猫を飼う⑦
手を繋いで夜道を歩いた
目的地は家ではなく
あの公園だろう
少し前を歩く彼の顔は見えず
会話もなく
電車の音、人の足音、あとは都会の音だけが通り過ぎた
秋口の夜
公園にいるのは親子連れではなく
恐らくどこかの学生集団たち
きゃぴきゃぴはしゃぐ彼らを横目に
街灯の下に腰かけた
手は繋がれたまま
やっと見えた彼の瞳には
若者たちへの憧れと夜の街あかりが映っていた
ありがとう
僕のこと、おいてくれて
そう呟いた彼の視線は
彼らを見つめたままだった
それは憧れと不安と感謝と寂しさと
全てがぐちゃぐちゃになった
私の言葉では形容できない感情が
繋いだままの温度から流れ込んでくる
この子は私が今まで体験したことの無い
実感として持っていない感覚とか
心の痛みとか、そういうものを持ってるんだ
うん
その2文字しか
私は言葉にすることが出来なかった
*
ガチャリ
家のドアを開ける
いつもと違うのは後ろから降ってくる
おじゃまします の声だ
1K 家賃9万円
憧れの都心で初めての一人暮らし
職場から近く圧倒的なアクセスの良さで選んだ家だ
意外とキレイだね
失礼だな、帰るか?
いやめっちゃキレイですよ、はい
まあ適当にしてて
荷物を置いて、今日買った服をハンガーに掛ける
いつもの癖でそのまま着替えてしまい
あ、と声を漏らした時に
おっさんみたいと言われてしまった
仕方ないだろいつもひとりなんだから、と思った
そのまま化粧落として髪を解いたところで
私はベッドにダイブした
なんか、過程と状況を整理したくて
一呼吸おこうとしたのだ
すると
アーモンドの瞳に見下ろされる
そういうこと?
んなわけないだろ、と言って
顔を掴んで起き上がる
えー
ベッドの下に布団あるから、それ敷いて寝なさい
はーい
彼は大人しく布団の準備をはじめる
わたしもお風呂に入ろうと思って
そのままお風呂を洗うことにした
*
帰ろっか、もう日付変わっちゃったし
先に口を開いたのは彼の方だった
もういいの?
まあまあ
まあまあか、と思った
彼は立ち上がり私の腕を引っ張った
彼はそのまま歩き出し公園をあとにした
学生たちの大声が背中に聴こえていた