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猫を飼う⑧
沈黙の続く夜だった
2人でぼーっと
記憶と感情とお互いの存在に浸っていた
時が止まっているような、そんな空間
この世界がふたりぼっちになったらいいのに
エレベーターにのって自宅のある7階まで上がる数秒間
後ろにぬくもりを感じる
お腹に回された手をそっと握った
よい言葉がみつからなくてごめんね
あなたの苦しみを、寂しさを、
少しでも軽くできてるのかな
なんて、おこがましいかもしれないけれど
自分の中にある優しさをかき集めて
私よりずっと大きいその手を、そっと撫でた
エレベーターが開いて彼のあとをついていく
部屋に入ると そのままベッドに倒される
アーモンドの瞳が揺れる
明かりもつけないで、都会の光に照らされる
その顔があまりにも美しかったから
私は垂れる金色の前髪に触れた
綺麗だね
ふ、それ ぼくが言うセリフじゃない?
私なんかよりずっと
…はるかもきれいだよ
そのままそっとキスされる
甘いのに、なんでこんなにかなしいんだろう
私の手をぎゅっと、シーツに縫いつけて
首元に噛みつかれたら
そのまま闇にまぎれて
世界に取り残されたみたいに
熱に融けて
なくなっていけますように。