現の夢
それは・・・ひと夏の夢のようで・・・
存在もぬくもりも幻のように消えた。
ふわふわと足取り軽く、重さなど感じさせないように歩く彼女。
不意にクルリと振り向いたその顔は・・・
どこか悲しげで、それでいて苦悩を湛えたような顔。
哭いてるような・・・
迷っているような・・・
そんな顔でこちらをジッと見つめて来る。
そんな姿に何を言っていいのか解らず戸惑っていると
不意に彼女が笑った・・・
いや・・・・・
嗤った。
その顔に、スッと身体の芯が冷えるような感覚に襲われた。
何もできず言えず、ただ立っているオレの方にスッと手を伸ばしてくる。
ひんやりとした感触。
ゆっくりとオレの首に手を当てて・・・
苦悩と哀しさを滲ませた顔でポツリと呟いた。
「・・・アナタを・・・世界で一番憎んでいるの・・・でも・・・その想いと同じくらい愛してる・・・」
その呟きと共にソッと触れていた手を離して踵を返して歩き出す。
「・・・だから、ごめんなさい・・・」
そう言い残して、そのまま振り返らず彼女は去った。
それ以来彼女を見かけなくなった。
電話も繋がらない。
家もいつの間にか無くなっていた。
何もかも全ての繋がりが夢であったかのように消えた。
彼女に何があったのか。
どうしてオレを憎んでいたのか。
解らないまま消えた彼女。
謎だけを残して過ぎ去った。
短い夏の思い出。
━━ナツノミセタウツツノユメ━━