第19話
そうして城の1階の廊下を進んでいく一行。
進んでいくと廊下に部屋が並んでいる。
「部屋の中に魔人がいる。ランクはSS。
1体しかいないから倒して連携を深めよう。」
ペドロの強化魔法がかかると、盾を持った
キースが部屋に突っ込んでいく。それに気づいた
魔人がキースに剣で斬りかかってくる。
「人間ドモガヤッテキタカ。殺シテヤル。」
叫びながら斬りかかってきた魔人の剣を
盾でがっちりと押さえつけると、その間に
ニックとジミーが魔人の背後に回って
後ろから切りつけていく。
剣で切られる度に大声を出しながら暴れる魔人。
それでも慌てることなく背中から切りつけ、
最後は魔人の首を跳ねて倒しきった勇者一行。
もうレンとティエラが何も言わなくても
いいくらいに連携が良くなってきている。
自分たちの仕事ができたのか満足げな表情で
頷きあうと、
「次に行こう。」
ニックの言葉で小部屋を出て再び廊下を歩き出す。
『魔王城に入ったか。いよいよ最終決戦だな。』
『勇者もその一行もレベルが上がっているではないか。
流石にあの2人が本気で教えると上達も早いな。』
『あの二人に鍛えられた今の勇者なら期待が持てるな。』
『元々力のある者の隠れていた力を開放させてあげたみたいね。
惜しげもなく自分たちの知識、経験を教えているわ。』
魔王城の中を進んで行くと廊下の曲がり角や小部屋の中に
ランクSSの魔人がたむろしているが、それらを
小気味いいコンビネーションで討伐して進んでいると
上に登る階段を見つけた。
階段の上を見上げて皆で頷きあってから
上の階を目指す一行。
そのまま階段を上がりきると、そこは1階と同じ作りの
フロアになっていた。
探索スキルを稼働させている二人には階段近くに
魔人の姿は見えず、廊下の先に複数体固まっているのが
見える。
「ここは安全っぽい。少し休もう。」
レンの言葉で皆、階段から上がった場所に
思い思いに腰を下ろし給水や簡単な食事をとり始める。
レンとティエラは給水しながら時折勇者とその一行を
見ていた。
彼ら2人には分っていた。勇者とその一行が魔王城に
入ってから極度に緊張してきていることを。
口数も少なくなり、わずかな休息時間でできるだけ
回復しようと全員が座って下を向いている。
肉体的な疲労はある程度それで回復できるだろう。
しかし精神的な疲労はますます蓄積されてきており
緊張感や不安感が高まってきているのが2人には
手に取る様に分かった。
レンとティエラも緊張していないと言えば嘘になるが
彼らはそれを抑え込むだけの鍛錬を日々何年にも渡り
やってきたのだ。その自信が緊張や不安を抑え込む事に
成功している要因になっている。
彼らの緊張、不安感は恐らく魔王との決戦まで
続くだろう。
だが、これに耐えられない者はそもそも
魔王と戦う資格すらないのだ。
レンもティエラもそれを分かっているので
あえて言葉も掛けずに見ているだけだった。
自分の不安感を克服できるのは自分だけなのだ。
しばらく休むと皆立ち上がる。
「恐らく明日は決戦だ。今日は出来るだけ魔人を
倒して連携を更に高めるんだ。技術的には皆
相当のレベルに達しているから自信もっていいぞ。
後はパーティの連携だけだ。
魔王は強い。
俺はこの前全員揃って魔王を
退治してから国に帰るぞと言ったが、
ひょっとしたら戦闘中に誰かが
戦闘不能になるかもしれない。
もし、もしそうなったらその仲間には構うな。
残ったメンバーで魔王を倒すんだ。
戦闘不能になっているメンバーに気を使っている
暇はないと思った方がいい。」
そこで一旦言葉を切って全員の顔を見て
話を続けるレン。
「残酷な話だと思ってるだろ?
でもそうしないとダメなんだ。
怪我をした仲間を気にしてると自分も
やられると思った方がいい。くどいが
魔王は簡単には倒せない。自分が
出せるベストのパフォーマンスが
必要になるんだ。」
黙って頷く勇者と一行
レンの言葉にティエラが、
「みんな強くなってるのは間違いない。
あとは魔王との戦いでも持ってるものを
全部出せば必ず勝てるわよ。」
しばらく休んでから魔王城の2階を
縦に並んで進んでいく一行。
途中で出会うランクSSの魔人相手に
パーテイの連携を確認し、レンとティエラの
アドバイスも受けながら各自がスキルを
高めていく。
レンとティエラもできるだけ彼らに
疲労を蓄積させまいと1体または2体だけ残し
残りは二人で次々と魔人を倒している。
そんな二人の戦闘を見る一行
「剣捌きがほとんど見えない。」
僧侶のペドロが言えば、
「無詠唱であの威力の精霊魔法。
本当に半端ないって。」
精霊士のライアンも感心している。
そうして2階を進んでいくと、階段があり、
その上を見ていたティエラが
「階段の上にランクSSの魔人が4体固まってるわ。
どうする?レン。」
「その固まってる魔人の奥にある小部屋は
安全そうじゃないか?」
「本当ね。じゃああそこまで行きますか。」
「階段の上に魔人4体。そいつを倒したら
その奥の小部屋で休めるぞ。いくぞ。」
階段を駆け上がっていくレンとティエラ。
そのまま目に入った魔人2体を剣で瞬殺する。
後から階段を上がってきたニックと一行も
残り2体を見事な連携であっという間に倒した。
そうして小部屋にはいると腰を落として
休息を取る。
「今の連携は見事だった。おそらくこの上が
魔王のいる階だろう。あと少しだ。」
レンの言葉に部屋の天井を見上げるニック。
そして視線をレンに戻し、
「魔王との戦いはレンさん達は見てるだけですか?」
「基本そのつもりだ。勇者とその一行が魔王を
倒すことに大きな意味があると思っているからな。
大丈夫だ、お前達ならやれる。」
「万が一魔王が何かを召喚したり、外から魔王の
仲間が来たときはレンと私で処理するから、
貴方達は魔王に集中して。」
「「わかった。」」
ミッドランドの砦で出会ってレンが彼らを
打ちのめした時と比べ、今の彼らは表情も引き締まり、
ランクS以上のクラスとの戦闘を繰り返して得た
経験からか表情に自信も湧き出てきている。
これならいけるかもしれないとレンとティエラも
思っていたが、あえて口にはしなかった。
しばらく休んでから全員同時に立ち上がって
顔を見合わせてから3階を進むべく歩みだした。
3階は2階よりは小さ目の造りになっているが
その分魔人が密集しており、また小部屋にも
魔人がいるので休息する間はなさそうだ。
「キース、左を、俺は右をやる。」
ニックの声で左右に分かれると
それぞれがランクSSとの魔人の戦闘に入った。
ニックは一人で魔人の攻撃を躱しながら
剣で魔人に傷をつけていく。
もう一方ではキースとジミーが前後から
魔人と対峙して少しづつ削っている。
先に一人で魔人を倒したニックが合流すると
一気に魔人を倒し切った。
「コンビネーションがいいわね。」
「ああ。皆その調子で進もう。」
レンとティエラが今度は前に出て進んでいくと
前方に魔人3体が現れた。
「俺たちでやるから少しでも休んでおいてくれ。」
背後の一行に声をかけるとそのまま魔人の中に
突っ込んでいったかと思うとあっという間に2人で
3体を倒し切った。
「倒すのが早すぎて休めないぜ、レン。」
背後からキースが呆れた様に言う。
「じゃあもう一丁俺たちがやるよ。」
進んだ先にいた2体も2人で瞬殺する。
そうして振り返り一行を見て、
「戦闘が無いだけでも少しは休めるだろ?」
「まぁな。緊張しない分楽ではあるな。」
「じゃあ次は任せたぞ。」
「まったく人使いが荒いぜ。」
冗談っぽく言いながらもペドロの強化魔法を
受けて次の魔人に対峙していく勇者とその一行。
1体の魔人をあっという間に倒して背後を見て
「俺達もレン達程じゃないが、早くなっただろう?」
「そうね。でももっと早くしないとね。」
ニコニコしながら言うティエラに一行全員が
「「鬼軍曹だ!」」
当初に比して殲滅速度が上がったことつまり、
能力のアップが自分でも感じられる様になって
一行も冗談が言える程になっていた。
そうして3階を通路に沿って進んでいくと、
一行の目の前に4階に上がる階段が見えた。
その場で立ち止まる一行。階段の前には
明らかに今までの魔人とは違う雰囲気を醸し出している
魔人が2体立っている。
すぐにペドロが強化魔法をかけていく。
「こいつらを倒さないと魔王なんてとても倒せないぞ。」
レンの声で抜刀する前衛陣。
「1体は俺とティエラでやるから、残り1体に集中するんだ。」
「「わかった。」」
こちらが立ち止まった時に相手もこちらを認識し、
2体の魔人が廊下をこちらに向かって駆け足で近づいて来る。
「ランクSSSだけど強くないよ。いけるよ!」
ティエラの声が合図となり一行が一体に襲いかかっていった。
レンとティエラはもう1体に精霊魔法を撃って注意をこちらに
向けると、近づいてきた魔人の剣をわざと自分の剣で受ける。
「大丈夫だ。お前達なら楽勝だ。」
剣を受けたレンが言い、受けた剣で相手の剣を払うと
ティエラと2人同時に魔人の腹を切り裂いて絶命させた。
一行を見ると彼らもチームワークよく魔人を取り囲んで
剣や魔法をあてており、魔人の動きがみるみる弱っていくのが
見えていた。
最後にニックの剣が魔人の首を刎ね絶命させると、
「見事だ。」
「うん、無駄のないいい動きだったよ。」
レンとティエラに褒められて満更でもない表情をしている一行。
「流石に勇者の加護だな。ここまで短時間で伸びるとは。」
レンが感心していると、ニックが
「それは自分達も実感しています。魔人を倒す度に
強くなっていってるのが自分でもわかりますから。」
ニックの言葉に他のメンバーも頷く。
「さて、この上はたぶん魔王の部屋だろう。
今の戦闘能力なら十分に戦えるぞ。自信を持って
でも過信はせずにいこう。とっとと魔王を
やっつけてしまおうぜ。」
レンの言葉に再度気合を入れなおした一行は
最後にレンとティエラからたっぷりとポーション、
MPポーションをもらい、それをポケットに
入れるとニックを先頭に
ゆっくりと階段を4階に上がっていった。
その後ろから階段を上っていくレンとティエラ。
(いよいよね)
(今のあいつらならやれるよ。俺たちは
しっかりフォローしよう)
お互いに頷き合うと一行に続いていく。




