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彼と秘密の守護天使  作者: 日下真佑
8/40

8守護天使と倦怠

不定期更新になってしまい、すみません!

必ず完結しますので、どうぞお付き合いください。

 その夜は、すっかり目が冴えてしまったらしく、夜になっても全く寝つくことができなかった。

やっぱり香奈の言った通り、一日十五分だけにしておかないと、まずいのかもしれないとちょっと思う。

しかし、宿題だけかろうじてして、ご飯もあまり食べず、集中して何時間も特訓したおかげで、ともひろの気配や仕草だけでなく、言葉も少しずつ拾えるようになっていた。

「やっぱり、十五分は短すぎるよ。これくらいやらないと、ダメだよね」

悠奈はひとり呟くと、ベッドにごろんと寝返りを打った。全く眠れない。体は一日過ごしてくたくたのはずなのに、目や頭がすっきりして、全く眠たくならない。

ふと時計に目をやると、もう午前一時を過ぎている。どうしよう。一日くらい寝なくても平気だろうけど、明日は体育大会の練習もあるし、やっぱりちゃんと眠りたかった。

悠奈はもう一度寝返りを打つと、ともひろに話しかけた。

「ともひろ。眠れないよ。どこにいるの?」

すると、ずっと側にいたのか、守護天使のともひろは、見えない腕で悠奈を後ろから抱き締める。

「ここにいるよ。悠菜」

甘い声で囁かれて、ドキドキする。

「このままだと明日が辛いから、眠りたいんだけど、眠れなくなっちゃった。どうしよう…」

小さな声で呟くと、智弘がそっと前髪を撫でてくれるのが分かった。

「悠奈、大丈夫だよ。俺が眠らせてあげるよ」

心地よい声に、悠奈は益々頭が冴え渡っていくような気がした。ともひろの見えない腕は温かいけれど、こんなにドキドキすることを言われて、本当に眠れるの?

「ともひろ、ごめんね。やっぱりドキドキして眠れないよ。お願い、私を眠らせて」

優しく抱き締めてくれるともひろに甘えた声で言ってみると、ともひろは悠奈の髪にそっと顔を埋める。

「大丈夫だよ。目を閉じて、俺の言うことを聞いて…」

耳元で囁かれて、悠奈は言う通り目を閉じた。

「今から、眠れるおまじないをかけてあげる。だから、俺の温もりを感じて」

ふわっと温かい優しい感覚に意識を集中させると、体がいい感じに力が抜けて、リラックスするのが分かった。そんな悠菜の様子を、ともひろは後ろから抱き締めながら確認する。

「できたね。上手だよ。じゃあ、次は頭の力を抜くよ。空に浮かんで雲に乗っているイメージをして、頭の中を空っぽにして」

ともひろに言われた通り、全身が空に浮かび雲のベッドに寝転がっているところをイメージすると、頭の中を無にする。

ふっと意識が一瞬曖昧になった瞬間、まるで本当に魔法にでもかかったかのように、夢の中へと落ちた。

「…とも、ひろ」

寝言で抱き締めてくれる守護天使の名を呼びながら、悠奈は今までにない程、深い眠りに就いた。


「お姉ちゃん、いつまで寝てるの?遅刻するよ!!」

翌朝、妹の香奈に散々叩き起こされて、目を開ける。

遅い時間からぐっすり熟睡してしまったせいか、目も頭もやけに重い。

まどろみたい体を無理矢理起こして時計を見ると、もう八時近くになっていた。

「やだ!!どうして起こしてくれなかったの?!」

あわててベッドから起きて、窓の外を見るも、誰もいない。どうやら春菜と涼太は、香奈が気を利かして先に学校へ行くよう、お願いしたらしい。

悠奈は慌ててパジャマを脱ぐと、寝坊した自分に苛立ちながら制服に着替えた。思った速さで動かない手足をもどかしく感じながら、必死で身仕度を調えると、ささっと髪を束ねて玄関を飛び出す。

どうしよう。一限目は体育大会の練習なのに、これじゃあ遅刻して怒られる!

悠奈はうっかり寝過ごしたことに後悔しながら、全力で学校へと走った。こうなると、もう守護天使のともひろどころの話じゃない。

息を切らして必死で走ったり歩いたりしながら、ようやく校門をくぐる頃には、始業のチャイムが校庭に鳴り響いていた。

悠奈は校庭に整然と並ぶ同級生達を見ながら、はぁ、とため息を漏らす。

完全に遅刻だ。そしてかなり苦手な体育教師に叱られる。ただでさえ嫌いな体育なのに、その上みんなの前であいつに叱られるのだけは、絶対にイヤだった。

「具合が悪いことにして、保健室にでも行こうかな?」

そっと校庭の様子を伺いながら、悠奈は仮病を使って保健室に行くことにする。

本当はいけないことは分かっていたけれど、先日同じように遅刻した一年生が、全校生徒の前で体育教師に大きな声で怒鳴りつけられていたのを見たこともあり、どうしても遅刻して体育大会の練習に参加するのだけは避けたかった。それに保健室へ行けば、ゆっくり体を休めることもできるし、ともひろとお話もできる。朝起きてから一度もともひろと会話していないことに気づいて、本当に良いことを思いついたと悠奈は嬉しくなった。

 早速、具合の悪そうなふりをして保健室へ行くと、幸い先客は誰もいない。

頭が痛いと嘘をついてベッドに横にならせてもらうと、保健の先生は悠奈のベッドの横のカーテンを引いて、「ゆっくり休んでね」と職員室へ行ってしまった。

先生が行ったのを見計らって、カバンの中から黒色のヘアゴムを取り出す。

右腕に嵌めると、目を閉じて意識を集中させた。

「ともひろ、おはよう。遅くなってごめんね」

誰もいない保健室で、今日初めて、ともひろに話しかける。すると、仮病の頭痛でベッドに横たわる悠奈を、ともひろは優しく腕枕してくれているようだった。

「悠奈、仮病はだめだよ。でも、本当に体が疲れているみたいだから、俺が癒してあげる」

ともひろはそう言うと、悠奈の頬にそっとキスをした。


「もう、悠奈。今日も体育大会の練習来なかったよね?」

悠奈は昨日に引き続き二日連続で、保健室のベッドに寝ていた。

今日の練習は三時間目だから、別に遅刻じゃなかったんだけれど、校庭を何周も行進させられたり、走らされたり、元々運動が好きじゃない悠奈にとっては、体育大会の練習自体が、最初から苦痛でしかない。だからって、さぼっていい理由にはならないけれど、昨夜も遅くまでともひろとおしゃべりする練習をしていたら、また眠れなくなって、寝不足で辛いのが本当の理由だ。

しかも、前の夜はともひろがおまじないで眠らせてくれたのに、昨夜はしてくれなくて、ひたすら抱き締められたまま、冴えた目を持て余して朝を迎えた。

 そんな経緯もあって、また今日も保健室のベッドで守護天使のともひろに甘やかされているうちに、気がつけば気持ちよく寝息を立てて眠っていたらしい。保健委員の仕事でたまたま保健室に来た春菜に起こされて、悠奈はびっくりして目を開ける。

「何、昨夜も漫画の読み過ぎで寝不足?」

「う、うん…昨日は本当に眠れなかったんだ」

ぼーっとする頭を無理矢理起こして、ベッドから降りると、しわくちゃになった制服のブラウスを両手で直す。

ふわぁと大きな欠伸をすると、目から涙がこぼれた。そんな腑抜けた悠奈を見て、春菜は困ったようにため息を漏らす。

「最近悠奈、ぼーっとしていること多いよね?しっかりしないと、体育大会であいつに怒鳴られるよ」

「分かってる」

目を擦りながら答えると、大きく伸びをする。

確かに、こんなにぼーっとしていたら、体育大会の練習だけでなく色々まずいよね。しっかりしなくちゃ。

鞄から水筒を出して、冷たい麦茶を一口飲む。これで目を覚まして、四時間目はしっかり授業を受けようと思う。

しかしそんな悠奈の気持ちとは裏腹に、体は鉛のように重くて言うことを聞かない。どうしたんだろう?生理前でもないし、本当に疲れているのかな?そんな、もたもたしている悠奈にしびれを切らした春菜は、ちらっと時計を見ると、苛立ったように悠奈の手をぐいっと引いた。

「あと三分だよ。まずは教室へ行こう!」

「うん」

悠奈も手早くカバンを持つと、春菜に引かれるままに保健室を後にする。

ぼーっとする頭で、さっきまでベッドで抱きしめてくれていた、ともひろを探す。

ともひろ、次は世界史の授業だよ。眠りそうになったら、私を起こして。

勝手なお願いとは分かっているけれど、悠奈は廊下を走りながら、ダメ元でともひろにお願いしてみる。するとふわっと肩に温かい腕の感触が戻り、脳内に甘くて優しい声が囁く。

「ごめんね。眠らせてあげることはできるけれど、起きるのは自分でするんだよ。ほら、俺がさっきしてあげたことを思い出して」

そんなことを囁かれて、悠奈は思わず耳まで赤くなった。

さっきまで、保健室のベッドの上でずっと抱き締めたり、キスしてくれたりしたよね。

ともひろと過ごした甘い時間を思い返すと、ドキドキして息が苦しくなった。

「ちょっと、熱でもあるの?顔が真っ赤だよ?」

教室の手前でいきなり顔が真っ赤になった悠奈を見て、春菜は思わず悠奈の額に手を当てる。

「熱は無さそうだね。とにかく、早く席に座るよ」

始業のチャイムギリギリに席に着くと、春菜はふぅと安堵の息を吐いた。

チャイムが鳴り終わると同時に、世界史の教師が教室へ入って来る。教科書を形ばかり開いて、遠い異国の歴史を上の空で聞く悠奈を、涼太は窓際の席から、横目でちらっと心配そうに何度も見ていた。

あいつ、体育大会の練習も休みがちだし、最近、一日中ぼーっとしていることが多いし、大丈夫なのかな?

昨日は朝も遅れたよな。

絶対に、何かがおかしい。

幼なじみの勘なのか、それとも嫌な予感なのか。涼太の胸には、言葉にならない漠然とした不安が、少しずつ募っていた。しかしそれを言葉にして悠奈に伝えるには、涼太はまだ子どもだったし、悠奈の日常を知らなさすぎた。

「どうしよう?後で声でもかけてみるか」

昔からの友達だから、放っておくことなんて、できないよな。

悠奈の心をどこかへ置いてきたような、ぼーっとした横顔を見ながら、涼太は心の中で決心した。



いつも読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします!

よろしければ、感想や評価を頂けますと大変励みになります。よろしくお願いします。


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