2.いざ、魔女狩りへ
翌朝。
日が昇るよりも早く起き出したベリルは旅立ちのための装備を念入りに確認し、使用人たちが来るよりも先に身支度を済ませ、自身の式典のための正装に袖を通した。
その足で朝食の席に向かうと、廊下の向こう側から兄王子が妃と連れ立って歩いて来るのが目に入った。
「おはよう、ベリル。今日は誕生日おめでとう。お前の瞳の色と同じ緑青色の装いがよく似合っているね」
「おめでとうございます、ベリル様。本当に益々美男子に磨きが掛かって、なんて麗しいお姿でしょう」
「ありがとうございます、兄上、義姉上。朝早くからお手数をお掛けして申し訳ありません」
この二人に出会うまいと早めに部屋を出たつもりだったのだが、おそらく式典の準備を心から楽しんでいる様子の王太子妃が夫に無理を言ってこんな時間に二人して起き出してきたのだろう。
「まあ! 『お手数』だなんて! 大切な義弟の誕生日ですもの。みんなで嫌というほどお祝いするのが当たり前でしょう。ねえ、あなた?」
「はっは。よく分かるけど、ほどほどにね」
きらきらと星でも舞い飛びそうな勢いで話す妃に、コランド王子が苦笑しながら相槌を打つ。
貴族の令嬢からは特に遠巻きに嫌厭されがちな呪われた第二王子を、王太子に嫁いできた天真爛漫な姫君は決して恐れなかった。
それどころか祖国の弟を思い出すと、顔を合わせたその日から親しみやすい笑顔を振り撒いてくる。
ベリルからしてみると、兄とは別の理由でこの素敵な義姉が苦手だった。
散々難航した王太子妃選びの末、次期王妃の座を射止めた、というより受け入れたのは、ラステリオン王国の東に位置し、大小の島々から成り立つ小国の第一王女ヒスイだった。
大陸の中でも三大大国の一つとして数えられるラステリオン王国の次期王妃の座には、多くの姫君や貴族の令嬢が是が非でも名を上げたいと思いつつ、ついぞ自ら名乗り出る者は出て来なかった。
それはもちろん呪われた第二王子の存在が大きく影響しており、ひっきりなしに縁談の話は挙がるものの、いざ婚約の段階になると必ず何らかの少々強引とも取れる理由で破談となることが続いた。
そんな中、たまたま王国に遊学に来ていたヒスイ姫は、これまた偶然避暑のために海辺の町へお忍びで訪れていたコランド王子とひょんなことから顔見知りとなる。
さらにそのまま身分を隠していた王子とそうとは知らず恋に落ちてしまう。
そこからはあっという間の神業だった。
どこからそんな情報を仕入れたのか、王都で政務を執り行っていたはずの宰相が、ある日突然二人の前に現れて、そういうことなら早速ご婚約をと、驚く間もなく姫の生国と勝手に話を取り付けてしまったのだ。
「愛し合う若い二人なら必ず王国を盛り立てて行って下さるでしょう。」とか何とかのたまって、気付いた時には根回しやら婚約式の手配やら何から何まで済んでいて、愛する人が大国の王太子であったことも知らなかった姫君はよっぽど目を回したに違いない。
思慮深いコランド王子は暴走気味の宰相を宥めつつ、ヒスイ姫に身分を隠していたことを謝罪し、改めて結婚を申し込んだ。
ラステリオン王国の呪われた王子の存在は海を隔てた姫君の国でもよく知られていたが、自然災害の多い土地で生まれた気質のせいか、島国の王も姫君自身もさして気にする風でなく、この嵐のような婚姻を受け入れた。
二人の恋物語は話に尾ひれはひれが付いて、今では一大叙事詩として民衆の間で大人気の小説や舞台となって広く親しまれている。
「夜には花火も上がるそうだから、ぜひ楽しみにしていて頂戴ね」
夫から苦笑されてもどこ吹く風で、恋物語の『主人公』たる異国の姫君は輝くような笑顔で物語の『悪役』たる呪われた王子を仰ぎ見る。
ベリルは表情を変えることなく小さくお辞儀を返した。
正直なところ、花火が上がる時間帯には既に件の森へ向けて城を出ている予定だった。
手放しで自分の誕生日を祝ってくれる愛情深い義姉君には申し訳なく思うものの、誰とも共有出来ない孤独を抱えるベリルにとってはその惜しみない愛情が眩し過ぎた。
はしゃぐ妃を宥める幸せそうな兄を横目に見ながら、急激に冷めていく心を持て余して、ベリルは一人鬱々とした表情が顔に出ないように懸命に努めなければならなかった。
祝賀に訪れた来賓の対応をして、あっちやこっちでお祝いに対する感謝を述べて、近衛師団では記念に団長と剣で一試合打ち合って、飲んでは食べて、贈り物を受け取って、そんなこんなであっという間に一日の最後の行事である野外晩餐会が開かれる時間となった。
この日のために城下町の職人たちがひと月かけて作ったという竜の形をした大灯篭が、晩餐会のために開放された王宮の庭にひと際明るく鎮座しており、第二王子の瞳の色を表す緑色の光が会場全体を柔らかに包み込んでいる。
張り付いたような笑みが崩れそうになるのを抑えつつ、ベリルは根気よく宴もたけなわになる時間帯を待ち続けた。
主賓が席を外しても誰にも見咎められないその時が来たら、そっと宴を抜け出して置手紙だけを残し、一路森へ向けて城を後にする算段だった。
「今日という良き日に、愚息の二十回目となる誕生祝いを迎え、遠方からも近くからも駆け付けてくれた皆に心から感謝を述べたい。そもそも今日という日を迎えるにあたって……」
既に酒が入って顔を上気させたジルコニス王が、先立って会場中に聞こえるような大声で話を始めた。
王の話を話半分に聞き流しながら、もう二度と戻れないかもしれない、会えないかもしれない、場所を、人を、孤独な王子は名残惜し気に見つめていた。
「さあ! 宴もたけなわになったところで、我が王子に最後の大役を任せようではないか!」
その言葉にはっとして顔を上げると、王を含めた会場中の人間が何かを期待した顔でこちらを見つめていた。
ややあと立ち上がると、兄王子から柄の長い燭台を渡され、いつの間にか側近くへ来ていた王妃が先端の蝋燭に火を灯してくれた。
「ベリル。お誕生日おめでとう。今日という日を、この瞬間を、無事にみんなで迎えられて、これほど有難いことはありません。さあ、竜の目に火を灯して来て下さいな。そうしたらお祝いの花火が上がりますからね。高いから足元に気を付けて頂戴ね」
「……ありがとうございます、母上」
昔から変わらぬ愛情を注いでくれる母の言葉に、胸に熱く迫るものを感じたが、後のことも考えて、ベリルは努めて感情を抑えつつ大灯篭の真下に設置された梯子に向かって歩き出した。
緑色の竜の形をした大灯篭は目の部分だけガラスの器が括り付けられており、その中には魔力の込められた鉱石が嵌め込まれていて、これを火で熱するとまばゆい光を放つ光源となる。
生誕祭の最後を締め括る催しとして、この光を合図に花火が打ち上げられる予定となっている。
地上から大人五人分くらいの位置にある巨大な竜の頭には、職人の芸の細かさを感じさせる優雅で威風堂々とした表情が描かれていた。
巷で恐れられている割に、ベリルの幼い頃から何かと王宮に出入りしている昔気質の職人たちは呪われた第二王子に好意的で、生誕祭の度に凝った催し物を考えては言葉少なに小さな背中を叩いてきた。
今回の特大級の緑色の竜も、節目の年を鑑みて、彼らなりの励ましの意味を込めたものなのだろう。
この時、ベリルの意識はこれから自分が捨てていくものにばかり向けられていて、決して忘れるべきではない、捨てたくても逃れられない魔の手に自身の運命が握られていることをうっかりと失念していた。
梯子を登り切り、人間の頭一つ分くらいある、大きな竜の眼に燭台の火を近付けた、次の瞬間だった。
ドカンッ
目の前で大きな音がしたのを認識したと思ったら、気付くと背中に激痛が走り、色とりどりの花が咲き乱れる花園でベリルはゆっくりと身体を起こした。
……何が起こったのか分からない。
一瞬死後の世界の花園に来てしまったのかと思ったが、冷静になって周りを見回してみると、そこは見慣れた自分の部屋のすぐ真下に位置する王妃が管理する花壇の中だった。
今まで謁見室に繋がる城で一番大きな庭園にいたはずなのに、どうやったらこんな奥まった片隅まで一瞬で移動できたのか。
歪む意識を必死で整えていると、先程までいた庭園のある方角から微かに火の手が上がっているのが目に入った。
耳鳴りが収まると、遠くで大きなざわめきが起こっているのも聞こえてくる。
詳細は分からないが、おそらく大灯篭が何らかの原因で爆発したのではないか。
背中の痛みは爆風で飛ばされてどこかの壁に激突した時のものだろう。
相変わらず運がいいのか悪いのか、王妃の手でしっかりと管理された花壇の土は柔らかく、落下時の衝撃を幾分和らげてくれたらしい。
そこまで考えが纏まると、ベリルは痛む身体を摩りながら窓を伝ってすぐ真上の自分の部屋へ転がり込んだ。
「一体何の騒ぎですか!? もの凄い衝撃音がありましたが敵襲か何かですか?」
窓際の机の上で魔法の地図がばさばさと音を立てて動いている。動揺しているらしい。
ふと目の前に転がっている王子が背中に怪我を負っているらしいことに気が付くと、さらに大きな音を立てて近くの棚に突っ込み、中から救急箱を取り出してきた。
「今回はどこにぶつけたのですか? 落ちたのですか? まさか吹き飛ばされたとでも?」
魔法の地図に手伝って貰いながら手早く怪我の手当てを済ませつつ「うーん、全部だな。」と呟くと、消毒液をぺっぺっと主人の背中に振り撒いていた動く羊皮紙が呆れたと言わんばかりに天を振り仰ぐような動作を取った。
「魔法の地図よ、聞いてくれ。俺はこのまま城を出ようと思う」
定かではない状況説明を終えた後、ベリルは朝方確認を終えていた旅の装備に手を掛けながら話を切り出した。
「『このまま』というのは、『消息不明のまま』ということですか」
「まあ、たぶん。死んだと思ってくれたほうが好都合だ」
何とは無しに目を逸らしながら答える悲運の王子に対し、魔法の地図は月明かりに照らされて真白く浮かび上がる体を不本意そうに折り曲げる。
「正しい選択とは到底思えませんが、まあ、この場合は所有者の希望に従いましょう」
くるくると体を巻き取って再び筒状に形を変えると、主に忠実な羊皮紙はその主の持つ上等な月鹿の皮で出来た丸筒の中へと静かに収まった。
「よし、行こう。魔女狩りだ」
先程転がり込んだ窓枠に片足を掛けると、ベリルはほんの少し後ろを伺って、次の瞬間には何かを振り切るように夜の闇へと飛び出した。
当初の予定通り城下町で跳ね馬を調達し、一路魔女の待つであろう深淵の森へとひた走る。
城を出る際、城門の門番に見咎められる危険性はあったが、大灯篭の爆発による混乱で人通りが激しく、想定以上に楽に抜け出すことが出来た。
怪我人が出ていないことを願うばかりだが、元々密かに抜け出す気でいたベリルにとっては不幸中の幸いといった事件だった。
家族に、気に掛けてくれる人々に、どれ程の心痛を与えるか、それを考え出すと足踏みしそうになる気持ちを無理やり押し殺して、意識を憎き魔女を退治することだけに向かわせる。
三日ほど適宜休息を取りつつ、出来るだけ急いで目的地へ向かった。
もし、捜索隊が出されていたり、王国兵に見つかったりしようものなら、城に連れ戻されてしまう可能性があった。
呪いの関係で王都の外に出るのは生まれて初めての体験だったが、幸いにも道中大して困ることもなく、想定よりも半日早く目的の森の側に辿り着くことが出来た。
流石に禁域に指定されているだけあって、深淵の森の周囲には人影一つなく、濃い霧と森の奥の方から聞こえる鳥か何かの鳴き声が不気味な空気を実に見事に醸し出していた。
「うーん、実に素晴らしい古の大気を含む森ですね。神がそこかしかに宿っていそうだ」
主人に背負われた丸筒の中からほんの少し顔を覗かせている魔法の地図は、本気か皮肉か分からない感想を述べる。
さて、どうやって進もうかと考えていると、後ろから予想だにしていなかった人物に声を掛けられて、乗り手よりも驚いた跳ね馬が自慢の脚力を頼りに周囲を跳ね回ったせいで、うっかり舌を噛みそうになった。
「ベル兄さま! 一人で魔女退治なんて水臭いですよ!」
どうにか落ち着かせた跳ね馬から慌てて飛び降りると、声を掛けてきた小さな人影を振り返る。
驚くことに、そこにはすっかり旅支度を整えたラステリオン王国第三王子ラステリオン・ノルバ・サフィリオスが両手を腰に当てて何もない道端にちょこんと立っていた。
「なっ! どうしてお前がこんなところに!?」
驚きのあまり素っ頓狂な声を上げるベリルの問い掛けに、サフィリオス王子がさも当然といった様子で胸を張って答える。
「昨晩、兄さまの部屋に就寝の挨拶に行った時、ちらりと旅支度のような荷物が部屋の隅に置いてあるのが見えたんです。遠乗りにしては荷物が多いし、携帯用の丸筒まで用意されてるなんて絶対にどこかへ行く気なんだってすぐに分かりました。大灯篭の爆発のあと兄さまの部屋を覗いたら荷物がなくなっていたし、数日前から何だか思い詰めたような顔をなさっていたし、魔法の地図としょっちゅう睨めっこしていたところから鑑みて、もし地図が必要となるような王都の外へ出るようであれば、向かう先は『死の魔女』の噂があるこの『深淵の森』しかないかなって」
あまりに的を射た推理に口を薄く開けたまま二の句が継げないベリルの代わりに、魔法の地図が丸筒から飛び出して小さな王子を絶賛した。
「いや、これまた素晴らしい洞察力ですね! 御見それいたしました、サフィ王子」
はたと我に返ったベリルは、無邪気にはためく羊皮紙を押しのけて、得意満面の様子の幼い王子を睨み据える。
「いやいやいや、お前どうやってここまで来たんだ? 一人で来たのか?」
負けじと睨み返す弟王子は憤慨して両腕を胸の前で組んでみせた。
「馬鹿にしないでください。兄さまと違って僕は王都の外へだって、父上やコラン兄さまの領地視察に付いて回ったことくらいあるんですからね! 庶民が使う乗合馬車に乗るくらい訳ないですよ」
「いや、しかし、それにしたっておかしいだろう。乗合馬車が跳ね馬より速い訳がない。そもそも乗合馬車ならここから一番近い村までしか行き着かないはずだ。そこからここまで歩いてきたとしても、今ここにお前がいるのは時間的に見て明らかにおかしい!」
「それは、まあ、途中まで〈飛び影〉を使ったというか何というか……」
先程とは打って変わって語尾を誤魔化すように小さな声で話す小さな王子は、ちらりと目の前の兄を覗き見るが、その顔が見る間に顰められるのを見るや否や、ぱっと宙に浮かぶ魔法の地図の後ろへとその身を隠した。
「なにっ!? 飛び影を個人で使用するとなると、どれだけ金が掛かると思っているんだ! 俺たちが使える金は元を正せば国民の税金によって賄われているのだぞ!」
飛び影とは、正式に言うと『転送魔法陣』のことで、魔法が多分に用いられていることから仕組みが完全に解明されている訳ではないものの、現代の体系化された魔術と組み合わせて、地点から地点への移動を一瞬で可能にする、これまた非常に有用性の高い魔法道具のひとつである。
ただし、一回の使用には距離の長短にかかわらず大量の魔力が必要となる。
そのため、この魔力を貯めるのに多くの魔導師を雇わなくてはならず、使用頻度の割りに人件費が異常に掛かるのが玉に疵であり、また、複雑な術式を組まなくてはならないため移動する先にも転送魔法陣が設置されている場所でないと機能しない。
大きめの町や村には設置されていることが多いが、小さな村々までは対応しておらず、王都から離れる程転送先に制限が掛かる仕様となっている。
「ごめんなさい、兄さま。どうにか先に城を出た兄さまの先回りをしないと、森に入る前に会えないだろうと思って……」
額に手を当てていらいらと荒い息を吐きだす兄王子に、小さな背中がしょんぼりと謝った。
「……ともかく、お前は一刻も早く城に帰るんだ。ここで俺に出会ったことは誰にも言うんじゃないぞ」
強い口調で念を押すように言い聞かせるベリルを上目遣いで見上げて弟王子が言い募る。
「そんなあ。でも、兄さま一人で深淵の森に入るなんてやっぱり無謀ですよ」
「うるさい。子供のお前が気に掛けることはない。早く帰れ!」
さらに強い口調で凄むも、魔法の地図の影に隠れながら懸命に食い下がってくる。
「でもでも、みんなもの凄く心配していたんですよ? 父上も母上もコラン兄さまもヒスイ義姉さまも、臥せってらっしゃるお祖母さまも、近衛師団のゲルマン団長だって、ベル兄さまのこと死んでしまったんじゃないかって血眼になって捜していたんですから」
「……いいから、帰れと言ったら帰れ!」
痛いところを突かれてぐっと言葉に詰まるも、ベリルは頑として譲るつもりはなかった。
「でもでも……」
「『でもでも』言うんじゃない! いい加減大人しく聞き分けて帰るんだ!」
魔法の地図の後ろからほんの少し顔を出して、それでもさらに言い募る幼い弟をベリルはけんもほろろに叱り付けた。
「だあってぇ……」
ついには泣き出しそうな顔をしてしがみつかれた魔法の地図は、それまで事の成り行きを黙って見守っていたが、埒が明かない話し合いを見かねたのか、ややあと声を上げた。
「まあまあ、ベリル様。もうすぐ日が暮れそうなこんな時間帯に、サフィ様お一人で城に帰すのは少々危険ではありませんか?」
そう言われれば、その通りである。来てしまったものは仕方ないとして、これから帰るとなると一番近い村に送っていったとしても最終の馬車には間に合わないだろう。
「まだお小さいサフィ様では跳ね馬を乗りこなすことは出来ないでしょうし、今の時間帯では翌朝まで乗合馬車も来ませんよ。そもそも一番近くの村まで人気のない道をこれ以上一人で歩かせるというのは現実的ではありません」
一人で歩かせるつもりなどない! と心の中で憤ってみても、現実問題としてここにこのまま幼い弟を置いていく訳にもいかない。かといって、村に戻って翌朝まで待っていたら王国兵に見つかる恐れがある。
つまるところ、選択肢は一つしかないという訳だ。
「……仕方がない。非常に不本意だが、お前を連れて行くしかない」
やったー! と飛び跳ねる小さな影とは対照的に、がっくりと肩を落とすどこまでも悲運な王子を見つめて、魔法の地図はさも愉快そうに体を揺すっていた。