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彼と秘密の守護天使  作者: 日下真佑
1/40

1失恋

こんにちは。日下真佑です。

以前たくさんの皆さまに読んで頂いたのに、削除してしまい、申し訳ありませんでした。

とある文学賞へ応募の予定でしたが、体調の関係で断念せざるを得ず、よりたくさんの皆さまにお楽しみいただきたく、もう一度復活させていただきます。

さらに推敲を重ねて、持てる力の完璧な形での投稿なので、どうぞお楽しみください!

 幸せな高校三年生にもうすぐなれそうだな、と思っていた春休み。

 悠奈は突然、一年間付き合った、智弘に振られた。

理由は分からない。あんなに大好きで、お互い毎日のように、大好きってメールしていたのに、お別れは突然、一方的に智弘から告げられた。

「何故?私のどこがいけないの?」

泣きそうなのを堪えて聞くと、智弘はその涼しい目をそっと伏せて、寂しそうに俯く。

「どこもいけなくなんて、ないよ」

とても優しい声。大好きだよって毎日言ってくれたのと同じ、とてもとても優しい声なのに、どうしてこんなに残酷なことを言うの?

「じゃあ、何故?どうして別れるの…?」

縋るように見つめると、智弘はそっと目を逸らして言う。

「こうするしかないから。これ以上悠奈に甘えたら、俺がダメになるから…」

何、それ?

今までだって、甘えてきたのはずっと悠奈の方なのに。高校の一年先輩で、背が高くて頼りがいがあって、いつだって甘えさせてくれたのは、智弘の方だったのに。

「やだ。納得できない。こんなの、絶対納得できないよ!酷いよ、智弘!!」

悠奈は気がついたら、涙をぽろぽろ流して、智弘のシャツを掴んでいた。まるで安いドラマの登場人物みたいで情けなかった。でも、安っぽくても、何でも構わない。今の悠奈には、どうしても智弘を手放すことなんてありえなかった。

「お願い…別れないで。私、智弘が大好きなの。今まで生きてきて、智弘が一番大好きなの…ねぇ、智弘、お願いだよ!」

しかし、悠奈の必死の懇願も空しく、智弘は俯いたまま少し顔を上げると、申し訳なさそうに頭を下げた。

「ごめん…やっぱり今は、別れる以外、無理だよ」

そう言うと、智弘は悠奈の手をとり、一瞬、とても寂しそうな目をした。大好きな目。睫毛の長い温かくて優しい目が、もう後には戻れないことを覚悟している。

「今まで本当にありがとう。じゃあね」

悠奈の手をそっと離して、踵を返す。

大好きだった大きな背中が、もう手を伸ばしても届かないどこかへ、去って行く。

悠奈は呆然と立ち尽くすと、そのままぽろぽろと涙を流した。

こんなに悲しいお別れってあるの?

ついこの間まで、大好きってメール、毎日くれたのに。会う度に、何度も悠奈だけって、言ってくれたのに。

どうして?どうして?どうしてこんなことになるの?

「智弘!!待って!!!」

見えなくなりそうな後ろ姿に手を伸ばすと、悠奈は人目も憚らず、精一杯の声で叫んだ。


 ……また、同じ夢だ。

まだ四月の半ばだというのに、ぐっしょり寝汗をかいて、目を覚ます。目覚まし時計を見ると、まだ五時五十分で、起床の時間まで三十分もあった。

悠奈は春休みに智弘と別れてから、ほぼ毎日、同じ夢を見た。

しかも、いつもお別れの場面ばかり、そして夢の中でも智弘は決して私のところへは戻って来ない、とても悲しい夢。

深いため息をついてベッドから体を起こすと、枕元に置いてある、智弘と二人で写っている写真を手に取る。

夏に二人で海に遊びに行った時に、撮った写真。二人とも、水着の上にお揃いのパーカーを羽織っていて、二十センチ背の高い智弘が、悠奈の肩を抱いて屈託なく笑っている。

いい加減、未練がましくてみっともないのは分かっている。でも、智弘が大好きで、未だにこの写真も、二人の思い出の色々なものも、何一つ処分できずにいた。

「智弘…今、どこにいるの?」

高校を卒業して、デザイン系の何かの資格を取るために、東京の専門学校へ進学することは聞いていた。でも、それでどうして、悠奈と別れなければいけないのかが、悠奈にはさっぱり理解できなかった。

「東京だって、会おうと思えば会うことができるんだよ?なのに、何で?」

悠奈は写真の智弘に話しかけると、そっと写真を抱きしめて涙を流す。すると、

―そんなに泣くなよ。俺はいつも悠奈の近くにいるよ。

と、どこからか声がした。

智弘?いや、違う。智弘の声は温かくて深みのある独特な声なのに、この声はもっと低くて包込むような優しさをたたえた、何とも言えない魅力的な声だった。

「えっ?誰?」

悠奈があたりを見回すと、そっと悠奈の体を誰かが抱き締める感覚がした。

とても優しい感覚。まるで愛おしくてたまらない恋人にするみたいに、そんなふうに誰かが悠奈を後ろから抱き締めている。

幽霊?まさか、こんなに温かくて優しい感覚は、きっとそんなのじゃないよね。

悠奈が目を閉じて、その感覚を確かめようとしていると、今度はまた耳元に囁くように、あの声が聞こえてきた。

―俺はずっと、悠奈を守っているよ。何があっても悠奈の側を離れない。絶対に。

声がそう囁くと、抱き締める腕に微かに力が籠もるのを感じた。目には見えない腕。もしかして智弘の幻なのかな?と、悠奈がぼんやり考えていると、突然隣のベッドから、妹の香奈が大声を出した。

「やだ、お姉ちゃんの後ろにイケメンの変態天使がいる!」

香奈は叫ぶと、雑誌の付録かなんかの除霊グッズを持って来て、お祓いしようとしているようだった。

「やめて、香奈!」

悠奈は抱き締める腕の心地よさに、思わずそんな香奈を止める。しかしまだ小学六年生の香奈は、目を白黒させて、除霊グッズを握りしめながら、口を尖らす。

「でも…さっきから、お姉ちゃんの後ろに智弘くんそっくりのイケメン悪霊が!いや、やっぱり守護天使かな?」

まだ、悠奈を抱きしめている存在に敵意むき出しの香奈に、悠奈はゆっくり頭を横に振った。

「香奈、きっとこの人は智弘の分身の守護天使なんだよ。私を守るために来てくれたんだよ」

するとまた耳元で、

―そうだよ。俺は悠奈を必ず守る。いつでも悠奈が大好きだよ。そしてどんな時も側にいる。

そう言うと、悠奈の頬に、そっと見えない唇がキスをするのが分かった。

悠奈は温かい頬の感覚に顔を真っ赤にすると、恥ずかしくなって、両手で顔を覆う。

「智弘の守護天使様、これからもずっと、私の側にいてくれますか?」

すると、また甘く心地よい声が悠奈の耳元で囁く。

「いるよ。ずっと悠奈の側にいる。俺のことは好きなように呼んでくれたらいいよ」

「じゃあ、トモさんって呼ばせてもらいます」

守護天使からトモさんに呼び名を伝えると、悠奈は智弘の写真を抱き締めて泣いた。嬉しかった。智弘は私が寂しくないように、ちゃんと自分の分身を私の側へ置いて行ってくれたんだね。悠奈は心からの笑顔で微笑むと、自分を抱きしめる腕の感覚を、そっと両手で抱き締めた。


いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

次話も続きますので、どうぞよろしくお願いいたします。

この物語の他に、隔日更新で「魔女の伝言」「白雪姫と林檎の毒」「万華鏡の森」を連載中です。

今後ともよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 失恋から始まる物語だから、この先が楽しみ [気になる点] 段落分けしたり、文の初めに1マス文空所作ってもいいと思う [一言] 頑張ってください
2021/05/24 21:24 退会済み
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