第15話
その日からレンとティエラは精力的に砦の
周囲の探索を行い、南から北上している
魔人や魔獣を討伐していく。
そうして3日が過ぎた昼過ぎに、砦の北側を
見張っていた冒険者から
「勇者一行がやってきたぞ!」
そうして暫くすると砦の門を入って勇者とその一行、
そして同行してきたミッドランドの冒険者達が
入ってきた。
「ここがミッドランドの南の砦かい?
こっから先は魔族が支配しちまってるんだよな。
魔族に領地を取られたミッドランドか。まぁ、
俺達がサクッと取り返してきてやるから安心しな。」
「そう言う事、やばい奴の退治は俺たちに
任しておけってことよ。」
砦に着くなり挨拶もお礼も言わずに
暴言を吐く一行のパラディンのキースと
剣士のジミー
周囲の冒険者や騎士達は怒りの目で一行を見ている。
すると、勇者のニックが
「ここからは案内無しってことかな?」
「いらないだろう? 一緒に来たって足手まといに
なるだけだぜ。俺たちでサクッと行っちまおうや。」
勇者の言葉に精霊士のキースが言うと
「いや、俺たちが同行する。」
レンとティエラが勇者とその一行の前に進み出た。
「お前達?しかも男と女の2人組み? おいおい、冗談も
いい加減にしてくれよ。ここから先は魔族の支配地だぜ、
街の周りのランクDのゴブリン退治とは訳が違うって。
デートなら城の中だけにしといてくれよ。」
剣士のジミーがレンとティエラを見て心底バカにした
表情と口調で言う。
周囲にいた冒険者達は口にこそ出さないが各自が
(こいつらレンとティエラを知らないのか)
(今のでレンとティエラ、キレたな)
そう思っていつレンとティエラが剣を抜くのかと
見ていると、ニックが二人を見ながら。
「ロチェスターの魔法剣士のレンとティエラかな?」
その言葉に驚いた勇者一行のメンバー。
彼らを無視して、レンは勇者を正面から見て、
「そうだ。俺がレン、それでこっちがティエラ。
ここから先は俺たちが同行する。」
「同行はいいけどよ、ずっと田舎に引き籠ってたって
話しじゃないの、腕が鈍ってるんじゃないの?
こっちは魔王を討伐するっていう使命があるんだぜ
足手まといはご免だぜ。」
ジミーがレンとティエラに言うと、
「足手まといかどうか、自分達で確かめてみたら?」
今にもキレそうな顔をしているティエラがジミーを
にらみつけて言うと、周囲の冒険者達がサッと離れていく
「おいおい、女が相手かよ。」
「女だって手加減は無用よ。こっちも手加減しないから。」
そう言って鞘から片手剣を抜くティエラ。
「ティエラが本気だしたらあいつ、一発で死んじまうぜ」
周囲に散った冒険者の声が聞こえたのか、剣を構えながら
「女だからって調子に乗るんじゃねぇぞ、本気で
ぶちのめしてやる。」
そう言うや否や、ジミーが片手剣を構えてティエラに突っ込んでいく。
(何これ?これが勇者の加護?遅すぎる)
向かってきたジミーの片手剣を余裕をもって躱すと、
そのまま下から突き上げたティエラの剣がジミーの剣を叩き飛ばした。
ジミーとティエラの決闘を見ていたレンも、
(想像以上に弱い。弱すぎる)
剣を飛ばされたジミーは自分が突っ込んでいったかと思うと
剣を弾き飛ばされ、一体何が起こったのかわからなかった様で
「どうなってんだよ? 俺の剣はどうなったんだよ。」
「あそこだ。」
レンが指さす方向に弾き飛ばされた剣が落ちている。
シーンと静まり返っている広場の中央で
「情けない程弱いな。それじゃあ魔王城どころか魔族領すら
行けないぜ。」
あえて相手を挑発する様に言うレン。続けて、
「それで魔王退治なんかできると本気で思ってるのか?」
「今度は俺だ」
パラディンのキースが盾を構えたのを見ると、
「やめとけ、手首が折れるぞ。」
「ぬかせ。来いや。」
そう言った瞬間にレンの手が動いたと思うと
キースの身体が背後に吹っ飛んでいき、冒険者達の
群衆の中に突っ込んでいった。
無様に倒れながら呆然としているキース
周囲の冒険者達も
「いつレンが剣を抜いたんだよ。見えなかったぞ。」
「俺もだ。気づいたらキースがぶっ飛んできた。」
口々に言っている。その中をキースに近づいて、
「今ので俺の約20%程度の力だ。それでこの様だ。
お前も弱いな。」
剣士とパラディンを瞬殺されて流石に他の勇者一行も
口を開くことができずに呆然と立っている。
すると勇者のニックが、
「お願いします。我々に同行しながら鍛えてください。
魔王を倒すためにもっと強くなりたいんです。」
ニックを見て
「わかった。出発は明日朝だ。それまで
しっかり休んでおけ。」
そう短く言うとレンとティエラが広場から消えていった。
残された勇者とその一行は指揮官より部屋を与えられた。
部屋に入ってもだれも口を開けずに俯いて座っていた。
暫くしてニックが、
「やっぱりあの2人は強い。僕たちはまだまだなんだな。」
その言葉をきっかけに精霊士のライアンが、
「あの二人の剣さばき、俺には見えなかった。」
「俺もだ。」
僧侶のペドロが続ける。
「…ロチェスターの奴らが言っていた事、本当だったんだな。
あいつら、バケモンだ。」
キースが絞り出す様に言葉を発する。
レンとティエラは何もなかった様に砦の見張り塔で
南の方角を探索スキルで探っていた。
そして翌朝、砦の冒険者と騎士達に見送られて
レンとティエラ、勇者とその一行が砦を出て
南に向かって行った。
南に歩いてしばらくすると二人の探索スキルに
ランクSの魔人が2体引っかかった。
立ち止まって背後にいる勇者一行に
「5km先にランクSの魔人が2体いる。その内1体は
俺たちで片付けるからランクS1体、やってみてくれよ。」
「えっ、5Km先まで探索できるのか?」
キースがびっくりしてレンに言うと
「俺もティエラももうちょっと先まで探索できるぜ。
それよりどうするんだ? やるのか? やらないのか?」
「わかった。やらせてください。」
ニックが答え、他メンバーが戦闘準備をする
それをじっと見ている2人。何も言わずに
そのまま歩いていると魔人2体が見えてきた。
ティエラが遠隔で精霊魔王を撃つと、1発で
魔人が絶命して倒れこんでしまう。
「な、何だと?あの距離で魔法1発でランクSを
倒しただと?しかも無詠唱で。」
驚いている精霊士のライアンに、
「ほらっ、驚いている間はないぞ、
1体こちらに向かってきてるぞ。」
残った1体が斧を構えてこちらに突進してくる。
レンとティエラは一行の背後に移動すると
パラディンのキースが魔人の攻撃を
受け止めた…と思いきやそのままずるずる
押されて後退していく。
「こ、これがランクSか。強い。」
キースがぶつかった直後にジミーと
勇者のニックがその背後から魔人に切りかかっていく。
ニックは剣を振る度に魔人の背中に傷をつけていて
魔人が叫び声を上げているが、ジミーの剣は
殆ど効いてない様で、削りの速度が遅い。
精霊士のライアンが魔法を撃つもレジストされていて
唯一僧侶のペドロが前衛職に必死にヒールを
かけ続けている。
戦闘が始まって5分ちょっとしてようやく魔人の
動きが遅くなり、最後に勇者ニックの剣が魔人の
首の下に突き刺さってそれが致命傷となって
魔人が絶命した。
地面に倒れこんだ魔人の周囲でぜいぜいと息を
している勇者一行。
「ランクAとランクSはこうも違うのか。」
黙って戦闘を見ていたレンが徐に口を開いて、
「ランクS1体にこれだけ時間掛かってたら
とてもじゃないが魔族領は歩けないぞ。」
「僕たちに力が無いのは分っています。
でもどうしたらいいんでしょう?」
勇者のニックがレンとティエラに話しかける。
話かけられた2人は顔を見合わせてから、
「勇者の加護だけで戦っていて基本ができてない。」
「せっかくのパーティなのに皆バラバラね。」
「ペドロ」
レンが僧侶に声をかけ、
「敵を見つけたらまず勇者、パラディン、剣士の順に
強化魔法をかけるんだ。掛けたらヒール待機。
MPは決してケチるな。MPが足りなくなりそうなら
MPポーションを惜しげもなく飲むんだ。
僧侶のサポートが無いと倒せないぞ。」
「わかった。」
「次はライアン」
こちらを向いたライアンにはティエラが、
「精霊魔法1発当たらなかったからって諦めちゃだめ。
何度も打つの。敵が構えたらその手首や顔を狙って
とにかく打ち続けないとダメ。それで少しでも
敵の攻撃が遅れたら、それだでこちらに倒すチャンスが
増えるのよ。」
「なるほど。了解。」
「ジミーは今の剣の力じゃ殆どランクSにダメージは
与えられないぞ、その場合には脚を狙って少しでも敵の
動きを遅くするとか、勇者が傷をつけた場所を狙って
傷口を広げるとか、そう言う剣の使い方をするんだ。」
黙って頷く剣士のジミー
「キースはただ盾で受けてるだけじゃだめ。
右手に持ってる片手剣はお飾りじゃないんでしょ?
盾を左手に持って、右手で目の前の敵を突くのよ。
切るんじゃなくて突く。
それと、盾の使い方をもっと覚えて、
真正面から受け止めるだけじゃなくて、攻撃を
いなすの。
こうやって 相手の力を受け流す感じで盾を使うと
相手の体勢が崩れるから、そうしたらまたチャンスができる。
盾で敵の攻撃をいなしながら剣で突くことを覚えて。」
ティエラの話を聞きながら左手に持っている盾を
受け流す様に動かすキース。
「そうそう。そんな感じ。」
そしてレンが勇者を見て、
「ニックは一撃が大きすぎる。もっと剣の振り幅を小さくして
回数を増やすんだ。大げさな動作の攻撃は見た目は派手だが、
敵にダメージを与えるには、鋭い剣裁きで回数を増やした方が
ずっと効果的だ。」
「分かった。大振りじゃなくてコンパクトに…だな。」
「そうだ。今度魔人がいたら今言ったことをやってみてくれ。」
戦闘が終わってとりあえず気づいた点を指示する2人。
そうして再び南下していくと、
「前方に魔人3体、ランクS。2体は俺たちでやるから残り1体、
さっきのやり方でやってみてくれ。」
「「わかった」」
勇者とその一行も昨日と先ほどの戦闘で自分達と
レンとティエラとの圧倒的な戦闘能力の差を理解したのか、
素直になっている。
近づいてきた3体の魔人、その左右の魔人をレンとティエラで
精霊1発で倒す。 残りの1体が剣を持って近づいてきたところで
僧侶のペドロが前衛職の3人に強化魔法をかけて、ライアンは
魔法の射程距離に入ったところで精霊魔法を撃つ。
そうしてキースが前に出て、魔人の攻撃を盾で受け流し、
そのまま片手剣を突き出して戦闘が始まった。
勇者と剣士は並んで背後から一か所を集中的に攻撃し
精霊魔法が魔人の顔や手首に飛んでいく
僧侶が上手くヒールをパラディンにかけたので
しっかり魔人を受け止め、先ほどよりも短時間で魔人を
倒し切った。
「今の感じだ。」
「うん。よかったわよ。慣れたらまだ早く倒せるかも。」
その後も出会う魔人1体を勇者一行が討伐しながら進み、
日が暮れて野営となった。