表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

「君は、何になりたいんだい?」



「困ったことがあったら、いつでも僕を呼んで。きっと、駆けつけるから。」

わたしに彼は言った。

いつ、どこで彼に会ったのか正直覚えていない。覚えているのは、彼に話を聞いてもらうとたちまち笑顔になれるということだけ。

これは、この町に伝わっている言い伝え。都市伝説や、噂話とは違う。本当に彼はわたしたちを笑顔にしてくれる。

彼の名は……







僕には二つ上の兄がいる。 何をやっても平均以下の僕と違って兄は なんでもできる。勉強、スポーツ、全校生徒の前でのスピーチなんかも完璧にこなす。 少し前まではそんな兄がいることが誇らしかった。近所の人や先生にも、すごいと言われる自慢の兄だった。

でも……最近、気づいた。みんなは兄の話はよくするけど、僕の話は全くしない。それどころか良くできる兄の弟としか見られない。

父さんも母さんも兄と僕をいつも比べる 。


僕は兄のようになりたい。

なんでもできる完璧な人間になりたい。


僕はある日、家出を決心した。

どこにいこうか迷っているといつのまにか公園にきていた。


この公園には、ある噂があった。 誰に聞いたのかは忘れたけど、落ち込んでいるとき、悩んでいるとき、その人の名を呼ぶとたちまち笑顔にしてくれるらしい。


僕は半信半疑でその名前を呼んでみた。

「えがおやさん、でてきてよ!」

……辺りが静寂に包まれる。

やっぱり、ただの噂じゃないか。 僕がこれからどうしようか迷っているとうしろから、優しい声が聞こえた。

「僕を呼んだかい?」

驚いて後ろを振り返った。

そこには、一人の優しそうな男のひとが立っていた。 年齢はわからない。若いお兄さんにもみえるし、中年のおじさんにも、年老いたおじいさんにも見える。

「僕を呼んだかい?」

男の人がもう一度僕に聞いた。

「誰?」

「おいおい、君が僕を呼んだんだろう? それなのに誰?とは、ちょっとひどいのではないのかい?」

男の人は、少し不満そうに言った。

「おじさんが、えがおやさんなの?」

僕は不安になった。

「そうだよ。僕がえがおやさんだよ。」

自称えがおやさんが胸を張って答える。

「本当に?」

「本当だよ。だから、僕に何があったのか話してみないかい?」

この時、この人は信頼できると直感で感じたから不思議だ。 僕は自分が思っていることを全部はなした。えがおやさんは、時々頷きながら僕の話を聞いてくれた。


「それで、君は何になりたいんだい?」

「えっ?」

僕の話が終わるとえがおやさんが聞いてきた。

「君は何になりたいんだい?君のお兄さんかい?それともなんでもできるすごい人にかい?」

「えっと……」

僕は言葉につまった。 そういえば、僕は何になりたいんだろう。兄のようになりたいけど、兄になりたいんじゃないし、何でもできる人と言われたら少し違う気がする。 結局、僕は何になりたいんだろう? 黙りこんでいると、えがおやさんが話しかけてきた。

「きっと、君は君を肯定してくれる人を求めているんだろう。」

「僕を肯定してくれる人?」

僕は聞き返した。

「そう。人はね誰かに肯定してほしいって心のどこかで思っているんだ。どんなに一人が好きな人でもね。君もそうなんだと思う。」

「……」

黙り込んでしまった僕を見てえがおやさんは言った。

「実はね、昔、君のお兄さんが君くらいのころ話したことがあってね。」

初めて知った。まさか、兄もえがおやさんに会っていたなんて。

「そのときね、お兄さんは周りの期待にこたえるのが辛いって言ったんだ。知らなかったろ?」

僕は頷く。そんなこと兄からはなんにも感じなかった。

「みんなおんなじなんだよ。みんな怖いんだ。周りの人のことを気にしてしまう 。君も。お兄さんも。だからね、」

えがおやさんは一度言葉を切った。黙って続きを待つ。

「だからね、君はなんにも気にしないでいい。なんにも気にしないで君の好きなように生きればいいんだよ。」

(なんにも気にしないで、か。)

「わかった。」

僕は言った。心が少し軽くなった気がした。

「もう大丈夫そうだね。でもね、辛くなったらまたここに来なよ。」

「うん!」


少し強い風が通りすぎていく。 思わず目を閉じまた開くと目の前には誰もいなかった。

「えがおやさん?」

返事はない。

「ありがとう。」

僕はそっと呟いた。 お礼の言葉、えがおやさんには聞こえただろうか?


「さて、帰るか。」

僕は荷物を全部持って軽い足取りで家に向かった。


「どういたしまして。」

「えっ?」

思わず後ろを振り返った。えがおやさんの声がしたような……?

でも、そこには誰もいなかった。

「気のせいか。」

僕は再び足を進めた。みんなが待っているであろう我が家に向かって。


少年は帰ったら兄にえがおやさんについて聞いてみようと思い、笑った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ