第13話
地上に戻り、ウッドウォードの自宅に
帰ってきた二人、夕食を取りながら
「あの後もう一度考えたけど、
やっぱりレンの言う通りにした方がいいね。」
「ティエラも分ってくれるかい?」
「うん。この大陸に住んでいる多くの
普通の人達って勇者にすごく期待しているって
わかったもの。」
「俺たちは黒子で十分。一行を護衛しながら
彼らが無駄死にしない様してやりたいんだ。」
「そうね。ここまで加護を貰ってる事自体が
過分な事だし、それをこういう時に還元しないと。
手柄とかいらないしね。」
「そういうこと。」
二人のやりとりを洞窟の奥で見ていた神獣達。
『本当にぶれないな、あの二人は。』
『過去にここまで私達の加護を他人のために
使ってきた人はいたかしら?』
『どうじゃ。改めてわしの目が
節穴じゃないってことがわかっただろう?』
『ふふ。この二人についてはフェンリルの
功績じゃ。良い人間を見つけ出してくれたものだ。』
「それで具体的にはどうするの?」
食事を終えてリビングで寛ぎながらティエラが聞くと、
「ミッドランドは南部が魔族支配地域になっている。
その南部で魔族の北上を止めている街か砦があるはずだから
そこで勇者一行と合流して南下する。」
「ミッドランドを出たらギルマスが私達に
教えてくれることになってるから、それから南部に飛んで
一行を待つって感じかな?」
「そうだな。そんな流れになると思う。
そして一行と一緒に移動しながら、彼らの能力を
できるだけ上げられればと思ってる。」
「わかった。」
その翌日以降はいつもの通り鍛錬して
大陸内を移動して魔族討伐をする二人。
もやもやしていた気分がすっきりしたのか
この日のレンは身体の動きも軽く、剣のキレ味、
魔法の威力も今までより増している。
「今日のレンは凄いね。いつもよりキレが
あるじゃない。」
多数の魔獣を倒して剣を鞘に納めながらティエラが言う。
「ああ。もやもやしていたのがなくなって、
気持ちがすっきりしたからかな。自分でも
身体が軽くなってるのがわかるよ。ティエラも
自分では気づいてないかもしれないけど、
剣筋はいつもより鋭かったぜ。」
「なんとなく分かってた。レンと一緒で
気持ちがすっきりしたからかな。」
「これでこの辺りの魔獣、魔人は一掃できた。
当分安心だろう。」
二人は最後にもう一度周囲を見て、全滅を確認すると
ベルグードに飛んだ。
最近は国内のあちこちを移動し、それが終わると
ウッドウォードの自宅に戻ることが多かったので
久しぶりのベルグードで、ティエラはレンに寄り添って
商業区の大通りをゆっくり歩いていく。
「あらっ、ティエラさん久しぶりだねぇ。
今日も魔獣退治かい? ご苦労様だね。」
屋台のおばさんが声をかけてきて、そして
2人に串カツを渡し、
「ほらっ、レンと二人分、サービスで上げるから
それ食って元気出して、また外で魔獣を
やっつけておくれよ。」
「ありがとう。」
通りを歩くとあちこちから声を掛けられ、サービスで
貰ったものを口にしながらギルドの建物に入っていく。
「よう。今日はどこに行ってたんだい?」
ギルドに入ると、顔見知りの冒険者から声を掛けられる。
「西のタスコの南の森でランクAの魔獣を倒してきた。
結構倒したから当分安全だろう。」
「そりゃよかった。丁度昨日、ナスコに向けて馬車が
出たところなんだよ、護衛は付いているが、それでも
心配だったんだよな。」
「そうなんだ。結構倒しておいたけど、事故がなく
無事にナスコに着くといいね。」
「まったくだ。」
ギルド受付の前でそんな話をしているとカウンターの
奥からギルマスのアレンが顔を出して、
「こっちに来てたのか。チラっと聞こえてきたけど
ナスコの南の森の魔獣を討伐してきたんだって?」
「ええ。ランクAの雑魚ばかりでしたけどね。
数が多かったので、これでしばらくは安全かと。」
ティエラの答えに
「ランクAの雑魚ばかりか…お前達二人に
かかったら魔族も雑魚ばかりだな。」
この二人の強さを知っているギルマスは
苦笑しながら言う。
「それでベルグードに顔を出したのは
何か特別な理由があるのか?」
「いや、こっちの冒険者と魔獣討伐の情報交換を
しようと思って。それでこっちの手が回らない所を
ティエラと二人で重点的に回ろうと思ってさ。」
「なるほど。情報交換した方がお前達も
効率的に動けるしな。」
「そういう事です。」
ベルグードの冒険者ギルド、その受付横にある
椅子に座ってギルマスと話をしていると
そこに冒険者達が集まってきた。
ベルグードを中心に、その周辺の瘴気溜まりや
近郊の村に応援に出ている冒険者達と情報交換を
していく。彼らからも、
「南の砦はどんな具合だ?持ちこたえられそうか?」
「今のままなら何とか持つだろうけど、
魔族の出方が見えないから、出来ればもう少し
戦力があるといいかも。」
「なるほど。ギルドで再度募集をかけてみる。」
ティエラの話しにギルマスが即答する。
「ここやウッドウォードの周辺はどうだい?
変わりないか?」
レンの質問には、定期的に瘴気溜まりを
巡回している冒険者から
「辺境領南部に比べたらまだマシだな。
このあたりは魔族領からの進軍はなくて、
魔獣、魔人は瘴気溜まりから湧き出ているのだけだから
管理、討伐がしやすい。ウッドウォードのギルドの
冒険者のまとめ役になっているエバンスの
パーティとは定期的に情報交換して瘴気溜まりの
管理漏れがない様にしている。」
「なるほど。じゃあこっちはとりあえずは
問題なさそうだな。」
「となると、私たちは今まで通り
辺境領南部を中心に巡回して、あとは
ナスコの南、王都の北西を定期的に
巡回しつつ、物資の補給をして、
あとはミッドランド南部の魔獣の
討伐かな?」
「それでいいと思う。緊急事態が発生したら
ここかウッドウォードのギルマスに伝言を
しておくよ。」
冒険者の言葉にギルマスが頷く。
月に数度、こうして現状の状況の意見を
交換することにより、無駄な動きを
減らし、効率的に魔族の討伐が出来ている。
打ち合わせが終わると二人はウッドウォードに
飛んで、今のベルグードでの打ち合わせ内容を
ここのギルマスに報告する。
ギルマスのアンドリューは二人の話を聞き、
「わかった。こっちもそれで問題ない。
今のところ瘴気溜まりの管理も上手くいってるし、
レンとティエラには今まで通り、辺境領南部での
魔族の間引きをしてもらうとありがたい。
そうすることによって北上する魔族の数が
減ると、南の砦も他の街も安心だからな。」
二人頷いてから、レンが、
「ところで勇者一行はまだアルゴナ公国の領内かい?」
「ああ。アルゴナの首都の番ドールを出て
今は南におりてミッドランドに向かっている筈だ。」
「となるとミッドランドの王都につくのが
2週間後くらいか。」
「そうなるな。レン達が勇者一行の実力を見る
ミッドランド中部に着くのは3、4週間後位じゃないか?」
アンドリューの言葉に頷く二人。二人が勇者一行の
護衛としてミッドランド中部から行動を共にすることは
神獣以外誰も知らなくて、二人もこれについては
誰にも話しをしていない。
「ミッドランドの中部から南にかけては
魔族が侵略していて日々戦闘が行われていると
聞いている。勇者一行の腕前を見るには
ちょうどいい場所じゃないか。」
続けて言うアンドリューに
「そうだな。」
と短い返事をするレン。続けてティエラが
「それまで私達はやるべきことをやっておきますね。」
「よろしく頼む。」
ギルドを出て、ウッドウォードの自宅に戻った二人。
「3週間後くらいからミッドランド南部の砦で
彼らを待っているのが良さそうだな。」
「具体的にどう提案するの?」
レンの顔を覗き込む様にしてティエラが聞いてくる。
「ミッドランドの中部から南は既に魔族の支配地域だ。
そんな場所に護衛で行く冒険者なんていないだろう?
俺たちが護衛兼案内係ってことで同行するつもり。」
「確かに南に行きたがる護衛の冒険者は居ないでしょうね。
それがミッドランドなら特に。」
レンのアイデアに頷いて同意するティエラ
それからは魔王城に挑む為の鍛錬としてで、
二人は南のダンジョンの79階に何度も挑んでいく。
79階はフェンリルが設定した魔獣、魔人が配置されおり、
それらのランクは今では全てトリプルS以上で、
SSSSクラスもうじゃうじゃといる。
その中を2人は連携を取りながら倒してはフロアを
進んでいく。
一つ間違えば逆にやられるという状況下でも冷静に
周囲を見て、確実に討伐して進んでいく2人。
80階に降りる階段にたどり着くと
「2時間弱か。まぁまぁのタイムだよな。」
「そうね。コンスタントに2時間切れてるし、
いい感じじゃない?」
そう言って最近のルーティンになってる80階での
フェンリルとの迎合。
『安定しておるの。』
ボス部屋の奥にいたフェンリルが入ってきた2人を
見て言う。
『地上では存在しないSSSSクラスの魔人でも
もう問題ないではないか。』
「気は抜けませんけどね。でもかなり慣れてきました。」
ティエラの言葉に頷くフェンリル。
『加護の使い方も見事じゃ。完全に自分たちの物に
しておる。これなら魔王の前までは問題なく行けるじゃろう。』
「フェンリルにそう言ってもらえると自信になるよ。」
レンの言葉に、
『もはや地上ではお主ら2人以上の力を持っている奴は
おらんだろう。とは言え油断は禁物。
魔王城には心して出向くがよい。』
その言葉に頭を下げる2人。
『その時は近づいてきておる。我ら神獣からお主達に
教えるものはもう何もない。自らを信じて事に当たるが
よかろう。』
フェンリルをはじめ、神獣達はずっとこの2人の
成長を見てきた。そして少しずつ2人に加護を与え、
その加護をどう使うか見てきた。
私利私欲に使わず、常に周囲に気を使い
威張らず、華美な生活もせず与えられた加護を
人々の安全な暮らしに使ってきた目の前の二人。
その姿にフェンリルのみならず、リヴァイアサン、
イフリート、そして地上の神獣のまとめ役になっている
シヴァですら気が付けばこの2人の大ファンになっていた。
与えられることができる最大限の加護を与えたのは
この2人が初めてであるが、彼らの生きざまをじっと
見てきた神獣達にとっては全てを与えるリスクは
ほぼゼロになり、むしろ積極的に二人をフォロー
するまでになっていた。
「この前は我儘を言ってすまなかった。
でも、気持ちはあの時と変わってない。
勇者をサポートするために神獣達から授かった加護、
能力を使わさせて貰うつもりだ。」
レンの言葉にうんうんと頷くフェンリル。
『期待しておるぞ。』
と短く言うといつもの魔法陣が部屋の隅に現れた。
「またお邪魔します。」
『お主たちならいつでも歓迎だ。遠慮なく
顔を出すがよい。』
ティエラの言葉に答えるフェンリルの声を聞きながら
2人は地上に戻っていった。