猫を飼う④
職場について一日が始まる
昨日のチャットに目を通して
今日の作業予定を確認する
締切が近い班は忙しそう
その流れに呑まれてどこかピリピリしていた
まあそんな感じ
仕事中は虚無、感情は無い
最近社会に出て企業で働いてる人は
皆アンドロイドなのではないかと思っている
私も本当にアンドロイドだったらなって
感情は大事だよ、って
感性を豊かにとか
良い教育ってそういうものだって
なんとなく大学で学んできたのに
そのままで居ると
鋭利なもので刺されたり
遠くから弾丸が飛んできたりするから
感情の最低限だけ残して
あとはスイッチを切る、みたいな
そうして自分を別物にしていく
それが社会性で企業で働くってことなんだなと、
呑み込んだら
みんなが感情を思考する機械に見えるようになった
お昼になってふと自分のスマホを見ると
[おなかすいた]
とメッセージが来ていた
[なんか買いなよ、お金まだあるでしょ?]
[138円ある]
え、そんなに何に使ったんだと思ったけど
昨晩コンビニ行った時に家に置いておいた財布から
お金を出したことを思い出した
[ウーバー呼んでいいよ]
[やった、]
[ありがと]
私もお腹がすいたので
同期とお昼を食べに行くことにした
いつものように仕事の話と
ゲームの話、最近バズってるものの話とか
たまには真面目な話もする
同期の中で一番仲の良いこいつは
優しさに溢れて心のある社会人だと思う
同期だけど院卒だから学部卒の私とは2個上で
同僚であり友達であり兄貴みたいな人
スマホで時間を確認すると
またメッセージが来ていた
[よるごはん何?]
[きめてない]
とだけ返信していると
猫くんから?
と聞かれる
そうだよ
猫くん拾ってから何ヶ月だっけ
えっと、どのくらいだろ…半年くらい?
え、もうそんな経つんだ
だね。はやいわ、老けたなこれ。
23歳が老けたとか言うんじゃないよ
といういつもの流れ
でももう半年か、
*
例年よりひと月遅い春一番が吹く頃
お気に入りの古着屋で買い物をした帰り
なんとなく耽りたい気分だった私は
その近くの公園に寄った
子連れの親子がちらほらいる先に
スラリとした長身の男性がいた
平日のこんな時間に珍しいなと思ったら
ふと目が合ってしまって、
おねえさん
と声をかけられてしまった
近くで見ると
端正で海外の血が混じってそうな顔立ちの中に
どこか幼さを感じた
留学生かな、と思った
はい?
おねえさん、いま暇ですよね?
え、まあ
ごはん食べさせて貰えませんか?
は?
これが最初の会話だった
懐かしい
その時はまだ日本に慣れてないのかなとおもって
なんだか面白そうな出会いに好奇心が勝てず
近くのファミレスでオムライスを奢ってあげた
*
あ、そろそろ時間だから戻らないとやばい
そう言われてスマホを見ると13:55
会計を済ませて私たちは店を出た
その時ディスプレイには
[きょうはオムライスがいい]
の文字があった