵抗するな!』的な事言うよな・・。さっきの警察・・『無言』だった。まっ!まさか・・っ!い、いやいや!そんな訳が無い・・よな?。だが、俺という存在がいるのも事実・・可能性は0ではない。)
【警察官が無言だった=警察官が正気ではなかった】・・まるで、誰かに操られているような状態。現在の日本でも『催眠術士』と呼ばれる存在はいるが、意思を奪って操る人は存在しない。つまり、本当の相手は『人間』ではない『別の何か』という事だ。
(よくよく考えれば、国がこんな事する筈がなかったんだ。)
ずっと、研究所の人達だと思っていた相手が別の誰かだという事に焦りを感じる。少なくとも『黒服』の人は操られていなかった。
そんな事を考えていると、急に周りの川の水が一瞬で消える。
「は?」
(何だコレ?いくら特殊な人間だといってもこんな事ができる訳がない。)
霞阿流は戦闘態勢をとり、辺りを警戒する。この戦闘態勢は正面からの攻撃だけしか強さを発揮しないが、真っ暗な空間で敵がどこにいるか分からない為、正面だけに絞った。
「誰だ!?俺をどうやってここまで運んだ!?」
『転移だよ』
突如、若い男の声が空間に鳴り響く。しばらくすると、明かりがつき、周りには動物のぬいぐるみや女性のリアルな人形が置かれていた。
「転移って『アニメ』や『ラノベ』でよく見るあれか?」
『そう。そして君を神界へ転移させた。どう?神のいる空間は?』
「どうって言われてもなぁ・・。まぁ、あえていうなら友達いないのかなぁって?」
人形がこれほどの量だと『友達0』の可能性があると思った霞阿流は、正直に答える。
『ば、馬鹿め!俺にも友達はいるわ。みんなからモテモテだからよ!えぇ〜と・・沢山人形もらっているだけだし!!別に彼女いないからメニーちゃんを彼女にしている訳ではないし!!』
「メニーちゃん?そこの変なラブドールか?」
霞阿流は一番最初に目に入った等身大くらいの大きさの人形を指差す。おそらく、シリコンのような素材でできているのだろう。
『てっ!!テメェ〜!!何て事をメニーちゃんに教えるんだ!!ラブドール??何それ?おいしいの?』
謎の男は自分を見失ったかのようにマジギレする。まるで、家族のような大切な物を汚されたように・・。
「ん?お前、ラブドールも知らんのか?ラブドールとは男性が主に擬似的にセック・・」
霞阿流は丁寧にラブドールの素晴らしさを語る。未成年だった霞阿流は年齢と値段から手を出せなかったが、いつか購入しようと心に決めていた。
『ストップ!!ストップ!!そろそろ本題に入らないか?』
「セック・ストップ!?」
『では、本題に入ろう。君を転移させた理由だが、君には別の世界に転移してもらいたいのだ。』
先程の事など、無かったかのように男が話し始める。まるで『神様』みたいに?
「その本題に入る前にお前は何者だ?神か何かなのか?」
『ん?あぁ、その通り!!俺は神になる男!!名は『天使!!ベアル様だ!』
「神じゃねぇーじゃねぇか!!?」
そして、霞阿流の不思議な物語がツッコミからスタートしたのだ・・。
どうも、ついにスタートしました。
毎日、投稿していきたいと思っています。
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