ある日の放課後
何てことのない一日だった。部活も終わり、多少の疲労感と充足感を得て帰路につく。途中、コンビニでコロッケを買い食いしたこと以外は他と変わらない一日がもうすぐ終わろうとしていた。
あと少しで家に着くという所で道の端に捨て犬がいることに気づく。屈託のない顔をした柴犬だ。まだ捨てられたばかりらしく特に弱っている様子は見受けられなかった。
「おー、よしよし。」
深く考えることはせず、すぐに家で飼おうと凜は決意した。
「どうやってお母さんを説得しようか。」
という不安が頭をよぎったが、凜は楽天的な女の子だった。
「まあ、いっか。なんとかなるでしょ!」
犬を抱え「名前はどうしようかな。」などと考えながら残り少ない家路を駆けていった。
母親の了解を得るのは意外なほど簡単に済んだ。楽天的で軽はずみな行動も少なくはないが凜はしっかりとした子だ。それに言ったところで簡単には諦めないだろう。葵は自分の娘のことをよく知っていた。
「やったー!おいで、ハナ!」
凜は嬉しそうに犬と一緒に二階の自室に駆け上がっていった。
「もう名前まで決めて。」
葵は呆れつつも少し緩んだ声で呟いた。