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魔法世界のセデイター 2.異世界人の秘密と魔法省の騒動  作者: 七瀬 ノイド
六章 魔法省七日目(汚職、素材)
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6-9 ミレットは教えない

 ようやく九課へ戻ってきた三人を、魔法研に行く前から一人で留守番をしているミレットが出迎える。

「お疲れ様です」

「どうだった、こっちは? 暇してた? ご飯食べた?」

 質問の多いリンディに、秘書――今は課長代理――の答えは、まず一つだけ。

「食事は……しました」

 人はほとんど来なかったものの、連絡事項が多く、ここの主みたいに寝るほど暇ではなかった。食事は売店で事前に買っておいたものを、ここで軽く食べただけ。

「ふーん、何食べたの? こっちは魔法研の食堂で食べちゃったよ。これが、意外に悪くなくてね。やっぱ偏見はよくないよねー」

 こちらはそれなりに元気だ。先ほどの滋養強壮剤は、リンディが思ったよりも効いているらしい。ということは、やはり、もう一本は余分だったのだろう。

「そうですか……魔法研で……」

 眉をぴくっと動かしたミレットは、料理などの詳細を話し始める前に端末に向かい、三人が戻ったことをサンドラへ連絡する。


 スピーカーオフにつき、他の者たちには内容がわからない。この情勢なら、隠す話があるのだろう。それならばと、全員が耳をそばだてる……というのは、通常の行為だ。しかし、通話はすぐに終わり、ミレットが話し始める前にリンディが口を開く。

「悪だくみ?」

「いえ……念のためで、今回はなにも……」では、前回はあったのだろう。現在、課長代理を兼ねている秘書はそれ以上は続けず、軽く咳払い。「そろそろ、サンドラ課長……いえ、魔法部長臨時代行……が、一旦戻ってくると思います。新しい魔法部長が決まったとのことで」

 ミレットの「魔法部長臨時代行」という単語は、若干トーンが下がって早口になっていた。あまり口にしたくというのが、それとなくわかる。

「そう。で、誰に?」

 いち早く尋ねたのはリンディ。しかし、ミレットは堅牢だ。

「それは、明日の発表をお待ちください」

「なに? 教えてくれないの? ケチ」

「まだ辞令が出ていないので」

 いい訳っぽい……ので、追求する。

「それでもいいから」

「申し訳ありません。まだ省内秘ですので」

 こっちが本当。追及者は、戦術的すねたふり。

「あ、そういうこと。……どうせあたしは部外者ですよ、だ」

 もちろん、それで落ちるミレットではない。

「残念ながら」

「わたしは部外者ではないですよ」

 フィリスが入ってきた。先日より、魔法省に正式に雇用されており、省内秘の対象ではないだろう。

「まだ辞令が出ていないので、明日の発表をお待ちください」

 お堅い人が反復すると、お手上げだ。それならばと、リンディは声を落として核心を突く。

「……まさか……サンディじゃないよね」

「違います」

 ミレットは、かぶせ気味にきっぱりと否定。この秘書らしからぬ反応だ……ここは、付け入るチャンス。

「そんなにいやなんだ」

「そうではありません。ただ単に……向いてないと思っているだけです」

 意外にも、その人物の秘書は躊躇なく断言した。これはリンディの思惑とは違う。

「あれ?」

「まぁ、確かに……」

 フィリスが傍らでミレットの意見に同意し、ナユカも賛同する。

「……そうかも」

「全員一致か」

 当然、リンディも。さらに、ミレットが付け加える。

「ご本人も含めて」

 それなら、立場にもかかわらず言い切ったわけが、リンディにもわかる。

「なら、はっきりしてるね」

「はい」

 お堅い秘書の肯定がいつになく力強く聞こえるのは気のせいか……。付け入るところがないなら、この件でこれ以上の情報を引き出すのは難しそう。……ともかく、サンドラではないことがわかった――それ以外の名前を聞いても、秘書以外の三人には、おそらくわからないだろう……。この件の追及を、リンディは打ち切る。

「まぁ、新部長の件はいいや。ところで……」間を置く。「代わりにさっきの『噂』っての聞かせて」

「え?」

 聞き返したものの、何のことかわかっているミレットの表情がこわばる。

「あの『気持ち悪い』とかいうやつ。もう大丈夫でしょ?」

「それは……わかりました」新魔法部長の件をうやむやにしたこともあり、渋々承諾する。「実は、前魔法部長の……あい……」

 話しかけたところで、潔癖な秘書はいったん停止。続けさせるべく、聞き手が耳を傾ける。

「あい?」

「ごめんなさい、やっぱり……」

 うつむいたミレットの顔から色が消えていくのを見て、フィリスが傍らへ。

「大丈夫ですか?」

「さっきも……この話、聞こうとしたらこうなったんだよね……」

 ばつが悪そうなリンディ。

「精神安定の魔法をかけますね」

 医師が詠唱すると、患者は直ちに回復。

「……ありがとうございます。すみません、ご迷惑かけて」

「いえ。それより、あちらで少し休まれたほうが」

 ソファを指差したフィリスの魔法の効き目は抜群で、例の話をしようとした前よりも、ミレットの気分はすっきりしている。

「いえ、もう大丈夫です」

「いいから休んでなよ。留守番は終わったんだから」

 リンディも少し責任を感じている。

「……では、お言葉に甘えて」応じないと、逆に気を遣わせそうだと判断。「課長……『魔法部長臨時代行』から連絡があるまで、よろしくお願いします」

 ゆっくりソファへ向かったミレットを見て、ナユカは席を立つ。

「それじゃ、わたしはお茶を入れてきます」




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