第3話 初任務とゴブリンの野盗団
前書き連載①ケツァールの真相究明
第1話 「自責」
正直言って、俺は後悔している。
なぜミシュエルを、詳しい事情も聞かずに宮殿から追い出してしまったのか、本当に分からない。
あの後、酷く雨が降りしきったから、果たして無事なのだろうか………それが心配で仕方がない。
婚姻式は俺専属の侍女である、パンドラに替え玉を頼んで事なきを得た、父上や兄上にはこっ酷く怒られたのはそうだが。
いつもなら捨てた女の事など気にも留めない俺だが、ミシュエルの腕にあった傷がどうしても気になっていた。
良いところの女にしては肌艶も悪かったし、表情も冴えていなかったからな、何かなければあんな状態で俺の元に行くわけがない。
俺は何かに巻き込まれかけたのか? そう思うと胸騒ぎがしてくる。
式を終えた後、俺はオーヴァスト家を調べる事にした。
徹底的に、だ。
そうでなければ腹の虫が治まるわけが、溜飲が下がるわけがないのだから。
俺は調べていくうちに、ある事実に直面した。
ミシュエルは前妻の娘、というのだ。
社交場にも顔を出していなかったようだから、俺も詳しい事まで知らなかったわけだ。
おそらく現妻のティアモが意図的に出していなかったのだろうが、いち令嬢なら社交の場に顔の一つや二つ、見せても本来ならおかしくないはずだし、それがマナーというものだ。
その時点で異常もいいところだ。
実母のメシュラは8年前に他界しているようで、その後に嫁いだのがティアモ、という事だが………おそらくこの女が俺を利用して、何かを企んでいるはずだ。
俺はパンドラを呼ぶ。
「ケツァール、何か困り事?」
「だから敬意を払えといつも言っているだろう、パンドラ………まったく、昔馴染みの感覚でいつまでもいるな………」
………パンドラは俺と2人きりの時はいつも敬意を払わないで接するから、王族として注意しているのだが一向に直る気配がない。
歳も同じだし、気安い関係なのも事実だがな。
「ともかくだ、パンドラ。お前に頼みたいことがある。」
「………まさかとは思うけど、ケツァール。」
「………なんだ?」
「まだミシュエル様のことが気になってるの?」
「………そんな事ではない。」
「またまた〜〜、貴方が女の子を気にする事なんてなかったもの、何年の付き合いだと思ってるのよ? それくらい分かるわよ?」
「冗談はよせ、パンドラ。頼みたいのはこうだ………街に繰り出してティアモ公爵夫人の噂や評判を調べてもらいたい。」
「あら、意外ね? そんな事でいいの?」
「かまわない。まだ調べなければいけない事があるからな、俺には。暫しの休暇だと思ってくれればいい。行ってこい、パンドラ。」
そう、調べなければいけない事がある、山のように。
パンドラに情報収集をさせるのは時間短縮の意味合いもある。
「王子の仰せのままに。キッチリとした情報を得てくるわよ、ケツァール。」
パンドラはそう言って、鼻歌を歌いながら去っていった。
俺はパンドラが去った後、ある資料を手に取った。
「とある事件」を記した、その資料を。
アッサリと、「闇雲の露」に受け入れられたミシュエルは、ペコ、と頭を下げた。
と、ここで声を発したのが褐色肌の白髪をした大柄な女性だった。
「ねえ、ボス? この子、何者なの?? 顔立ちからしてアタシらみたいな環境で育った子じゃないわよね??」
「マイア、ウチは詮索をしない方針だろ? 詳しい事情は………まあ、本人か連れてきたアナトが話しゃいいだろ?」
マイア、と呼ばれた女性は「ふーん……」と言いながら、ミシュエルに近寄った。
「アンタさぁ………何処から来たの? それが分かんないと、アタシとしたら仲良くのしようがないんだけど?」
「………すみません、自分の名前以外は何も………」
「はぁ??? んなわけないでしょ、アナト、どういう事よ??」
アナトはため息を吐きながら、こうマイアに言った。
「どうもこうも、そういう事だっつの………俺が拾って目ぇ覚ました時にゃ記憶が消えてた、って話だよ………」
「???? 意味わかんない、ホント得体の知れない子………」
マイアは納得していない面持ちで椅子に態度悪く腰掛けた。
アナトはため息を吐きながら、ミシュエル用に茶を淹れることにし、キッチンへと向かった。
ミシュエルは椅子に座り、何をすればいいのか分からない面持ちで人形のようにジッとしていた。
その姿はパンジーのように慎ましやかで、育ちの良さを感じさせる気品に溢れていた。
だが男がそれを見逃すわけがなく、節操もないようにキノコ髪型の青年が声をかけた。
「ミシュエルちゃ〜〜ん、この後どっかに行かない?」
「は、はぁ………どこか、とは?」
「どこでもいーんだよぉ、お近付きの印にさぁ、君の好きなところに………」
ナンパの構図だが、紅茶を淹れ終えたアナトが左手でカップを置きながらキノコ頭の青年の頭をグーで振り下ろして殴った。
「いってーーーー!!! 何すんだよ、アナトてめえ!!!」
「ラスク、テメエなぁ………! レディに節操もなく声を掛けるんじゃねえよ、アホが!! 慣れてもねえのに軽々しく誘ってんじゃねえぞ!? あぁ!?」
「んだよ、せっかくこんないい子を拾ったからって調子乗んじゃねえぞ、このワカメ頭が!!」
「どの口が言ってんだよ、この駱駝コブ頭がよぉ??」
どうやらラスクとアナトの仲はバチバチに悪いようで、罵詈雑言の言い合いになっている。
「あ、あの………マイアさん、止めなくてよろしいのですか………??」
「ほっときな、いつもの事だから。なんだかんだ、任務はちゃんとやる奴らだから。」
「………ふふっ、お仲がよろしいのですね?」
「「良くねえよ!!!」」
「オラ、そこまでにしとけ。」
「ボス」 「バーチスさん」
そんなこんなで言い争いをしていたアナトとラスクを制止したのがボスであるバーチスだった。
「ケンカすんのは別に構わねえが………依頼が入った。『ゴブリンの野盗団を仕留めてくれ』、って依頼が入った。ミシュエル、テメエも必要になる。」
「わ、私………ですか………??」
急展開に目を丸くするミシュエル、バーチスは、「ああ………」と呟きながら任務へと向かわせるようである。
「ミシュエル、テメエの役割は………『囮になる事』だ。いいな?」
「…………へ????」
いきなり無理難題のような任務を突きつけられた格好になったミシュエルだったが、彼女が暗殺の才能を開花させるのはこの任務中の話である。
同時進行で前書き連載をしたら面白いよな、みたいな試みでこの作品はやっていきたいと思います。
時系列は連動して行われますので、ご容赦ください。(話数を端折る意味合いもありますw)
次回は任務に向かう事になります。




