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第一話 トイレを開けると戦乱の世

令和一年 一月一日……。

平成の終わりを告げる除夜の鐘が寒空に響く。

毎年毎年聞く音だがなんだか今年は一段と寂しいような気がする。

それは平成が終わるから……ではなく、年越しを共に過ごす相手がいないから……。

そんな事を感じながら、俺は自転車のペダルを漕いでいた。

名前は朝井誠也……年齢は二十歳で都内の専門学校に通うしがない学生だ。

今年、専門学校を卒業する予定だが未だに就職先は決まっていない。

と言うか、就職する気も起きないでいる。

小さい頃から人を幸せにできる料理人になることが最大の目標でもあり夢でもあったけれど、その夢は専門学校に入ると徐々に薄れていった……。

料理人になりたくないわけでもないし、料理を作る事が嫌いになった訳でもないけど、周りの奴らの技量に努力ややる気だけでは補えない壁を感じてしまったからだ……。

こんな学生の集まりでさえ、こんな感じじゃ到底プロの料理人になることなんて不可能だろう。

だから出席日数はギリギリ、そんな俺に見切りをつけたのか高校の時から付き合っていた彼女にはすぐにフラれ、やることも特になかった俺はバイトに明け暮れているのが現状である。

そして今もバイトから帰る最中なのだ。

最寄り駅に到着し、近くの自転車置き場に置いてあったマイ自転車に乗ると街中でイチャツクカップル達に羨望の眼差しを向けつつ、アパートへ自転車を飛ばす。

俺の借りているアパートは最寄り駅から自転車で約十五分のところにある。

駅周辺は飲食店、百円ショップ、コンビニ、服屋、家具屋、ネットカフェ、大型スーパーやカラオケ店など生活には困らないが、少し駅から離れてしまえば閑静な住宅街だ。

アパートに到着したのは深夜一時……普段、この時間なら大体どこの家もアパートも電気がついていないのだが、年越しだからか今日は違う。


「どこもかしこも年越し気分ってことか……」


俺は自転車から降りて、自室の鍵を開け、電気をつけた。


「ただいま~……」


勿論、誰もいない部屋から返事が帰ってくるはずもない。

虚しさを感じつつ、バイトでお腹が減っていた俺はコンビニ弁当と年越し蕎麦用に買ったインスタントのカップ蕎麦をレジ袋から取り出す。


「あ~腹減ったぁ……」


と、その前にトイレに行きたい……。

カップ蕎麦用のお湯を沸かす為の水を容器に入れ、スイッチを押す。

いつもと変わらぬ光景……何の疑いも違和感を感じる要素もない。

しかしトイレのドアを開くと、俺が感じていた空腹はすっ飛び、驚きのあまりにしりもちをついてしまう。


「うわぁっ!? へぇ!? な、な、何!? 何!? 何!? どうなってんの!?」


そこにはテレビドラマや日本史の教科書で見た、古き日本の家屋が建ち並んでいたが燃え盛る業火で炎上し、逃げ回る人々とそれを追い詰める甲冑を着込んだ数人の兵士達……。

俺は言葉を失い、キョロキョロと辺りを見回す。

明らかに現代ではない……。

俺はきっと夢を見ているのだ……バイトで疲れすぎてトイレで寝てしまったのだ……。


「おやめくだせぇ!! 娘の命だけはどうか!!」


「私達はどうなっても構いません!! だから娘は殺さないで!!」


農民と思われる夫婦を取り囲む兵士達は彼らに刀を突き付ける。


「あ?……だったら金目の物を持ってこいや!!」


旦那は懐から銭の入った袋を取り出す取り出すと、兵士に預ける。


「……これで全部でございます……」


「ほう……じゃあ旦那さんの心意気に免じて、あんたには死んでもらって嫁さんは俺達の……かわいい娘はどこに売るかなぁ」


「そ、そんなぁ! 話しが違う!!」


「うるせぇなぁ! 生かしてやってんだろ ありがたく思えや!!」


次の瞬間、旦那の身体から血飛沫が飛び散る。

人間が人間を殺す瞬間を俺は生まれてから初めて目撃し、思考が停止してしまう。


「イヤァァァァ!!」


「父上……父上…」


動かなくなった旦那を娘が小さな手で揺り起こそうとしている。

勿論、怖いがさすがに見過ごせない……例え夢だろうと……。

俺は慌てて、その家族と兵士達の間に割って入ると今度は俺に兵士達は剣を突き付ける。


「変な服装をしているが何だお前は? 死にたいのか?」


俺の親父は元総合格闘技の世界王者で格闘技は小さい頃から料理と並行して習わされてきたけど、こんな人を殺す事に慣れていて躊躇いもない奴らの相手となると恐怖でしかない。

敵は十人いて俺一人で制圧できるとは思えないので、何とかして兵士達をこの場所から退却させなければ…。

脳ミソをフル回転させて、知恵を巡らせる。


「あんたらどこかの兵士だよな? こんなこと主君に知られて見ろ 処罰されるぞ?」


一か八かの賭けだ……。

見たところリーダーのような奴はいるがこいつらの主君というわけではなさそう。

こいつらの主君が暴君ではない限り、耳に入れば処罰をの対象になるはず……と思ったのだが……。

俺の脅しは意味をなさなかった。

兵士達は爆笑しながら、再び俺に剣を向ける。


「おもしろい奴だな 俺達に君主なんていねぇよ ただの山賊だからなぁ!!」


「山賊だと? じゃあどこでそんな武具を!?」


「どこかの兵の死体から貰っただけだが?」


これは予想外だった……。

てっきり甲冑を着込んでいたから、どこかに仕えていると思い込んでいた。

このままではマズイ……俺もこの親子も地獄を見ることになるのは間違いない。

どうしたらいい……どうしたら三人共、生きて逃げれる……。

さすがにテンパッてしまい思考が追い付いてこなち。


「あばよ 不思議な服装の兄ちゃん」


剣が俺に降りおろされる。


頭の中に過るのはまさしく「死」。

こんなリアルな夢があるんだろうか……これが降りおろされた時、俺はどうなるんだろうか……。


しかし剣が降りおろされようとしたその時、俺の目の前に兵士の首から上がゴロゴロと転がり落ちた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


俺は驚きと恐怖が同時に頭と胸にこみ上げ、またもやしりもちをつく。

心臓はバクバクと音を立て、呼吸も荒くなっている。

後味は悪いが、助かったのだ……。


「お前ら大丈夫か?」


そして更に俺の頭は混乱した。

その声、顔立ち、背格好まで似た良く知る人物が目の前に苦無を持ち、立っていたからだ。


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