猫を飼う⑥
あのファミレスでいい?
初めて会ったとこの?
そう
うん!
なつかしいなーって言いながら
手を引かれ、閑静な住宅街を歩く
こんな時間にファミレスにいくって
なんか大学生みたいだなと思った
大学の頃はサークルが毎日夜の9時に終わって
そのあと当時の彼氏とご飯を食べて帰ってた
当時付き合ってた彼は
進学のために大阪から上京してきた人で
なれない一人暮らしを心配になって
ほぼ毎日一緒にいた記憶がある
頭が良くて、私と一緒で本が好きな人だった
店に着いて4人がけのテーブル席に座った
金曜の夜なのに人が少ない
最近の学生はファミレスとか来ないのか、と思った
はるかは何にするの?
海鮮丼みたいなやつ
そんなのあったっけ?
あるでしょ、ファミレスだよ
まあたしかにファミリーだもんね
そんな訳の分からない会話をしながら
注文を済ませてくれた
今日忙しかったんだ?
まあそうだね、何でかわかんないけどね
なんでか分からないけど忙しくなるの?
まあ仕事ってそういうもんだからね
…おとなって大変なんだね
こどもも大変だよ
そういうと黙ってしまった
店の奥の方を見てる
何かを言おうとして言葉が見つからないんだろう
会話中に考え事をする時の表情だ
今日で、はるかと会って半年だなと思って
私もお昼食べてる時同じこと考えてたよ
ほんと?
うん
少し照れた様子だった
遠くに行っていた目線が私に戻される
絶対忘れてると思ってた
忘れてはないよ
料理がきた
あの日食べてたのと同じオムライスが
目の前に出された
いただきます
そう言って食べ始めた時
彼の目は何かを思い出したように
思い出が思考が、巡っているようだった
*
じゃあさ、今日泊まりに行っていい?
それは想像もしていない提案だった
と同時に、彼はもう笑っていなかった
は? だめだよ、おうち帰りな
ぼく家出して来たんだ
うん、だとしてもだよ
じゃなくて、もう、家が無い
ん?
家が無いってどんな状況だろうか、と
帰る場所がない比喩なのか
物理的に家がなくなってしまったのか
聞きなれない表現に私も戸惑った
家族は?
…帰れないんだ、もう
携帯もお金もない、頼る人もいない
だから助けて
だなんて、どこかの恋愛小説にあるやつだと思った
現実でそれが目の前で起こっている
当事者になってみると不思議なことに
それ以上のことを聞けなくなった
それはあまりにも目の前にいる少年の表情が
生きる、ことに絶望していたからだ
*
ごちそうさまでした
食べ終わってジュースを啜る
私の飲むオレンジジュースは
ファミレス特有の水が混じった
懐かしくて陳腐な味がした
美味しかった? と聞くと
はるかが作った方が美味しい、と言われたので
日曜くらいに作ろうかな、とぼんやり考えていた