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魔法世界のセデイター 2.異世界人の秘密と魔法省の騒動  作者: 七瀬 ノイド
七章 魔法省八日目(人事)
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7-3 九課の人員

 実験室を練習用に使える定時まで、みっちりとトレーニングをしたリンディと、それに付き合ったナユカが九課に入ると、フィリスはすでに医師たちとの打ち合わせから戻っており、課長と秘書も揃っていた。

「戻ったよー」

 練習にて自身の予想を超えた上達を見たせいか、リンディは少々の疲れがあっても機嫌がいい。ターシャにあのことをばらした件で、サンドラをとっちめるのも忘れている。

「お疲れさま、リンディ。お茶飲む?」その情報漏えい源は、魔導士が自主的に練習に向かったことから、扱いが丁寧だ。「あ、ユーカもね」

「はい」

 いつになく付け足しにされてしまったナユカは、苦笑い。実際、「付き添い」で見学していただけである。……ただ、サンドラがリンディに練習を促していたことは、先の結界破り実験のときから承知しているので、それに不満はない。むしろ、微笑ましいくらい。

「サンディが入れるんじゃないよね……あれ?」なぜか課長謹製のお茶を警戒しているリンディは、課内にひとり、あまり見かけないが見たことのある人物を発見。「えーと……」

 思い出そうとしていると、その女性が先に話しかけてくる。

「お久しぶりです、リンディさん」

 挨拶されて、記憶を手繰る。

「……あ、そうだ」思い出して、手を打つ。「リリーだよね、確か」

「惜しいです」

 九課の人員だ。確か、基本的に外回りだから、滅多に会わない。名前を思い出そうとして、リンディがよく見ると、女性の表情に隠し切れない疲労感が見て取れる。自分のせいではないとは思うが、早く当てたほうがよさそう。

「わかった。ララーだった」

「いえ、そっちじゃなくて」

「まさか……ロロー?」

 リンディが当てようとしていた間、ミレットにお茶の用意を指示していたサンドラが、ここで割り込む。

「ルルーだよ」

「あー、言っちゃった、もう。出掛かってたのに」

 先に「レレー」と言うか、「ルルー」と言うか……迷っていた。

「失礼でしょ、あまり間違えるのは」

 倦怠感漂う自分の部下に対して、上司が妙に気を遣っている……。なにかあったのだろうか? リンディは、黙ったまま両者を観察する。

「いえ、いいんです。あまりお会いしてないですから……」

 気だるげなルルー。声から力が抜けてゆく……。そのアンニュイさに、筋力課長までもが引っ張られる。

「そうだよね……」

「あ……別に皮肉では……」

「うん、わかってる。まぁ……できるだけ希望に沿うようにするから、今日はもう帰って休んでいいよ。疲れたでしょ」

「はい……そうします」ゆっくりうなずいたルルーは、早々に辞去を申し出る。「……では、みなさん……失礼します」

 会釈すると、初対面のナユカへの自己紹介などもなしに、出口へと向かう。去り行く足取りは、重しがついているかのよう……。


「帰っちゃった」

 パタンと、どことなくはかなげに閉じられたドアを、リンディは見つめている。

「戻ってきたばかりだから」

 同じくそちらに目をやっているサンドラに、紹介を受けなかったナユカが尋ねる。

「……セデイターの方ですか?」

「ごめん、紹介しなかったね」課長も、あのルルーを引き止めるのは気が引けたため、紹介を省いていた。「彼女は、ルルー。九課の……基本的に、外回り。情報収集担当ね。汚職事件のことを聞いて、急いで戻ってきたわけ」

「それでお疲れ?」

 あんなに疲れるとは……どれほど遠くから、どんだけ急いで戻ったんだ、とリンディは思う。

「それだけじゃなくてね……」

 それよりも別の理由がある。その点で若干気に病んでいるサンドラは、自分で言いたくないため、ミレットに目線で説明を促す。

「彼女は、心身の疲労を理由に、内勤への異動をご希望です。現状、九課では内勤の欠員が一名発生しましたが、補充もありましたので、その辺りの調整が必要となっています」

「ああ、誰かが酷使するからか」

 さらっと放たれたフリーランスから指摘に、九課の長がかすかにうめく。

「ぐ」

 酷使かどうかはともかく、本来は内勤と兼任にもかかわらず、ずっと外へ出しっ放しだったのは事実だ。課長が部下のルルーに気を遣っていたのは、そのため。そんな心情に気付いているのかいないのか、リンディが続ける。

「それで、急いで帰ってきたんだ。今なら内勤に空きがあると思って」

「……わたしが埋めた形になっています」

 感情を表さないように答えたフィリスに、感情を表さないミレットが答える。

「職務は違いますが、形式的にはそうなります」

「仕事が違うんならいいじゃない。本人の希望通りで」

 ああいうお疲れの姿を目の当たりにすれば、リンディでなくてもそう思う。

「その場合、外勤の情報収集担当が一名欠員して、一名のみになってしまいます」

 ミレットに指摘されて、逆に、その一名を思い出す。

「ああ、そういえばもうひとりいるんだっけ。全然見かけないけど」

 そっちも出しっ放し。そんなことでルルーの二の舞にならないかと、リンディはサンドラに追及めいた視線を向ける。

「……滅多に帰ってこないからね。まあ……彼は外回り大好きで、楽しんでるよ。帰ってきても陽気だね」

 実際、あっちは課長が呼んでもなかなか戻ってこない。今思い起こせば、外回りの前に、もう少しここに留まりたいことをほのめかしていたルルーとは、大違い。サンドラの発言をちらっと疑ったリンディも、すぐに当人のキャラクターを思い出す。

「そういえば、前、見たとき踊ってたな」

 秘書は目を伏せ、黙ってかすかに首を振る。それを目にしつつ、ナユカが聞き返す。

「踊ってた?」

「突然、踊りだしたりするんだよねー」

 その姿が目に浮かび、フリーランスからは笑顔がこぼれる。

「危ない人とか……?」

 医者として、フィリスの反応は、ありがちかもしれない。突然踊りだす理由は……いろいろなやばいものが頭をよぎる……。しかし、リンディにそんな印象はない。

「ちょっと変ってるだけ。『踊りは言葉、言葉は踊りだ』とか言って……。おもしろいやつ」

「単に陽気なだけだよ、過剰にね」

 サンドラが付け加えた単語が、フィリスには気になる。

「過剰ですか……もしかして……」

「ん? あ、別にセデイトが必要なわけじゃないよ。魔導士じゃないし」

 この課がそれを扱っている以上、そこは課長として、いちおうはっきりさせておかなければならない。一方、フィリスは、健康管理の専門家として、反射的に勘繰ってしまっただけとはいえ、そこは、むしろ自分の反応が過剰だったかもしれないと思う。

「そうですよね。失礼しました」

 別に問題ないと身振りで示しつつ、サンドラは少し付け足す。

「ただ、セデイト対象者とは妙に波長が合うらしくて、結果的に見つけるのも得意らしいよ」

「……てことは、やっぱり危ないのかな?」

 セデイターは突っついたが、これは冗談だ。なぜなら、魔導士でなければ、セデイト対象になるほど頻繁に、かつ、強力な魔法を使うことはまずない。ごく微量の魔法元素しか消費しない実用魔法で発生する瘴気など微々たるもので、放っておけばすぐに自然浄化される。これは専門家同様、九課課長も理解している。

「波長が合うだけで、気が合うわけじゃないって言ってた。彼は、ナチュラルハイ礼賛だから」

「……なんだか、気になる人ですね」

 なぜだか興味を持ったナユカに、フィリスが視線を向ける。

「ほんとに?」

「変わった趣味だねぇ」

 恋愛音痴のリンディが、素直に乗っかってきた。

「あ、別にそういう意味ではなく……」面倒な誤解に発展するのを避けるべく、瞬時に策を巡らせたナユカは、フィリスに矛先を向けて誤魔化そうと、恋愛音痴に尋ねる。「ちなみに、イケメンですか?」

「そうだねぇ……ミレット、どう思う?」

 リンディがお堅い秘書に振ったところ、不意をつかれて、つい口を割る。

「え? まぁ、それなりに……」

「そ、そうなんですか?」ずずいと乗り出すイケメン好き。「もしかして、筋肉質とか?」

「引き締まってはいるよ。ダンス好きだし」

 概ねそうだろう……。別に筋肉好きではないリンディは、じっくり観察したことはないが。

「外から見たところ、締まった筋肉してるね」

 サンドラは筋肉にこだわりはあるが、まだ話が見えてこない。それでも、おもしろそうなのでとりあえず乗っかってみた。そして、イケメンマッチョ好きは、最後のポイントを質問。

「で、でも……まさか……礼儀正しくはないですよねぇ……聞いた感じだと……」

 やたらに踊ってるわけだし……。

「彼は彼なりに紳士的だと思うよ」

 そうでなければ外回りなどさせない。課長のジャストな返答を得たフィリスは、息を飲む。

「か……かーれなりって、どーいうことでしょうかー」

 ついに、イントネーションに変調を来たし始めたのを耳にして、サンドラにいたずらっぽい笑みが浮かぶ――俄然おもしろくなってきた。

「陽気に礼儀をわきまえてるってことかな」

「へ、へぇー……そうなんだー、ですねー、ですかー」

 イケメンマッチョ紳士好きは平静を装おうとしたものの、押し殺せず、言葉にも変調が伝播。

「まずくないですか?」

 ナユカのささやきが、リンディの耳元に。

「そうだねぇ……」ここで切り上げたほうがいいと判断。「この話はこれぐらいにして……」

「あら、いいじゃない、別に」

 サンドラが面白がって続けようとしたため、リンディは近づいて耳打ち。

「ちょっと、やめてよ。めんどくさくなるから」

「なんで?」

「後で説明するよ」

「ふーん」隣のリンディをちらっと見てから、サンドラはフィリスに視線を向けて、いったんこの話は閉じることにする。「まぁ、そのうち会えるでしょう。いつかはともかく」


 ところが、せっかくの配慮を無視して、最初に忠告したナユカ自身が即座に蒸し返す。

「あれ? そういえば、新しい魔法部長さんって、イケメンですよねぇ……」

 発言者へと、リンディとフィリスの視線がぱっと向かうが、目線を外して考えており、それには気づかない。

「ちょっとユーカ」

 リンディが声をほとんど出さずに目力と口の動きだけで呼びかけたものの、ナユカの視線は魔法部長の容貌を思い出そうとして、別方向へと向いている。

「それに、わりといい体格してるし、紳士的だし……」つぶやいて目線を戻したところで、ふたりの視線に気づき、はっと手を口に当てる。「あ、今のは……なしです。やめましょう」

 ナユカが手を振って誤魔化そうとしているが、もはや手遅れ。もうこちらへばっちり聞こえている……。天然? それともわざと? あきれたリンディはため息……。しかし、存外、フィリスは冷静だ。

「そうね」

 取り乱すことなく同意したのを見て、恋愛音痴は肩透かしを食らった。

「あれ?」

 不思議に思ってイケメンマッチョ紳士好きを注視すると、当人は落ち着いて答える。

「結婚されてます」

「そうだね」

 即、肯定したサンドラは、その点も含め、新魔法部長については調査済み。するとフィリスは……。

「奥さんのいらっしゃる方には、特に何も……」

 興味が湧かない、感じない、つまりは「欲情」しない……ということだろう。恋愛にあまり関心がないリンディでも、そんな精神構造には興味が湧く。

「へえ、ずいぶん割り切ってるね」

「そうではなく、一種の本能のようなものでしょうか。既婚者と知った途端に、一気に醒めます」

「ふーん。けっこう都合よくできてるんだ」

 これは別に皮肉ではなく、恋愛音痴はむしろ感心している。そして、イケメン好きにも自覚がある。

「そうなんです。もしそうじゃなかったら、かなり面倒なことになります」

「今でも面倒だからねぇ……」

 肩をすくめるリンディ。すると、ここで状況がわからないナユカが、割って入る。

「どういうこと? 結婚してるって、みんな知ってたの?」

 どういうわけか、そういう前提で話が進んでいる。課長はともかく、なぜ新しい魔法部長の個人情報をみんなが知っているのだろう……。

「あ、そっか。ユーカは知らないんだよね」この件に関して最もセンシティブと思われるフィリスが切り出す。「刻印について」

「なに?」

 異世界人の知らない単語だ。

「『刻印』ね。結婚すると、魔法で印を付けるの。男性は左手の甲の上で……女性は右手中指の基節(第二関節と付け根の間)の上ね」 

 説明しながら、医師はそれらの位置をそれぞれ逆の手で触れた。

「……ふーん。それで、すぐわかったんだ」

 それなら、既婚者であることは一目瞭然だ。特に、男の場合はより目立つ。フィリスのような、ある意味、気になって仕方がない向きなら、なおさら目に留まるだろう。これで、ナユカは全員が知っていたことに納得。別の機会に部長本人の手を注視してみようと思う。

「そういうこと」

 当のフィリスは、さばさばしたものだ。もはや興味がないというのがありあり。実は、リンディも、部長に対してそういう観点からの興味がなかったため、その手に刻印があることなど気付いてはいなかった。というよりも、あの部長に限らず、そもそもその辺りへの関心が低い。

「最近はしない人も多いよ。サンディみたいに」

 指への視線を感じた既婚者が、右手中指を見せるべく、指を開いて手の甲を胸の前へ出す。

「まぁね」

 どことなく得意げなサンドラへ、リンディから強烈な突っ込み。

「いつ離婚されてもいいように」

「怒るよ。だいたい、消したきゃいつでも消せるでしょ」

「あ、そうなんだ」

 ナユカは、刺青のように絶対消えないものと思っていたようだ。刺青も消せなくはないが、そう簡単ではないし、きれいさっぱりとはいかない。こちらの刻印は魔法で行い、魔法で跡形なく消えるものとはいえ、さすがに一瞬で消せるようにはできておらず、完全に消滅するには半年ほどかかる。アヴァンチュールのときだけ消すなんてことができてしまっては、刻印の意味がない。

「わたしは、仕事中にあまり旦那のことを考えたくないだけ」

 既婚者の言い分に、未婚の恋愛音痴はストレートに反応する。

「旦那、浮かばれないよね」

「気が散るからよ」

 サンドラは表情を変えずに、さらっと口にした……はずだが、フィリスはやっかみの視線を送ってくる。

「それは……むしろ、のろけなのでは……」

「あー、もう。わたしのことはいいじゃない。それよりも……」サンドラは、問題児へ視線を切り返す。「イケメンでマッチョな紳士に弱いわけね」

「え?」その嗜好は、すでにばればれ。隠しているわけではないとはいえ、フィリスはきっちりカウンターを食らった。「……ええ」

「で、既婚者は本能的にNGと……。それは、子産み願望だね」

 既婚者が極めて平たくぶった切ったので、ナユカが異論を唱えようとしたところ……。

「そのとおりです」

 当のフィリスが思いっきり肯定してきた。不意を突かれた異邦人は、ぱっと当人を見る。

「え?」

「なるほど」

 うなずくリンディ。

「えっ?」

 その説が支持を広げたことに、普通の恋愛脳を持つナユカは驚く。傍らのフィリスは、かまわず自己分析を披露し始める。

「理性的にはまだ子供がほしいとは思ってないんですが、本能のほうがそっちいっちゃってるんです、たぶん」

「悩ましいね……。この際、さっさと作っちゃったら」

 サンドラのこんなアドバイスが鼓膜に届き、落ち着こうと口に含んだお茶をナユカは吹きそうになる。

「な、何を?」

「何をって……子供。それで落ち着く」

 しれっと答えた既婚者。

「……そうかもしれません」

 フィリスが納得しかかっている……。焦る異世界人。

「だ、だって……相手は?」

「それは、イケメンマッチョ紳士」

 代わって答えたのはリンディ。それは正解――だが、尋ねたほうは少々イラッとする。

「そうだけど……そうじゃないでしょ」

「でも、それ以外ないよねぇ」

 そんな正解者に、当のイケメンマッチョ紳士好きが同意。

「それは、そうですね」

「だから、そういうことじゃなく……」壊れた恋愛トークに、イラつくナユカの恋愛脳。「あーもうっ」

「まぁ、落ち着いて」ジェスチャーを伴って、サンドラがなだめる。「冗談なんだから」

 もとより、「子供を作れ」という部分は冗談だ――それ以外はともかく。

「……そうなんですか?」

 異文化の中にいる異邦人には、どこから冗談なのか……よくわからない。

「そうなの?」

 特に冗談は言っていないリンディ。それは、冗談を受けたフィリスも同じ。

「そうらしいです」

「そういうわけで、お茶入れて、ミレット」

 面倒なので、適当に収める既婚者。

「あ……はい」

 お堅い秘書は、深くナユカに同情した。


 さて、そろそろ九課も、一般部署よりも一時間遅い終業の時間だ。

「ところで、リンディ。今日は自分の部屋に帰るんでしょ」

 サンドラからそれとなく念押しされ、思い出したように答える。

「え? あ……うん。そうだね……そういえば……そうだった……」黄昏た雰囲気を醸し出す。「これから片付けか……めんどくさいなぁ……はぁ」

 これ見よがしなため息……帰りたがってないのがありあり……。とはいえ、実際には、リンディは出かける前には自室をきっちり片付けてくるし、大家さんの計らいで、留守中の掃除には信用できるホームヘルパーを定期的に手配してもらっており、部屋に関して面倒なことは何もない。面倒なのは、魔法省のロッカーに置いてある荷物を持って帰らなければならないこと。セデイターを含め、常連の魔法省関係者なら、有料のロッカーを一箇所だけ確保することが許可されているが、たとえ洗濯済みであっても、着替えだのなんだのをずっとそんなところに突っ込んでおくわけにもいかない。

 借りている自室はここからさほど遠いわけではないものの、荷物を抱えて歩いていくには、それなりの気力と体力がいる。体力はともかく、魔法出力の練習をしたことで、今からそういう気力は出なさそう。加えて、こっちのほうが主な理由だが、もう一晩ふたりの部屋に泊まりたいというのがある。

 そんな思惑に基づいて、より気だるげに振舞うリンディの様子を目にし、ナユカが気を廻す。

「今日もこっちの部屋来ませんか」客人に声をかけてから、同居人に確認。「いいよね、フィリリン」

「わたしはいいけど」

 許可を得たリンディは……遠慮がちに遠慮しない。

「え? そんな……悪いし……じゃ、お言葉に甘えて」

 内心「待ってました」なわけで、できるだけそれが出ないようにしている。しかし、サンドラには、明白。

「あのねぇ……」軽くため息をつきつつも、反対はしない。迎えるほうが嫌がっているわけでもなし。「ま、明日はちゃんと帰りなさいよ」

「うん」

 ぼそっと返事したリンディを見て、かすかに表情を緩めたサンドラは、ナユカとフィリスに目配せを送る。

「悪いね、ふたりとも」

 本人たちがいいといっているのだから、干渉する筋合いではないかもしれないが……。「いえ、わたしたちは全然……」

 最初から客人意図を見抜いているフィリスには、苦笑いが混じっている……とはいえ、別に泊めるのがいやなわけではない。その傍ら、ナユカは屈託がない。

「問題ないです」


 そんなわけで、リンディはこの夜もふたりの部屋にお邪魔し、次の朝を迎えることになるだろう。果たして、彼女が自分の部屋へと戻る日は来るのだろうか……。




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