4涼太
いつもありがとうございます。
体調の都合でお休みしてしまい、すみません。
今日は4本アップします!どうぞお楽しみください!!
トモさん、どこにいるの?今、数学だけど、トモさんも一緒にいるよね?
授業中、ちゃんと聞いていなくちゃいけないのは分かっているけれど、悠奈はつい、トモさんの気配を感じようと感覚を澄ます。
詳しい表情や、長い会話は無理でも、腰や肩に当たる手の感触とか、短い会話なら、少しだけ聞き取ることができた。
妹の香奈に教えて貰った通り、頭の真ん中に意識を集中していると、次第に肩を抱いてくれているトモさんの腕の感触が、はっきりしてくる。
トモさん。いつも優しいよね。いつも優しくしてくれるよね。そういえば、智弘も優しかったけれど、トモさんみたに大人じゃないから、こんな気の利いたことはできなかったかな。
後ろで立っているだろうトモさんに話しかけてみるも、返事は無い。
あれ?ちゃんといるんだけどな。トモさん、私に分かるように返事してよ?
しかし、よく聞こうとすればする程、トモさんの声は聞き取れなくなってしまうようだった。
はあ、仕方ないな。トモさんとお話するのは諦めて、ちゃんと勉強するかな。と、悠奈は初めて顔を上げる。授業は知らない間に随分進んでいて、涼太が黒板に問題の答えを書いている。
悠奈は慌ててシャーペンを持つと、ノートに黒板の数式を書き写し始めた。説明を聞いていなかったから、さっぱり分からないけれど、とりあえずノートだけは書いて、あとで春菜にでも教えて貰おう、と現実に頭を引き戻す。
トモさんとの時間はとても幸せだけれど、どっぷり浸かったら戻れなくなりそうな危うさがあるのを、何となく感じていた。でも、それでもトモさんは心地よくて、甘い言葉も優しい言葉もいっぱいかけてくれる、かけがえのない私だけの守護天使様だ。
悠奈は黒板の数式を手早く写しながら、また、すぐにトモさんのことを考え始めた。
トモさんは本当に、智弘が連れて来た、守護天使様なんだよね。智弘の分身なんだよね?
すると今度は、
「俺は悠奈の守護天使。名前も好きに呼べばいい」
とトモさんの心地よい声が、脳内に聞こえる。
トモさん!
思わず机を蹴って、悠奈ははっとした。
「こら、田口!授業中に他ごとばかり考えるな!さっきから、全然授業聞いてないだろう?」
クラスメイトの笑い声が、あちらこちらから聞こえる。黒板の前にいる数学教師に叱られて、悠奈はバツが悪そうに俯いた。
放課後、珍しく野球部が休みの涼太から、帰りに付き合って欲しいところがあると、悠奈は声をかけられた。
「ちょっとさ、駅前のファーストフードに付き合えよ」
「いいけど」
何だろう?春菜抜きで私だけなんて、初めてでちょっと戸惑ったけれど、別に用事も無いし、涼太ならいいかな、と悠奈は着いて行く。
前を歩くと意外と背の高い涼太の後ろ姿を見上げながら、悠奈はまたトモさんのことを考えていた。
トモさんはこんな時も、ちゃんと悠奈の腰に手を回して抱き締めてくれている。トモさんと比べると、涼太って本当に子どもだよね、そう思うと、悠奈は涼太の坊主頭を見ながら、何だか可笑しくなった。
ファーストフード店に入ると、悠奈はジンジャーエールを注文した。涼太はお腹が空いているらしく、ハンバーガーとポテトのセットを注文している。
「あのさ、お前最近、一日中ぼーっとしてるけど、どっか悪いのか?」
席に着いて、早速ハンバーガーを大きな口で頬張りながら、涼太は悠奈を真っ直ぐ見る。
「別に。どこも悪くないよ」
「そうか、それならいいんだけど、お前何か最近変だからさ。今日も数学の時、先生に叱られてたし」
「たまたまだよ。気にしない、気にしない!」
悠奈はつとめて明るく言うと、ジンジャーエールを一気に飲み干した。
「用事って、それだけ?ちょっと忙しいから、帰ってもいいかな」
空のカップを手にしながら、カバンを持つと、涼太はそんな悠奈の手を咄嗟に掴む。
「待てよ。ちょっと座れって」
ぐいっと手を引かれて、もう一度席に戻されると、悠奈は渋々腰を下ろした。
「何?」
本当は一刻も早く家に帰って、妹の香奈にトモさんの言動を教えてもらいたくて堪らないのに。面倒臭そうにジロリと涼太を睨むと、涼太はいつになく真面目な顔でハンバーガーをトレイに置いて、悠奈を見つめる。
「あのさ、困ったこととかあったら、ちゃんと言えよ。俺、悠奈のこと、大事だからさ」
えっ?これって、告白?
突然、大事とか言われて、悠奈は目を白黒させる。すると涼太は、そんな悠奈に気づいたのか、
「ばーか。幼なじみとして、大事だっての。とにかく、苦しいことがあったら、一人で抱えずにちゃんと言えよ。いつでも聞いてやるからな」
ちょっとだけ上から目線の涼太の言葉に、悠奈はくすっと苦笑した。
「だよね。涼太とは小学校からの腐れ縁だもんね。ありがとう。その時はちゃんと相談させてもらうよ」
悠奈はそう言うと、もう一度鞄を持って、涼太に手を振る。
「じゃあ、また明日。私、帰るね」
「おう、またな」
涼太が手を振るのを見届けて、悠奈は一目散に駅へと走り出した。
いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます!
次話も続きますので、どうぞよろしくお願い致します!