8-5 逃避行の悪夢
神話と地名の話を一端閉じて休憩していると、リンディが九課の入口の方を向く。
「なんか、外、騒がしくない?」
すると、端末からサンドラへ連絡が入る。
「ええ……はい……中庭で……ふーん。……ええ、いますよ。至急、向かいます……ああ、はい。では、詳しい状況は現場で」
通話終了。スピーカーオフだったので、向こうの声は外に聞こえていない。そこで、魔法省の正規雇用者たちを差し置いていち早く尋ねるのは、フリーランスのリンディ。
「なんかあった?」
「中庭でトラブル」全員に対して答えた課長が、即、指示を出す。「九課は一時閉鎖して、全員、出るよ」
「ユーカもですか?」
内容よりもそこが気になるフィリスに、課長がうなずく。
「そう」
「でも……」
健康管理者としては、危険な現場には連れて行きたくない……。ただ、その管理される側は……。
「行きます」
はっきりしている本人に、リンディも同意。
「ひとりで残すわけにはいかないでしょ?」
そこへドアの呼び鈴が鳴り、一同の頭越しに、出口へ目をやったサンドラが叫ぶ。
「あ、ルーヴェイさん」
魔法省の状況を把握しに来ていたセデイターは、たまたま外の喧騒に出くわし、何事なのか尋ねようと数歩入室したところ、声をかけられた。
「はい」
「協力してくれる?」
九課課長の要請は何になのか言及がないが、ルーヴェイは抗わない。
「承知しました」
受諾すれば事態が把握できる。それに、拒否すると……後が怖い。
「ありがとう」手短に謝辞を述べたサンドラは、出口へ向かう。「出るよ。詳しい話は途中で」
トラブルの現場となっている中庭への途上で、早足で歩きながら、サンドラが連絡によって知らされている限りの状況を説明する。それによれば、例の汚職した二名――前魔法部長オーランと事務員のヘイトンが、捜索をかいくぐって中庭に現れたとのこと。二人で「逃避行」に出たはずが、なぜ戻ってきたのかは、現在不明。ただ、どうやらその場で自殺する恐れがあるようで、警備員には対応が難しく、かつ、責任も取れないことから、本来「特殊対策課」である九課に対応の要請が来たわけだ。留意すべきは「魔法触媒」の所持が疑われる点で、魔導士ではない彼らであっても、何らかの方法で魔法が発動されれば、触媒の効果によって相応にやっかいな事態となることが予想される。
ちなみに、魔法触媒は、魔法使用時にその出力を増大させる粉状の物質で、危険物として、当局による独占的管理の対象となっている。公的に支給されるのは、医療などの用途で特別に許可されたケースのみ。国家管理品だが、こういったものの必然として完全な管理は難しく、しばしば闇にも流れて高額で取引され、使うにしろ奪い合うにしろ、暴力犯罪の源となる。また、この触媒を不適正かつ頻繁に使用すると、人の精神に影響を及ぼし、確実にセデイト対象者となってしまう。いわば薬物中毒患者のようなもので、セデイト後も通常以上のケアが必要となる。
「あれか」
先陣を切って到着したサンドラの目に映ったのは、例の二人――薄いのと小太りのが向かい合って、互いにナイフを向け合っている姿。
「なに? 揉めてんの?」
ぱっと見ではリンディの見立てどおりだが……。
「いや、そうではなく……」
ルーヴェイの見たところ、協力者として同道する途中で聞いた「自殺する恐れ」というやつだ。これで、魔法触媒も所持しているなら、迂闊には動けない。指揮官であるサンドラが明白に口にする。
「心中か」
「ユーカは、わたしと下がってて」
こういうとき、ヒーラーは前には出ないものだ。
「うっ」潔癖なミレットが、手で口に押さえる。「……すみません」
一直線に走って戻ってゆく……化粧室の方向へ。それをちらっと見た九課課長は、この秘書は課に残しておいてもよかったと思いつつ、思案を巡らせる。
「さて、どうしようか」
周囲には、魔法省職員……知り合いと、野次馬。あとは、汚職関連の捜査員や取調官。
「止めればいいんでしょ? 麻痺させる?」
通常ならば、そのリンディの案を採用するのが手っ取り早いが、今回はサンドラも気になることがある。
「触媒がね……」
魔法触媒を持っているとして、魔導士ではない彼ら素人が、どのように管理しているかが問題だ。撃たれた麻痺魔法を触媒が増幅すれば、心臓麻痺を引き起こす危険性もある。彼らは凶悪な暴力犯罪者というわけではないので、状況が逼迫していない限り、そのようなリスクを犯す策を取ることはできない……。考えながら、指揮官が出方を伺っていると、突然、ヘイトン――若い小太りのほう――が、声を上げる。
「ぼくたちは悪くない!」
それに呼応するオーラン、つまり、薄いほう。
「そうだ……」
声も薄い……。
「いや、悪いでしょ。汚職してるんだから」
距離を取っているリンディのつぶやきはもちろん届かず、続けるヘイトン。
「ただ、愛し合っているだけなんだ。それの何が悪い!」
続いて、やはり薄いオーラン。
「そうだ……」
「はぁ? 奥さんいるでしょうが」
遠方でフィリスが呆れ、隣のナユカも反応。
「これも不倫……ですよね?」
そこへ、その方面の当事者二名が登場。
「悪いに決まってんだろ、てめぇ! ふざけんな!」
「やめて、あなた! もうやめて……みっともない……」
年齢的なバランスにのっとり、前者がヘイトン、後者がオーランの妻だ。事情聴取などのために、リンディたちも数日泊まっていた例の「豪華」ホテルルームに宿泊していたが、旦那たちによる騒動が起きたため、呼び出された。
「んがっ」
驚きの声……ならぬ、驚きの鼻を鳴らしたヘイトン。
「ほふぁ……」
驚きの息が抜けたオーラン。
「もう死んでしまえっ、このデブ、くそデブ! 死んでわたしに詫びろ!」
怒りのヘイトン妻に、隣のオーラン妻が反論。
「ちょっと、なにを言うんですか……死んでもらっては困ります……まだ家のローンが……保険金もいくら出るか……」
自殺でも出るものの、金額はまだ調べていない。一方、ヘイトン妻は生命保険など掛けておらず、怒りの矛先が増える。
「知るか、そんなの!」
「そちらはただのヒラ事務員ですが、宅は部長です……」
恐る恐るでも、言うことは言うオーラン妻。
「どっちも首だろーが!」
「少しは退職金が……」
「出ねーよ!」
懲戒解雇である。
「再就職には前のキャリアが……」
「刑務所だよ!」
「……なら、いいか……別に……」
妻同士が自刃勧告で同意。その刹那、騒動本来の中心で、魔法触媒が一気にぶちまけられる。妻同士のやり合いに場の者たちが気を取られている間に、夫同士が準備していたらしい。
「しまった!」
サンドラの声と同時に魔法が発動し、周辺すべての者に……触媒で強化された魔法が襲い掛かる。
「うっ」
「ぬわぁ!」
「ギエ」
「な……」
「ぶふぉっ」
「美しい……」
「おえっぷ」
「ぎゃぅ」
「ぐぐ……」
周囲に様々な阿鼻叫喚の声……ごく少数の例外を除き。中には、黙って卒倒する者もいた――ミレットだ。不幸なことに、妻たちが言い争っている間に化粧室から戻ってきていた。
「うっ……やめ……」手で目の前を振り払うような仕草を続けているフィリスの逆の手が、たまたま隣のナユカに触れる……すると……。「消えた? ……助かった」
発動された魔法は、あまりにも強烈な幻影だ。
「大丈夫?」ヒーラーを見つめるナユカ。彼女に幻影は見えない。「みんな、どうしたの?」
この異世界人――結界破壊士は、魔法を無効化する。体に触れたことで、フィリスにその効力がもたらされた。
「そうか……」即座にそれを理解した医師は、ナユカの肩をつかむ。「このまま、リンディさんのところへ行くよ」
「あ、うん」
つかまれた肩をフィリスが押すようにして進んでゆく……。無事目標にたどり着くと……。
「リンディさんに触って」
「え? うん」
特殊能力者が、眼前と頭上を振り払おうとしているセデイターの背中に手で触れる。
「あ……?」瞬時に、幻影が消滅。それは、語るもおぞましい鮮明な幻影――薄いのと小太りのが抱き合って濃厚に口を……以下略。その映像が消え、リンディは呪縛から解放された。「……はぁ」
「大丈夫ですか?」
その声は……。
「あ、ユーカ」肩越しに視認。「そうか……」
現実の視界を取り戻したセデイターは、すでにナイフを手放してとろんとしたまま座り込んでいる元凶二名――本人たちも、自らの幻影による影響を受けているようだ――に向け、睡眠魔法を撃つ……が、発動しない。
「いったん離れないと発動しないのでは?」
フィリスがアドバイス。異世界人による魔法無効化の影響で、魔法は発動しない。
「あ、うん。ちょっと手を離して」リンディの指示によってナユカの手が離れると、幻影が戻る。「う……触って」
触ると、消えた。幻影のせいで気持ち悪いだけではなく、魔法の発動に必要なイメージの形成ができない。魔法による幻影につき、たとえ目を閉じても、消えることなく視界に留まる。ただ、触媒の効果は少しずつ薄まってきているようで、若干ながら、幻影は前ほど鮮明ではなくなっている。これなら、タイミングを合わせれば、どうにか魔法を発動できるかもしれない……。威力はかなり落ちるが、まだその辺を舞っている触媒の影響で、効果を得るのに必要な出力にはなるだろう。
「できます?」
確認したフィリスに、リンディが低い声で答える。
「……やるしかないよね」
周囲の人々は幻影、そのおぞましきもので視界を奪われ、にっちもさっちもいかない。ずっと待っていれば、いずれ幻影の効果は切れるだろうが、周囲の人々へのトラウマ被害が深刻化するだろう。それに、元凶の二人が正気に戻れば、また何をしでかすか……。その点でも、早めに始末をつけるべきだ。
リンディは、幻影に邪魔されないようナユカに触れたまま詠唱をして、幻影を上書きするような強い魔法イメージを形成する。そして、手を離した瞬間に、睡眠魔法を再び元凶たちへ向けて発動!
……今度は、うまくいった……らしい。もともと、自分たちの作った幻影にとろんとしていた彼らだが、きっちりと眠りに落ちたようだ……。その証拠に、周囲の人々が、次々に呪縛から解き放たれた。
「状況は?」
他がまだ呆然としている中、指揮官だけは、即座に職務へと戻ったので、リンディが指示。
「眠らせた。捕縛して!」
サンドラは、脱兎のごとく眠れる元凶へ走り、持っている縄で両者を捕縛。かなりの早業、そして力技で、まとめて一緒に縛につけた。
これにて、一件落着……したものの、周囲へのダメージは大きい。呆然とする者、吐いている者、泣いている者、怒っている者、気絶している者など……多くの人々にカウンセリングを含めた医療処置が必要だ。入院が必要な者もいるだろう。
結局、この後、魔法省はまたも閉鎖され、この日は終日、全省的に待機ということになった。ただ、この事件を正式に担当して見事解決した九課は、問題の二人に対して事情聴取をする必要がある。よって、その権限を得た。
任に当たるのは、課長のサンドラ、そして、書記としてフィリス。このようなケースでは、本来、課長秘書のミレットが書記を担当するのだが、例の幻影によって卒倒したことで、半日の入院を勧告されたため、現場での医療行為を一通り終えたフィリスが代役となった。九課職員ではないものの、事件解決の主役であるリンディは取調べに立ち会い、陰の主役であるナユカはそのことを大っぴらにできないので、取調室の外から文字通りの「マジックミラー」越しに見学する。サンドラが協力を依頼したルーヴェイは、残念ながら事件解決時には何も貢献することはできなかったので、取り調べ前に若干の瘴気が検知された犯人二名をセデイトすることで、お役御免となった。
さて、お騒がせの両名を取り調べたところ、彼らの言い分は、こうだ。
二人きりでの逃避行を画策したものの、捜索の網からはとうてい逃れられないと早々に観念した彼らは、行く当てもないことから魔法省に舞い戻り、自分たちが原因となっている内部のドサクサに紛れて、中へ侵入した。誰も戻るなどと思っていなかったのか、当人たちも意外なほど容易だったらしい。彼らの意図は、捕まる前に、自分たちの「純愛」を周囲の人々に知らしめてやること。ナイフを互いに突きつけ合ったのはポーズで、人々を集めて関心を引く、並びに、妨害を防ぐためであり、本当に心中する気はなかったという。
そして、まずは、演説を始めようとしたものの、まったく聞こうとしない妻たちが現れて邪魔され、中心にいる二人への注目も削がれてしまった。そこで、再び衆目の集中を自分たちへ向けるため、例の「美しき」(本人たち談)幻影の姿を強くイメージし、持っていた魔法触媒をすべてぶちまけた。魔導士ではないので、魔法の詠唱などは一切していないが、思いの「純粋さ」(本人たち談)によって、鮮明かつ強固なイメージが形成され、魔法触媒によって、強力な幻影魔法として発動した……らしい。その後は、自分たちもどうなったかわからず、「甘美な」(本人たち談)夢の中にいるようで……気付いたときには、サンドラに捕縛されていた……。
というわけだが、意図はどうあれ、有無を言わさず悪夢を見せられたほうは、たまったものではない。よって、犯人二人には傷害罪が加わり、量刑が重くなる。しかし、それを知っての行動だろうから、それなりの覚悟があってのことだと思われる。
それでも、これほどまでの効果を魔導士ではない両者がもたらすとは、本人たちも予期していなかっただろう。魔法触媒の効果があったとはいえ、彼らの作ったイメージの強さは、確かにその思いに呼応していたといえる。その場のほとんどの者にとっては、ただの迷惑でしかなかったが。
次に、所持していた魔法触媒の入手経路に関してサンドラが質問したところ、いきなり取調室に入ってきた本筋(贈収賄関連)の捜査員に止められた。ミラー越しに監視していたのだろう。この事件そのものに、それは直接関係はなく、九課の管轄外という言い分だ。
当然、サンドラは大いに不満で、脅し文句の一つでも投げかけてやろうかと思ったが、それによって捜査権限が委譲されるとも思えず、こちらを悪役にされても動きにくくなるだけなので、せいぜい相手を再三にわたり「お偉いさん」と呼称する皮肉程度に留めた。事件解決により、九課が省内で株を上げたことはいうまでもなく、後々、それを利用して情報を得るほうが利口という判断だ。九課職員となったナユカの手柄について大っぴらにできないため、表向きのヒーローはフリーランスのセデイターとなるのが若干弱いとはいえ、彼らの監督機関である九課の貢献は否定すべくもない。それに、何といっても、最終的に犯人を捕縛したのは、九課課長であった。
こうして、一通り事情聴取を終え、取調室から九課へ戻った一同は、ようやく一息つく。
「お疲れさま」
最後にソファに腰掛けたサンドラの隣で、お手柄によって「ヒーロー」となったリンディが伸びをする。
「あー、ほんと疲れた」
「そうですねぇ……なんか、いろいろと」
フィリスは自分の肩を揉んでいる。事後処理で多数を診療した。
「……」
黙ったままのナユカを、医師が気遣う。
「ユーカも疲れたでしょ」
「わたしは……何もしていないので……」
取調べも、外で見ていただけ……。どうにも沈んだムードの陰のヒーローに、表のヒーローが反論。
「なに言ってるの。ユーカのおかげで解決したんだよ」
「でも、ただあの場にいただけで……」
本人にしてみればそう……。しかし、現場で被害者の対応をしたヒーラーにとって、重要なのは結果だ。
「いなかったら、どうにもならなかった。もっとひどいことになってた」
「わたしも動けなかったし……情けない」
サンドラが悔いているのは、動けなくされる前に「動かなかった」こと。
「うん、相当情けないね。指揮官なのに」
リンディの指摘どおり。判断が遅れたのが、指揮官としての反省点だ。
「……反論できないな」
「まぁ、あたしもだけど」手柄を独り占めする形となったヒーローがこぼす。「……だから、あたしのお手柄って……すごく居心地悪いんだけど」
「いえ、リンディさんのお手柄です。頑張って、動いて、魔法を撃った……。わたしは、何もしてません」
ナユカには、自身の「魔法無効化能力」への違和感がまだどうしてもある。ただ触れるだけというのは、本人にとっては何もしていないのと同様で、それによって褒められたくはないというのは、自尊心の問題だろう。指示をし損なった結果、リンディによって眠らされた犯人を捕縛しただけのサンドラにも、それはわかる。
「……でもね、冷静だった点は評価するよ、わたしは。ふつうは、周りがパニックになっていたら、落ち着いてはいられないからね」
やはり、神経が太いと思う……。その表現はフィリスから止められているのでやめておくが。
「いえ、その……どうすればいいか、わからなかっただけで……」
確かにそうかもしれないが、周囲の動揺にもかかわらず、慌てずにその場に留まっていた――たとえ幻影を見なかったとはいえ。最初に声をかけたときのナユカの落ち着きを、フィリスは知っている。
「動かれたら、ユーカに触れなかった」そして、幻影は消えなかっただろう。「だから、それは正解」
一目散に逃げたほうがいいケースもあるものの、今回はそうではなかった。
「それは、たまたまで……」
どうしても達成感を感じられないナユカを、リンディがさえぎる。
「でも、それでよかった。やっぱり、並みのしんけ……」
「コホン」
フィリスの咳払い。
「ま、とにかく……」誤魔化しで改まり、まとめにかかる表のヒーロー。「全員の協力で事態を収拾できたんだから、それでいいんじゃない?」
まとめを取られた指揮官は、まとめをまとめる。
「九課のお手柄ってことでね」
「あたし、九課じゃないけど」
「セデイターは、うちの管轄」
「……まぁ、いいか、それで」
それで、手柄の独り占めにならないのなら、少しは居心地の悪いヒーローではなくなる。
「では、今日はもう休みましょう。これは、健康管理責任者としての勧告です」
この権限はフィリスにある。あのような幻影による精神的ダメージから回復するには、休息が必要だ。ナユカのみはどんな幻影だったのか知らないため、一度フィリスに尋ねたものの、当分、誰にもそれを聞かないようにと注意された。フラッシュバックにより、再度ダメージを受けることを懸念しているとのことだ。
「そうしたいのはやまやまなんだけど、報告書をね……」
早めに出す必要がある課長に、フリーランスがお悔やみのポーズ。
「ご愁傷さま」
「あなたにも協力してもらうよ。表向きヒーローなんだから」
「今日は休めって、勧告出てるから」
リンディは、健康管理者に視線を向ける。
「そういうことです」隣を見る。「ユーカも気疲れはしたでしょ? また、いろいろと誤魔化すことが多かったし」
各方面の関係者に対して。
「まぁ、その点は……確かに」
積極的に嘘をつくのではなく、単に秘匿するという形でも、まじめなナユカには気疲れのもとだ。
「というわけで、今日はこれで解散。お疲れさまでした」
またも、リンディに自分の言うべきことを取られたサンドラ。……さっきから、何かと先手を取られてばかりだ。
「わかったよ。報告書は明日ね」実は、自分もやりたくない。「今日はこれで解散。お疲れさまでした」




