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彼と秘密の守護天使  作者: 日下真佑
5/40

5智弘の面影

いつもありがとうございます。今日は体調がいいので、もう少しアップします。」

どうぞお楽しみください!

家に帰ると、悠奈は早速香奈を探した。

「ねえ、香奈、どこにいるの?」

しかし、勉強部屋を覗いても、リビングにも香奈はいない。

仕方なく自分の部屋に鞄を置いて、服を着替える。友達のところにでも行ったのだろうか?せっかくトモさんが何をしゃべっているのか、いっぱい聞こうと思っていたのに…。

悠奈はため息をつくと、ベッドに腰掛けてペットボトルの水を飲んだ。

誰もいない家。頭の真ん中に意識を集中させても、トモさんの気配も何も感じない。

「トモさん、いるよね?」

独り言のように呟いてみるも、返事は無い。いつも腰や肩に添えられている腕の感触も、全く分からない。時計の秒針の音だけが響く部屋で、悠奈は何だか、とてつもなく空しい気持ちになった。

ベッドの上に寝転がると、飾られたままの智弘の写真が目に入る。二人でお揃いのパーカーを着て微笑む智弘の笑顔に、胸がドクンと音を立てる。まるで塞がったばかりのかさぶたが、少し破れて血を滲ませたみたいに、音を立てて破れた心の傷は、じくじくと鈍く痛んだ。

私、本当は智弘に会いたいけれど、振られて寂しいから守護天使のトモさんに甘えているだけなのかもしれないね。

苦しいことがあったら、一人で抱えずにちゃんと言えよ。

そう言ってくれた涼太は、本当に優しくて朴訥で、信頼できる腐れ縁だ。

でも、智弘のことも、トモさんのことも、涼太に相談するわけにはいかない。何故なら、涼太には、恋とかそういうの、ちゃんと理解できるとは到底思えないからだ。

「まだ、智弘のこと、引きずってるのかな・・・」

トモさんに抱き締められた時、好きな呼び方で名前を呼んでいいよと言われた時、ふと心の中で「智弘」って呼びたくなったことを思い出す。

智弘、って呼んだら、トモさんどう思うかな?嫌じゃないかな?でも、トモさんは元々智弘の分身なんだから、智弘って呼んでもいいのかな?

そんなことを考えていると、何だか心がざわざわして、気がつけばぽろぽろと涙がこぼれていた。

本当は智弘に抱き締められたい。大好きって言ってもらいたい!でも、それがもう叶わないから、偶然現れた智弘そっくりの守護天使のトモさんに、甘えているだけなのかもしれない。でも、

「それでもいいよね。このままじゃ悲しくてどうしようもないから、誰かに抱き締められたいよ」

悠奈は言うと、両手で自分の体を抱き締めた。

トモさんは優しいし、甘やかしてくれるけど、本当は智弘にこうしてもらいたいんだよね。

「智弘、寂しいよ」

悠奈はベッドの上の写真を抱えると、久しぶりに声をあげて泣いた。

本当は一緒にいたかったのに。突然、よく分からない理由で、別れるとか言っていなくなって…。

どうしてこんなに心が不安定なんだろう。トモさんがいないから?それとも、智弘がいないから?

するとその時、

「ただいま」

と玄関から明るい声がした。

妹の香奈が帰って来たらしい。

悠奈ははっとして顔を上げると、何事もなかったかのように涙を拭う。

洗面所へ走って行って、香奈に気づかれる前に顔を洗うと、タオルでぽんぽんと水気を拭きながら、精一杯微笑んだ。

「おかえり!どうしよう、香奈。トモさんがいなくなっちゃった」

妙なテンションで言うと、香奈は呆れたのか、露骨に嫌味を混ぜたため息を漏らす。

「はあ、妹が帰って来て、最初に聞くのがそれ?」

「ねえ、お願い!トモさんを探して!!」

香奈の華奢な肩を掴んでぶんぶんと揺する姉の腕を、香奈は力いっぱい振り解いた。

「分かったから!トモさんなら、今、ちょっと天界に帰ってるだけだから、落ち着いて」

香奈が言うと、悠奈はけろっとして、肩を掴んでいた手を離す。

「そうなの?守護天使様は、ずっと人間の近くにいるんじゃないの?」

目を見開いて言うと、香奈はもう一度、はあ、と深いため息をついた。

「あのね、天使だって天界に帰って少しは休憩しないと、毎日こんな甘ったれの女子高生の面倒一日中見させられたら、堪らないでしょ?もう少ししたら戻って来るだろうから、大人しく待ってなよ」

香奈はそう言うと、さっさと洗面所へ、手洗いとうがいをしに行った。

悠奈はほっとした。そうか、トモさんは今、天界で休憩中なのか・・・。

今度戻って来てくれたら、トモさんじゃなくて、智弘って呼んでもいいか、聞いてみよう。

心の中でそう思うと、次の瞬間、あの温かい腕の感覚が腰の辺りに戻って来た。

「悠奈、ごめん。寂しかった?」

トモさんの声を聞いて、悠奈はぱっと顔を輝かせる。

「寂しかったよ。トモさん、トモさんは智弘の分身なんでしょ?」

「そうだったら、どうしたい?」

深くて心地よい声が耳元で囁くと、悠奈の心は、一瞬できゅんと温かくなる。

「じゃあ、これからトモさんじゃなくて、智弘って呼んでもいいですか?」

勇気を出して言ってみると、大きな手が優しく悠奈の頭を撫でてくれるのが分かった。

「悠奈がそう呼びたいなら、いいよ」

「智弘!!」

守護天使の見えない腕に後ろから抱きすくめられて、悠奈はそっと目を閉じる。

「本物の智弘みたい。智弘、私、幸せだよ」

「俺もだよ」

甘い声で囁かれて、悠奈はとめどなく涙を流した。




いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

次話も続きますので、どうぞお付き合いください。

これからも、よろしくお願い致します!

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