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狂える継母に鮮血を  作者: 黒崎吏虎
第1章 闇に踏み入れる
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第6話 あとは任せろ

前書き連載①ケツァールの真相究明

第4話「ティアモ・ガリウスとラギエス・オーヴァスト」


 私はパンドラ、ケツァール王子の専属侍女であり、今は王子の命令でオーヴァスト家に侍女見習いとして潜入して働いている。


ミシュエルさんの素性調査でティアモ女史を調べてみてくれ………というのだけど、まったく何処までも勝手なんだから、ケツァール王子は。


さっさと捨てて後悔してしまうくらいならキチンと調べてから嫁を貰って欲しいわ、まったく………結婚を取り決めたのは陛下とのことよ、だけど名家だからとそんな簡単に決めていい物かしらね、お見合い結婚とはいえ、ね。


私も宮殿内を案内したくらいでミシュエルさんのことはよく顔は覚えてないんだけど。


そしてこの前王子から届いた手紙から「夜明けの女」について調べて欲しいという追加ミッション。


奥様とお嬢様が寝静まってから、旦那様____つまりラギエス当主にティアモ女史を何故妻に貰ったのだろうか、というところをまず問い正すことにした。




「悪いね、パンドラ………君には、妻のことで苦労を掛ける。」


私は葡萄酒をグラスに注いだあと、気遣われるように声を旦那様にかけられた。


………まあ、この数日でティアモ女史には振り回されっぱなしで………気に入らないことがあればすぐに怒るし、他の先輩侍女はまるで心を持たぬカカシのようにテキパキ動いているのだから、私としては潜入して正直アッサリ引き受けたことは後悔している。


下手したら精神崩壊しかねないのだから、本当に旦那様も手を焼いている様子だった。


「お気になさらず、旦那様。」


「前の妻がいた頃はこのような事はなかったのだがね………ティアモが来てからはこの調子だ、家内の空気も悪い。」


でしょうね、と私は思った、率直に。


メシュラさんはお淑やかで優しく、誰にでも慕われていたような聖母のような方だった、という話をよく聞く。


あの殺害事件でこの名家の全てが変わってしまうのだから、人間というのは恐ろしい。


「………ところで、君はミシュエルのことを調べるように頼まれたのか?」


「………? え、ええ………王子からの命令ですので………どのようにお過ごしになられていたのか、と。」


どういうこと? まさか、王子が手を回していた………? とはいえ、潜入がバレていたのは本来なら拙いのだけど、ラギエス様は人柄が誠実な方だ、安易にティアモ女史に口を割ったりはしないだろう、という安心感があった。


「やはり、か………あの子も気の毒になるよ。メシュラが殺されてティアモが私に嫁いでからな………虐待をティアモに受けていたんだ。」


「!?!?」


まさに急転直下の展開だった。


感じの悪い人だとは思っていた、だけどまさか、旦那様からその言葉が出てきたとは………想定外もいいところだった。


「最初は止めていたのだがな、アイツが周りを自分に従う侍女しか侍らせなくなったから、次第に私も見て見ぬふりしか出来なくなった。セーヌばかりを溺愛するものだからな、前妻の子に憎しみを抱くのも分かるさ。」


「だ、だからって………」


「ケツァール王子から直々に謝罪文が送られた時は驚いた。今ミシュエルがどうしているかは私も知らない。あれから帰ってきていないからな………」


「そ、そうですか………ところで、ですが………『夜明けの女』、という組織はご存じで?」


「ん? あー………たまに聞くくらいだな、とはいえ噂程度にしか知らぬが。」


うーん、風当たりはなしか。


聞けば辿り着けるかも、と思ったんだけどね、酒の効果もあって。


酒を持ってこの言種なら、ガチの意味で知らないと言っても過言では無いから話題を変えることにするわ。


「………それで、その代表が………『ティアモ・ガリウス』となっているのですが………まさか………」


「!! そうか………」


何か脈アリの反応だな、という事はまさか………“知っていて揉み消した”のだろうか? あの事件を………そう疑いたくもなった。


「君にだけ話しておくよ………王子の命でウチに来ているのだからな。」


旦那様は葡萄酒を一飲みし、こう私に告げた。


「………メシュラを殺したのはティアモだ。」


「………え………!?」


夜中なのであまり声は出せないが、驚きを私は隠せなかった。


こんなこと、もしティアモ女史が聞いていたとするなら私の命も危うくなる案件だ。


それをたった数日しか勤務していない私に話すのは、余程ケツァール王子を信頼していないとできない事だ。


「じゃ、じゃあ………その、『ティアモ・ガリウス』というのは………」


「ああ、ティアモの旧姓だ。当時仕えていた侍女がな、ティアモ達数人がメシュラを襲っていたのを目撃したそうなんだ。アイツに無理やり丸め込まれて妻にもらうことにしたのだがな………現実はこうだ、ミシュエルにも悪いことをした。だから今、泳がせている状態だ。」


「な、何のために、ですか………!? それで国が傾くような状態になったとしたら………!!」


「アイツはまず、惨たらしいくらいの報いを受けなければならん、アイツは私を利用しているつもりなのだろうが………本当にアイツを利用しているのは私の方だ。罪に罪を重ねて先に報いが待っているとするならば………ティアモを裁いてくれる“誰か”を待つ必要がある。それが………私がメシュラとミシュエルに出来る償いだ、だから君を迎え入れることを承諾した。」


軽い気持ちで引き受けなければよかった、私はこんな吐き気を催すような邪悪の女の下に派遣された、となると気分が悪い。


だけどやる事は固まった。


ティアモ女史の事を徹底的に洗うしかない、そして私はこう、旦那様から話を聞いて“黒いモノ”が浮かび上がった。


「ティアモ・オーヴァストを殺してくれる暗殺組織を探し出す事」に。


「………旦那様、私は今のことを王子に報告します。そしてティアモ様のことを洗い出します、『夜明けの女』が悪だと確信しましたから。」


「ああ。私も口外しない事は約束するよ。だから君も、慎重に行動してくれ。」


「………お気遣い、ありがとうございます。」


気に入らないけどティアモ女史に気に入られる事、そして「夜明けの女」の全てを王子に横流しにする事、これが私のミッションだという事に固まったからこそ、私の孤独とも言える戦いが幕を開けたのである。

 ミシュエルはゴブリンに囲まれながらもナイフを取った。


そしてミシュエルを捕らえ犯さんばかりの勢いでゴブリンが襲いかかってきた。


ミシュエルはナイフで抗戦し、足を止めてゴブリンの攻撃を捌き続けた。


しかし多勢に無勢。


見えていないところから額を棍棒で殴られて、ミシュエルの身体が吹き飛んだ。


右目の上から出血し、思わずミシュエルは瞼を閉じた。


だがミシュエルに逃げるという選択肢はなかった。


ゴブリンの身体能力とミシュエルの身体能力を鑑みても、逃げてもすぐに追いつかれるのは明白だった上、ミシュエルにはまだ希望があった。


それはアナトの存在だ。


貝の笛の音が届いていると信じ、ミシュエルはナイフを振るうしか選択肢がなかったのである。


(なんとか凌がないと………!! 私は何も覚えてないから………失うモノなんてないけど………このまま死ぬのだけはイヤですから!!)


なんとか戦う事を選ぶが、戦闘経験の差は歴然、すぐに劣勢に立たされた。


しかしミシュエルはすぐに「何かを」掴んだのか、徐々にゴブリンの攻撃に対応していくようになり、まともにクリーンヒットをもらう事は無くなっていった。


(ほう………面白い女だな、この軍勢を前に逃げるどころか一歩も退かないとはな………分からせ甲斐があるわ………諦めるという目をしておらぬ、戦闘自体は拙いが素材型でもあるしな………ここで仕留めておくべきだな、()()()()()()()()うちに………)


クビリャクがミシュエルをそう評したと同時に、ミシュエルがガス欠で膝を突いた。


「よくも手こずらせてよお………タンカス吐き出させてクビリャク様に捧げてやろうか………俺らに痛ぶられるか………どうするよ、女ぁ?」


「くっ………」 (身体が………重い………どうすればいいの、こういう時は………!! アナトさん………助けて………!!)


肩で息をしながら顔を覆うように息を上げるミシュエル。


ゴブリン達が一斉に手を出してきた瞬間、風を切る音と共に血がミシュエルの身体に滴る感覚が。


「え………?」とミシュエルが顔を上げると、そこにいたのは剣を携えたアナトが。


「あ………アナトさんッッ………!!」


思わず感嘆の声を漏らすミシュエル、颯爽と現れたアナトはミシュエルを労うようにこう言った。


「俺が来るまでよく耐えたな………大したもんだ。だから………」


アナトはギラついた目でゴブリン達を見据えたあと、ミシュエルにこう言い放つ。


「あとは任せろ。だからお前は………逃げて森を出ろ。」


「え………あ、アナトさんは………」


「俺が食い止めるからよ、逃げて俺の帰りを待ってろ。それで十分、だろ? お前のやれる事はそれくらいだ。」


「………わ、分かりました………」


ミシュエルはアナトとゴブリン達から背を向けて走り出していった。


「ほう………貴様一人で止めるつもりか?」


「ここでテメーらを殺らなきゃよ………!! 誰も守れねえだろうがよ!!!」


アナトはゴブリンの軍勢に向かって剣を振るうと、ゴブリン達は次々と首をアナトに刎ねられていく。


それも高速で手数多く振るっていくので、あっという間にゴブリンの命は散っていく。


クビリャクも目を丸くするほどでその剣技は美しさすら感じられた。


「………どうやら俺が出るしか無いようだな。貴様の強さを讃えてな。」


「はーん………テメエが親玉かい。強え方が燃えるんだよ、俺はよぉ!!」


アナトはクビリャクに向けて剣を振るうが、クビリャクも剣を振るい、ほぼ互角の鍔迫り合いになった。


「なるほどな………確かに強い、しかし俺には勝てぬ。何故なら俺の方が貴様より強いからだ。」


「そんなガキ大将みてえな言い分はよぉ!! 俺を殺してから言うもんだぜ!?」


アナトとクビリャクがガン、ガン、ギャン、ギャン! と噛み合わさっていくと、その音は森中に響き渡っていったのであった。





 そしてミシュエルは、というと。


アナトは逃げたと思っていたのだが、ミシュエルは木の陰に隠れてアナトとクビリャクの戦いを見ていたのであった。


(このお二人から学べる事があるはず………観察して今後に活かさないと………!!)


観察していたミシュエルだが、この「()()()()という行為」が誰にも予測できない事態を引き起こす事になり、ミシュエルを「()()()()()()()()()()()要因となるのである。

次回はミシュエルが覚醒します。

前書き連載の方も同時進行で動かしていく所存で頑張っていきます。

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