第18話
彼らが相当疲労していたので結局その岩場の下で
翌日の昼過ぎまでいて、十分に回復したのを確認し、
「しっかり休んだから大丈夫だろう。そろそろ
行こうか。」
一行の顔色がだいぶ良くなってきたのを見て
レンが言うと、立ち上がり準備をする。
「ここからはニックも他のメンバと一緒に
1体づつ倒してくれ。1体の魔人を
5人で討伐していく。できるだけ
早く倒すのに慣れてくれ。魔王との
戦闘を想定してやってくぞ。」
これからの方針を決める。
「周囲は大丈夫ね。」
ティエラの声で岩場の下から出ると
一路荒野を魔王城を目指して進んでいく。
魔王城に向かって歩くとしばらくして
探索スキルが前方に魔人が数体固まっているのを
捉えた。
「行くぞ!」
レンの掛け声で突っ込んでいく勇者一行。
レンとティエラはそれぞれ1体を受け持ち
魔人の攻撃を躱しながら時間を稼ぐ、
1体を倒し終えた勇者と一行がティエラが
相手をしていた魔人に斬りかかる。
ティエラはすぐに戦闘をやめてその1体を
彼らに任せ、レンと二人で残り1体を
キープする。
そうして2体目も倒した一行が最後の
魔人に斬りかかるとティエラとレンの二人は
戦闘を止めた。
勇者と一行が魔人を討伐するのを横で見ながら、
「もっと強く剣を振って!」
「精霊魔法は切らすなよ!」
アドバイスを与えて倒しきるまでじっと見ていて
魔人が絶命して荒野の上に倒れ込むと、
「もっとチームを信用して。自分の仕事を
全力でするのよ。仲間の顔や仕草を見なくても
いいくらいに信用しないと。」
「連続で3体倒したくらいで息を切らしてたら
まだまだだぞ。」
ティエラとレンの厳しい声が一行に飛ぶ。
彼らはその言葉をしっかりと受け止めて
頷く。
その後も進みながら1体を早く倒す
チームのコンビネーションを高める鍛錬を
しながら夕刻になった。
一息ついたところで、
「かなり連携が良くなってきた。
その調子だ。」
「うん。最初の頃よりずっといい感じに
なってきてるわよ。」
レンもティエラも彼らと合流してからの
能力の伸びに正直驚いていた。
勇者の加護はあるにしても
元々個人個人の能力が高かったのだろう。
レンとティエラの実力を見て改心してからは
驚異的な能力の伸びを各人が見せている。
もちろん、レンとティエラの教え方が
非常に上手くて彼らの隠されていた
能力を引き出したとも言えるが、
それでも今の勇者とその一行なら
十分に魔王と戦えるのではないかと
思える程の成長を見せていた。
少し休憩すると、
「このまま続けていこう。今の連携の
感じを全員で共有するんだ。
魔王城は近いぞ。」
そう言うとティエラと二人で先頭を
歩いていく。
「前から魔人、1体だけだから任せた。」
ティエラの声がするや否やペドロが
強化魔法をかけ、全員が戦闘モードになる
向かってきた魔人にライアンが精霊魔法を
撃ってのけぞらせ、キースが盾を
上手く使って相手の攻撃をいなしながら
片手剣を突き出す。
ニックと剣士のジミーは魔人の背後から
片手剣で背中、腕に攻撃する。
(連携、いい感じね。)
(ああ。かなり上手くなってる。)
彼らの戦闘を見ながら念話で話をしていると
ニックの剣が魔人に止めを刺した。
「そうそう、今の感じを忘れないで。」
「今の調子だ。いいぞ。その調子でどんどん進むぞ」
レンとティエラの言葉に一行のモチベーションも
上がり、
「わかった。俺たちをもっと鍛えてくれ。」
パラディンのキースの言葉に他のメンバーも頷く。
その後も出会う魔人を倒しながら魔王城に向かって
荒野を進んでいく。休憩すると、僧侶と精霊士の
二人はすぐに魔力の調整の訓練をし他の3人も
今倒した魔人の攻撃について反省会をしている。
そんな5人を見てレンとティエラは念話で
(これならいいところまで行けるだろう)
(そうね。でも魔王の強さは私たちも
知らないから最後はどうなるのか
ちょっと不安)
(だからできるだけ能力を伸ばして
おいた方がいいよな)
(これでいいって終わりはないもんね
ギリギリまで鍛錬しながら行きましょ)
その後も数度の短い休憩を終え、
魔人を倒して荒野を進む一行の前に
魔王城の全景が見えてきた。
思わずその場に立ち止まって魔王城を
見る一行。
「これが魔王城。」
「あの一番上に魔王がいるんだな。」
「いよいよだ。」
口々に話す一行に、レンが、
「ここからが本番だ。中にいる魔人は
さらに強くなっていると思う。
気を抜かずに行こう。」
レンとティエラも実際の魔王城を
見るのはもちろん初めてで、彼らと一緒に
しばらく城を見上げていた。
「さて、行こうか。疲れているけど
魔王城まで一気にいくぞ。」
レンの声で全員攻撃態勢のまま
前進していく。
ここからはレンとティエラも
本格的に戦闘を開始し、出会う魔人を
次々と討伐していく。
勇者一行達も自分の仕事をわきまえて
1体を確実に早く倒す鍛錬をしながら
前を進む二人に続いて進んでいった。
「本気出したあの二人は桁違いに強いな。」
圧倒的な戦力差で雑魚を処理する様に
複数の魔人達を討伐しながら進んでいく
レンとティエラの後を続きながら魔王城を
目指す一行、二人がわざと後ろに流した
魔人を討伐しながらライアンが口にする。
「ああ。でも俺たちも強くなってるぞ、
遅れない様に続こう。」
ニックの声で一行も気合を入れて
魔人を討伐していく。
そうしてほぼノンストップで
荒野を進んだ夕刻、一行の目の前に
魔王城の入り口の門が見えてきた。
さらにギアを上げて前進していく
レンとティエラ。背後から見ていると
まるで無人の荒野を進むが如く
ランクSの複数の魔人達をあっという間に
討伐していく。
空から襲ってくるワイバーンも
彼らが火を吹く前に二人の精霊で
バタバタと地上に落ちていく。
そうして一行が門の入り口に着いた時には
先に着いていたティエラが
「この門を入ったところは安全地帯みたい。
周囲に敵はいないわ。」
そう聞いて門の中に入ったところで腰を
落とす勇者と一行。
「しっかり休んでおこう。ここからが本番だ。
中にいるのはランクSだけじゃなくSSもいるからな。
気を抜いたらやられるぞ。」
レンの言葉に頷きながら、
「いよいよ魔王城の中か…レンとティエラは
ダンジョンで魔王城の中の戦闘もシミュレーションで
やってきたのかい?」
パラディンのキースが水を飲みながら聞くと、
「ああ。一応はな。ただ、100%ダンジョンと
同じかどうかはわからないけどな。ダンジョンの
時の経験だと、ほとんど休む場所が無かった。
だから、今ここでしっかり休息を取っていた方が
良いと思う。」
「敵の本拠地で休める場所なんて無いのが
普通だよな。」
「その通り。」
勇者ニックの言葉に頷くレン。
その後食事の後は交代で仮眠を取り、
しっかりと疲れを取った一行。
翌日、荷物をまとめると、レンが
一行を見渡し、
「さて、魔王退治に行こうぜ。」
各自装備や薬品の点検を終えると
「例によって俺とティエラが先に行く。
適当に後ろに流した魔人を討伐してくれ。
チームワーク、連携をあげるのが目的だから
完璧になるまで魔王の部屋にはいかないからな。」
「わかった。」
一行を代表して勇者のニックが答える。
そうして二人を戦闘に魔王城の中に入っていく一行。
廊下の先に魔人が2体いるのを見つけ、
「ランクSSだが、ビビることないぞ。1体任せた。」
そう言うと無造作に近づいていき、精霊魔法で
1体を瞬殺するティエラ。
倒すと二人は一行の背後に回り、勇者とその一行が
残り1体の魔人と対峙することになった。
流れる様に強化魔法をかけていくペドロ、
ライアンの精霊魔法が魔人の顔にヒットすると同時に
ニックとジミーが駆け出し、パラディンのキースが
盾で背後の後衛二人を守る壁になる。
ガシッという音がして魔人の剣を受け止めると
右手の片手剣が魔人の足を突き刺す。
それと同じタイミングで背後からニックとジミーが
魔人の背中に切りつけていく。
「ニック、今の効いてるぞ。」
「ペトロ、キースに強化魔法の上書きを。」
戦闘しながらお互いに声を掛け合って討伐している
一行パーティを背後から見ている二人。
ランクSSの魔人を倒すとティエラが、
「よく声が出てたわよ。その調子で。」
「ランクSSでもチームとして倒せるだろう?」
ニックがレンを見ながら、
「行けるって気になってきてますよ。」
「そうそう。その気持ちが大事なんだ。
気持ちで負けたら勝てる相手にも勝てないからな。」