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魔法世界のセデイター 2.異世界人の秘密と魔法省の騒動  作者: 七瀬 ノイド
三章 魔法省三日目(情報、民間療法、仕事)
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3-5 課長の報告

 その頃、九課課長サンドラは、魔法部長秘書からの連絡を待っていた。ナユカの件について「中途半端な」報告をすべく部長のオフィスへと向かったものの、当人は不在で、そこに一人で残っていた部長秘書によれば、二時間ほど前から行方知れずという。

 部長クラス以上の管理職とその秘書は、小型の連絡用ディバイスを所持しているが、連絡する側がしかるべき機器へ自ら接続することによって、通信を受けられる固定的な機器へと連絡するものであり、携帯電話のように自在に通話できるものではない。要は、向こうから連絡を取ってくれないと所在がわからない……。したがって、各所へ連絡して、部長を見かけたらこちらへ連絡をするように伝えてもらう必要がある。部長秘書がその任に当たっている間、肝心の主がいないオフィスで待っていても仕方がないので、当人が捕まったらこちらへ連絡をくれるよう指示して九課に戻り、今に至る。


 それにしても、あの魔法部長が、上からの命令でなんらかの隠密行動を執るなどということは考えにくい。その理由は単純で、つまりはまったく向いていない。よって、そんな指令はよほどの事情がない限りは出ない。取り立ててなにもせず、ゆえに目立ったミスもせずに、あの地位へと上った人である。組織の人間ゆえ、命令とあればやるとは思うが、そういったことはこちらへ回ってくるべきものだ。そのための九課なのだから。

 仮に、こちらを飛ばして向こうに回されたとするなら、上が錯乱しているのでなければ、九課の存在が危うくなっている兆候だ。気になるのは、最近、何らかの調査がどこかしこに入っている痕跡があること。まさか、魔法部長がその調査に関係している? 書類にサインすることしか期待されていない、あの人物が……。

 こちらとしても「痛い腹」を探られたくないので、念のため、データベースへのアクセスログから魔法無効化関連の項目は適度に削除はしておいた。もとより「『記憶遡行魔法が』効かない」と、中途半端に報告する予定につき、全部消去する必要はない。それをしてしまうと、逆に怪しまれる。

 しかし、よく考えてみれば、秘密裏に調査をしているような者があからさまな隠密行動を執るなど、矛盾もいいところ。したがって、魔法部長がそれに当たっているなどということはまずない。よほど下手でなければ……。いや、ただ単に下手なのか? あの部長ならそうかもしれない。だったら任命した奴はただのアホだ……。アホといえば、もしかしてあの幹部……名前なんていったっけ……あいつ……それから、あいつも……。

 などと、サンドラが暇に飽かして上司たちを脳内罵倒していると、魔法部長秘書からようやく連絡が入った。ミレットがたまたま来ているどこぞのセデイターの対応をしているので、出たのは自分だ。早速、魔法部長オフィスへと再度赴く。


「失礼します」

 サンドラ九課課長がオフィスに入ると、魔法部長のオーランがデスクにいた――いつものように。そして、いつもどおり薄い……いろんな意味で。

「ああ、クロスウェルド課長」

 ハンカチで頭頂周辺をぐるっと拭いている。それができるのだから……薄い。

「先日、セデイト時に保護された方の件で、ご報告があります」サンドラは、携行してきた書類を出す。「詳細はこちらに」

「はぁ」

 提出された書類を、いつもどおりに気のなさそうに一瞥するオーラン魔法部長。いや、いつも以上に気が入っていない。視線が同じ部分を何度も行き来している。一瞬、なにか気になる部分があるのかと、ギクッとしたサンドラだが、すぐに部長の意識が別のところにあり、目の前の文書をまったく読んでいないことに気づく。……それならそれで好都合。

「そこにサインをいただけますか?」

「サイン……あ、そうそう……サイン、サイン……」魔法部長は、九課課長から指定された場所に、半ば自動的にサインをする。「はい、これ」

「ありがとうございます」署名付きで返ってきた書類を受け取り、後は立ち去るだけのサンドラ。しかし、その前に……。「部長は、どちらにいらっしゃったのですか?」

「ど、どちら……というと……?」

 明らかに取り乱している。少し突っ込んでみる価値はありそうだ。

「連絡が取れないと伺ったので」

「れ、連絡……?」

「そちらの秘書君が、部長が見つからないと」

 部長秘書はミレットと同年代の若い男――わりとイケメンだ。自己主張の少ない部長がなぜか特別に取り立てたと、もっぱらの噂である。

「あ、あーあ」手を打つ魔法部長。なんというわざとらしい相槌。「それは……まぁ、そのぉ……野暮用で……」

「それは、どのような?」

 あたふたするオーラン部長に、サンドラの矢が放たれた。

「え、ええ……まぁ、その……あー……個人的な……」

「私用ですか? 魔法省内で?」

 部下の追求に対する適切な返答が思い浮かばず、少しの間が空く。そして、妙なタイミングで、いつになく声を荒げ……とまではいかないものの、魔法部長が強く出る。

「き、君。それ以上は、プライバシーの……」

 言い切る前にかぶせるサンドラ。

「侵害ですね。わかりました」

 魔法省内というのが図星だということがわかった。私用だということも……。まさか、昼下がりの情事とか? こいつが? なんか、探りを入れるのが嫌になってきた……。サンドラはここらでやめることにする。……上から指示された公務でなければどうでもいい。勝手にしてくれ。

 初期目的を達した九課課長は、ここでこれ以上の追求はせず、さっさと魔法部長のオフィスを辞去した。




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