7守護天使との甘い時間
いつもありがとうございます。
明日以降も頑張りますので、どうぞお楽しみください。
その日の放課後。学校から帰った悠奈は、妹の香奈に頭を下げた。
たった一日の練習で無理なのは分かっていたけれど、やっぱり学校ではともひろの気配を、上手く拾うことができないからだ。
「お願いします!ともひろの気配を拾う練習、手伝ってください!!」
すると香奈は、一瞬眉をしかめるも、週に一度アイスをご馳走することを条件に、快諾してくれた。
「いいよ。でも練習は私といる時間プラス十五分だけ。他はしないって約束できる?」
「できる、できる!!約束する!!!」
両手を合わせて、何度も頭を下げる悠奈に、香奈ははぁ、とため息を漏らした。
「本当に、しょうがない姉だなぁ…。じゃあ早速やるよ。まずは、昨日の黒色のヘアゴム、あれを右手に付けて」
「分かった、ちょっと待って」
悠菜はカバンからヘアゴムを出すと、さっと右手首に付けた。香奈はそんな悠菜の様子を見て、頷く。
「行くよ?今、ともひろさんはどこにいるでしょう?」
香奈に問われて、悠奈は目を閉じる。感覚を頭の真ん中に集中させて、ともひろの発する微かな気配を感じてみる。
「私の右後ろ?」
「当たり。じゃあ、何してる?」
「うーんと、腰に腕を回しているのよね?」
「やるじゃない。当たりだよ。じゃあ、今ともひろさんが言った言葉、分かった?」
「うーん……分からない」
悠奈は頭を抱えた。腕の感触や、立っている場所は何となく分かるようになったけれど、細かい言葉や仕草を拾うのが、どうしてもできない。
「ねえ、香奈。何て言ってるの?」
「あのね、悠奈、大好きだよって言ってる!もう、こんな言葉、小学生に言わせないでよ!」
「ごめん、ごめん。他には何て?」
「今日もかわいいよ、だってさ!あー、くだらない!!今日の練習はここまでね。あとは自分で拾って。練習時間はくれぐれも十五分だけだからね!」
香奈は吐き捨てるように言うと、ぷいっと横を向いて部屋を出て行った。香奈がいなくなって、悠奈は再びともひろの気配を拾い始める。
「ともひろ、ありがとう。私もともひろが大好きだよ」
口に出して言ってみて、頭の真ん中に意識を集中させる。香奈によると、あまり力まず、さりげなく力を入れるのがコツらしい。すると、
「悠奈、やっと二人きりだね」
とともひろの甘い声が、脳内に聞こえた。
「私も。ずっと、ともひろと二人きりになりたかった」
悠奈はそう言うと、ぽろぽろと涙をこぼした。
「ともひろ、お願い!私を抱き締めて」
ダメ元でお願いして目を瞑ると、「いいよ」と優し声が聞こえてくる。
ほんのりぬくもりを感じる、見えない大きな手で抱き締められて、悠奈は幸せな気持ちでいっぱいになった。
「ともひろ、温かい。ともひろが抱き締めてくれているの、ちゃんと分かるよ」
見えない腕の上に、そっと手を乗せると、悠奈は愛おしそうにその手の感触を感じた。
「悠奈、いつも側にいるよ。どこへも行かないよ」
ともひろの声が脳内に響き、心がきゅんと切なくなる。
これは守護天使のともひろで、本当の智弘じゃないかもしれないけれど、でも今の悠奈にはそれでもいいと、心から思えた。
「ありがとう。ずっと一緒にいてね。寝るときもだよ。約束ね」
右後ろから抱きしめているともひろに言うと、微かに抱きしめる腕の感触が強くなる。
「当たり前だよ。寝るときもずっと、悠奈の側にいるよ」
「嬉しい!」
ともひろの腕の感触に幸せを噛みしめていると、ほほにビリッと不思議な何かが触れるのを感じた。
「?」
悠奈が目を見開くと、ともひろの声が優しく響く。
「悠奈がかわいいから、頬にキスした。もう一度、してあげようか?」
「うん、お願い」
悠奈がうっとりしながら目を瞑ると、また頬に僅かにビリッと優しい感覚を感じる。
「ともひろ、嬉しいよ」
悠奈は最高に幸せな気持ちのまま、頬に感じた素敵な余韻を、いつまでも噛みしめてうっとり目を閉じた。
いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。
次話も続きますので、どうぞお付き合いください。
これからもよろしくお願い致します!