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狂える継母に鮮血を  作者: 黒崎吏虎
プロローグ
1/6

第1話 婚約破棄の果てに

どうも、黒崎です。

今回新作として、属性盛り合わせの恋愛ファンタジーです。

人間の狂気を中心に書きたいと思いますし、また新しい事にチャレンジしたいと思います。


一話目からエグい展開になりますが、ここからティアモの悪どい展開を広げていく所存です。

 ロクシャーム王国に属する第1級貴族「オーヴァスト家」。


その長女である18歳の令嬢・ミシュエル、彼女は、というと______継母であるティアモに毎日の如く虐待を受けていたのである。


殴る、蹴る、物を投げつける、罵詈雑言は日常茶飯事で行われ、とにかく自己中心的で癇癪持ちのティアモの気に障れば全てそれがオーヴァスト家当主でミシュエルの父・ラギエスの前妻で実母・メシュラの娘たるミシュエルに向くわけである。


ラギエスや侍女は見て見ぬふり、8歳の異母妹であるセーヌはそもそも知らない、そんな異常とも言える家庭だった。


勿論()()()()良き家族を装っている風にも映るし、他の貴族や王政府からの評価が高いのも事実ではある、しかし裏がこうであるし、実際ラギエスはティアモに尻に敷かれている状態なので誰もティアモに逆らう事すらできないのだ。


ミシュエルはそんな環境下でティアモがオーヴァスト家に嫁いでから10歳から過ごして居たため、半ば使用人のような扱いを受け、諦めにも似た感情で過ごして居たのであった。



そんなある日の事。



ミシュエルに婚姻の話が舞い降りたのである。




御相手はロクシャーム王国第3王子・『ケツァール・シングラッド』。


旦那に娶るには十分な相手………ではあるのだが…………


ミシュエルは書状をもらったラギエスに呼び出され、その話をされるのである。





「ミシュエル………突然呼び出して悪いな。」


「………いえ………」


ストレス過多なのか、少々痩せこけた頬と暗い声でミシュエルは返事をする。


もう全てが、どうでもいいような、そんな声色である。


「………ケツァール王子とお前が、明日結ばれる事が決まったのだ。」


「………はぁ………」


ミシュエルはそれだけを返すに留まったが、対照的にティアモは喜んでいた。


「まあ! 素晴らしいじゃないの、ミシュエル!! この私が毎度のように、貴女のためを思って言い続けてきた事が身を結んだのよ、感謝しなさいな!!」


………どの口が言っているのか、全くもって意味不明な言種ではあるのだが、ミシュエルはそれすらもどうでもよかった。


何しろ彼女は今、生きる希望すらないのに等しいのだし、嫁ぐといっても「私なんて………」と思っている始末だった。


セーヌに関しては家庭教師の元で勉学に励んでいるので、今ここにはいないのだがいずれ耳に入るだろう………といった具合だった。


「………そういう事だ、ミシュエル。わかったら婚姻の準備をしてきなさい。」


「………承知致しました。」


スッと頭を下げ、ミシュエルは部屋を出て行った。




とはいえ、ケツァールは()()()()()()()()女性が嫌いなため、敷居は高かれどDVの素養がある男なのもまた事実。


ラギエスはそこを不安視はしていたのだ。


「………なあ、ティアモ………本当に受けて良かったのか?」


「いいのよ、これで………あのポンコツを王子に嫁がせれば私のこの国での地位が上がる………都合の良い道具で十分、ケツァール王子も相手がいなかったようだし丁度いいわ………フフフ………」


ティアモはミシュエルを道具として(そのように)しか見ていないようで、悪意が見え隠れしている顔と悪どい笑みを浮かべていた。


それが彼女の本質で、自らが全て正しいと信じて疑わず、また()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな女性なのだ。


悪女と言っても差し支えないレベルである。


「………お前の判断なら、俺はそれに倣う。だが余計なマネはするな、それだけは忠告しておくぞ?」


「心配は要らないわよ………?? 私には………神をも力を貸してくださるのですもの、少しくらい得をしてもバチは当たらないわよ………?」


不穏な夫婦の会話が重くなる中、ミシュエルは宮殿へと向かっていくのであった。






 宮殿内へと通され、ミシュエルはケツァールと対面する。


ケツァールは切れ長の目に長身色白、艶のある薄めの金髪、整った顔立ちで気品を漂わせていた。


ミシュエルはスッと、ドレスの裾を上げて頭を下げて挨拶をする。


「お初に御目にかかります………オーヴァスト家長女のミシュエルと………申します。」


ケツァールは一瞬だけミシュエルをチラリと見遣り、これだけを告げた。


「…………今夜俺の部屋に来い。場所は教えてもらえ。」


怪訝そうな、しかし透き通った声でケツァールはそう言い残し、仕事へと戻っていったのである。


嫌われたのだろうか………ミシュエルはケツァールの態度に対してそう感じたが、担当の侍女に連れられ、部屋を宮殿内を案内される事となるのであった。





 その夜。


ミシュエルはケツァールの部屋のドアを叩いた。


「入れ」という声と共に、ミシュエルは恐る恐る入っていった。


照明を灯し、机で本を読んでいるケツァールの姿が。


所作は曲がりなりにも王家の人間のものではあったが、この裏に気性難を隠しているとなると人間何があるか分からないものだ。


「………ミシュエル、と言ったか?」


「ハイ………」


「………もう少しで読み終えるからベッドで座って待っていろ。」


「………今………何と………?」


「聞こえなかったのか? 座っていろ、と言ったはずだ。」


ケツァールの威圧的な口調でミシュエルは催促をされる。


だがミシュエルは座る事を躊躇っているようだった。


「で、ですが………主たる王子が先に御座りになられなければ………」


一歩退いたような、遠慮とも取れる発言をしたミシュエル、しかしそれがケツァールの気性難に火を着けてしまったようだった。


「この無礼者が!!」


激昂し、そう叫んだケツァール、何の躊躇いもなくミシュエルの胸ぐらを掴むと、力の加減など一切せずに乱暴に背からマットへと叩きつけた。


「なんだ、その態度は!! それでもこのケツァールの妃になる女か!! 対等な立場となるにも関わらずだぞ!? 俺が座るまで立って貴様は待ち続けるつもりだったのか!? 座る順序に主従関係などあってたまるか!!!」


「も、申し訳………ありません………」


精一杯謝罪をするミシュエルだったが、ケツァールの怒りは治まる気もしなかった。


「大体だな!! 喋り方や語り口調が何故こうも自信が無さげなのだ!? 貴様はこの俺に嫁ぐのだ、誇りとせぬのか!? ええ!?!? それとも何か………そうさせているわけでもあるのか!?」


ケツァールの言うことは至極正論だった、しかし、ミシュエルは重い口を開こうとしない。


ケツァールはミシュエルの裾から見えた腕を、ふと見やる、そして荒々しく掴み取り_____見てしまった。


夜のため少し薄暗かった、だがそれでも、それでも見えてしまう物が彼の目に映ってしまったのだ。


ケツァールの顔色が曇る。


そして怒気を孕んだ声でこう言った。


「………おい、()()()()なんだ………??」


「そ、それは………」


言えぬ事情があるのは事実だ、何せティアモから日常的に虐待を受けていたのだから、ミシュエルは。


火傷のようなアザが、裾から見えてしまっていてはどう取り繕っても誤魔化すことなど容易ではない。


何しろ相手は気性が荒いことで有名なケツァールなのだから。


恐怖からか何なのか、睨むわけでもなく顔を歪めたミシュエルを見て、ケツァールは腕をマットに投げ捨ててこう告げた。


「………出ていけ、ミシュエル………」


そう言うと背を向けた。


突然のことに理解が追いつかず、ミシュエルはガバッと体を起こす。


ケツァールはこう、続けた。


「俺はそんな小汚い娘を妃に貰った覚えなどない………俺が出ていけと言ったら出ていけ。」


「し、しかし………」


「出ていけと言っているだろう!! 俺は冗談など言わぬ!! さっさと荷物をまとめて出ていけ!!!」


ケツァールはミシュエルに目もやらず、何物にも変え難い怒り口調を発して追い立てる。


ミシュエルは何も言わず、ケツァールの部屋から出て行き、降り頻る雨の中宮殿外へと出ていったのであった。






 約1時間をかけ、ミシュエルは国の名物である「フラナスコの滝」が流れる山へと辿り着いた。


婚約破棄を言い渡され、行く宛もない上、実家に帰っても居場所など何処にもないミシュエルは、ただ途方に暮れていた。


どうすればいいのかも分からぬ中、ミシュエルは暖を取るわけでもなく雨に打たれ続けた。


(私の人生………つまらないものでしたわ………家に戻ってもあの日常、婚約も無きものにされたし………それならもういっそ………)


そう思うと、ミシュエルはポケットからスッと、宮殿に行く前に何かあった時用に買っていた毒薬の瓶を取り出した。


(楽に………楽になってしまえば…………それこそ……………誰にも知られずに………忘れられる事ができますから………)


瓶の蓋を外し、毒薬をミシュエルは一気に飲み干した。


効能はすぐにやってきた。


気道が狭くなり、全身に痺れが襲いかかった。


あまりの苦しさに身悶え、呼吸も断続的になりながら泥になった土の上を転がり、もんどり打った。


終いには血を吐き出し、幻覚まで見るようにまでなり______


亡き実母・メシュラの後ろ姿だけを見て、ミシュエルは意識を失ったのであった。





 翌日、朝日が差し始めた頃、偶然青年が滝の側を通りかかり、倒れているミシュエルを発見した。


漆黒の髪色をしたその青年は、只事ではないと察したようで………必死に呼びかけた。


「オイ!! 大丈夫か!! しっかりしろ!!!」


ミシュエルは奇跡的にも息はあるようだが、衰弱しきっていて、どちらにせよそのままなら死ぬだろう、という症状だった。


(………何があった………!? 格好からして良いところのお嬢サン、ってところだろうが………とにかく治療しねえと………!! 俺ん家はこの近くだ、どうにかできれば………!!!)


青年はミシュエルを抱え、自分の家へと連れ帰って療養する事にした。




(まったく………エグい毒、飲んでるじゃねえかよ………こりゃ解毒は難しいが………薬草と水を大量にぶち込んで…………身体拭いてやって、着替えも用意して………!! 何処の誰かは知らねえが………!! 助かっちゃいけねえ命なんかねえんだよ!!!)


懸命の治療を青年はミシュエルに施し、3時間後、ミシュエルは目が覚めた。


「………ここは…………??」


「………やっと気付いたか………どうにかなって良かったぜ………」


「………私は何故、ここに………? 貴方は………」


「アンタ………倒れていたんだよ、川岸で………それを俺が拾った、それだけのことだ。俺は『アナト』。色々聞きてえ事はあるが………アンタ、名前は?」


「…………ミシュエル………です………」


アナトは「OK、覚えた」とだけ言った。


「………何があった? 毒を飲むくれえの………強え自殺願望は………」


「………毒………??」


ミシュエルはどうやら、毒の後遺症なのか、()()()()()()()()()()()()ようだった。


そしてこの記憶の欠如が、アナトという青年との出会いが、ミシュエルの運命を大きく変える事になるのである。

次回、プロローグ第二話です。

ミシュエルはアナトと出会って何をするか、それをお楽しみくださいませ。

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