第12話
砦に戻ると、指揮官の部屋で
「魔人5体は斥候部隊だった。その後ろから
本隊がやってきたので討伐しておいたよ。」
言いながらテーブルの上に次々と魔石を
取り出していく。
それを見ながら
「相変わらず規格外だな。それにしても
全部で55個か、55体の魔人、魔族も
レンとティエラにかかったら雑魚扱いとはな。」
テーブルの上に置かれたランクSの魔石を
見ながら指揮官が感嘆して言う。
同じ部屋にいるランクAの冒険者達も
「わかってるとはいえ、凄まじいな。
2人で55体か。しかも出かけてから
時間経ってないし。」
「ランクSが雑魚扱いなんて、お前さん達以外は
到底無理だぜ。」
「俺たちもいつもいる訳じゃないけどな。
この場所の重要性は理解してるし、
週に最低1度は顔を出す様にするよ。」
「他の場所の様子はどうなんだ?」
指揮官の質問には、
「瘴気溜まりから湧く魔獣についてはランクAの
冒険者達で対等出来ていますね。
幸いにロチェスター国内ではまだ街や村で
魔族に落とされたところはない様です。
ただ、街と街とを繋いでいる道路については
魔獣の出没が多くなっているので
一部の街への物資の輸送に支障が出始めていますね。」
ティエラが説明する。
「道路の安全の確保か。大変だな。」
「幹線道路はまだ安全です。
騎士さんも、冒険者も巡回警備をしてますからね。
問題は幹線道路から離れた街との道路の安全確保です。
今のところは何とか頑張って安全を確保してるって
感じですけど、これ以上魔獣の進軍が大きくなると
厳しくなるかもしれません。」
「それぞれの街にいる冒険者が道路近くの瘴気溜まり
を監視して対処しているとは言えそれも限界が
あるからな。まぁ、可能な限りやばそうな場所には
俺とティエラで出向いて掃除する様にはしているが。」
ティエラに続いてレンが話をする。
「いずれにしても、そっちは俺たちができるだけ
処理するから、この砦はがっちり守ってくれよ。」
「よろしくお願いします。」
レンとティエラが頭を下げると、
「いやいや、こっちこそよろしく頼む。
砦は任せてくれ。補給物資もまだまだ十分あるし
ここに来る魔族の連中は全部ここで食い止めて1体たりとも
北上はさせないからな。」
騎士の指揮官との話しを終えて砦を出た二人。
「皆大変ね。」
「それぞれの場所で頑張ってるよな。」
そう言ってそのまま南のダンジョンに飛ぶ二人。
ダンジョンの79階に降りると、鞘から片手剣を抜き、
「さて、行くか。」
身体が鈍らない様に定期的にこの79階で、
地上には存在しないランクトリプルSクラス、そして
それ以上のランクの魔人を相手に鍛錬する二人。
最初の頃は79階の踏破に5時間程掛かっていたが、
LV90を超えたころから攻略時間はどんどん短くなっていた。
出てくる魔獣のレベルが相当上がっているにも関わらず
彼らの討伐時間が短くなっているということは
取りも直さず二人の能力が更に上がっているということで、
今回も2時間弱で79階の魔人を全て倒し切った。
そして2人はLV93になった。
そのまま80階へ降りていき、ボス部屋へと通じる
ドアのレバーを引き、部屋にはいると、
そこにはこのダンジョンの主であるフェンリルと、
いつものシヴァ、リヴァイアサン、イフリートが
2人をずっと待っていたかの様に部屋の奥にたたずんでいる。
神獣に頭を下げ、近づいていく二人。
『ますます攻略の時間が短くなってるの。
こりゃ魔人のレベルをもう1段上げないと
鍛錬にはならないかもしれぬな。しかも
またレベルが1つ上がったか。精進の
賜物だな。』
ダンジョンの主のフェンリルが二人を見て言う。
「これも神獣さん達が協力してくれたおかげです。」
ティエラが丁寧にお礼を言うと、
『いや。お主達が日々真面目に鍛錬をしている
賜物じゃ。レベルが上がっても慢心せずに
鍛錬を続けていたからより強くなったのだ。』
『イフリートの言う通りよ。』
シヴァが同意し、
『地上の魔族の動きが活発になっているけど、
貴方達は時間があると大陸中飛び回って災いの芽を
摘んでくれているわね。神獣からも礼を言うわ。』
フェンリルが後を続けて、
『我らが動けない分、お主達には負担を
かけておるかもしれぬが、もうしばらく頑張ってくれ。』
レンはフェンリルを見ながら、
「おそらく後3〜4ヶ月。勇者が魔王城に到達するまでは
気を抜かずに頑張るよ。」
「そして勇者が魔王と倒してくれたらそれで良し。
万が一の時はレンと二人で討伐に行ってきます。」
その言葉に頷く神獣達。
様々な偶然が重なり、いや偶然というか運命というか、
それとも必然か…
辺境領の田舎の一冒険者であった目の前の二人が
この世界の最後の切り札になっている。
フェンリルがその才を見つけ、リヴァイアサン、そして
シヴァの加護で大きく開花し、イフリートの加護で
さらに高みに上り詰めていった二人。
地上ではもはや敵なしとなった今でも日々鍛錬をし、
誰にでも公平に接し、奢らず、華美な生活とも無縁で
冒険者初心者の頃と変わらない生活を送っている
この二人が神獣達はみな大好きであった。
「一つ聞いていいかな?」
レンが言い、神獣が頷くと、
「魔王の実力については教えてもらった。
今回の魔王はいつもより強いと。
では、勇者一行はどうなんだ? 過去の勇者一行と
今回の勇者一行と比較して。」
『そうね。勇者が誕生した時に貴方達には
今回の勇者は可もなく不可もないと言ったわね。』
シヴァの言葉に頷く二人。
『それからいくつか戦闘を経験して、今は
勇者は誕生時より強くなっていると言えるわね。
経験が彼の力になっているのがわかる。
でもじゃあ魔王を倒せるかと聞かれれば
残念ながら、絶対に大丈夫とは言えないのよ。
勇者よりもお付きの人達、
勇者の加護を得ている仲間達に問題があるわ。』
「と言うと?」
『これは今回に限らずだが、勇者の加護を得た
冒険者は実力を勘違いしがちなのじゃ。
勇者の加護で強くなったとは言え、
元の実力が低ければ伸びしろは限られる。
今回の勇者一行の連中は、加護を貰っての後に
精進して自分の力量をあげる様な鍛錬もせずに
加護の力だけで戦っておるの。
それだと伸びしろの限界があるのじゃ。」
フェンリルがシヴァに続いて話をする。
『ある程度までは問題なく倒せるだろう。
だが、ある程度以上には全く歯が立たないであろう。』
「そのある程度以上というのは?」
ティエラの問いかけには、
『魔王城の中の魔王のいる部屋まで
果たして何人たどり着けるか…。』
リヴァイアサンとイフリートが
フェンリルの言葉をフォローする。
「やはり、そうなのか。」
『レンは知っていたのか?』
イフリートの問いかけに、
「知っていたというか聞いていた。
王都に行った時に、そこのギルマスと話しをした。
勇者一行を護衛した王都のギルドの冒険者の
話しでは、勇者はランクSSプラスのクラス、
勇者一行はランクS、せいぜいランクSプラス
クラスじゃないかという話をしていた。」
『そうなると、レンとティエラに確実に
お願いする事になると思うけど、それは
どうなの?』
「もちろん、ティエラも俺も覚悟は
出来ている。」
「それが神獣の加護を頂いている
私達の使命だと思っています。」
レンに続いてティエラも言う。
じっとレンを見ていたリヴァイアサンが
『レン、何か言いたいことがありそうだな。』
レンは、リヴァイアサンを見、それから
他の神獣達を見て
「俺たちの使命はわかっているし、それを
する心づもりも出来ている。
でも、やっぱり魔王は勇者が倒すべきだと
俺は思うんだ。」
そこで一旦言葉を切り、再び口を開くレン
神獣達は黙ってレンの次の言葉を待っている。
「勇者と勇者一行のレベル、これは
あくまで人伝に聞いた話しだが、本当に
それくらいのレベルだとすると、
リヴァイアサンやイフリートの言う通り、
魔王の前にたどり着く前のは勇者だけに
なるかもしれない。
いくら勇者が優秀とは言え、一人で魔王を
倒せるとは思えない。でも、
それでも勇者が魔王を倒すべきなんだ。」
「レン、それってどう言うこと?」
思わずティエラが口を挟む。
「勇者一行が全滅してから俺たちが
魔王を倒しに行くんじゃなくて
俺たちが勇者を護衛していくのが
いいんじゃないかと思ってる。」
「それって…勇者一行と一緒に
魔族領に入って魔王城の魔王討伐に
向かうってこと?」
「その通り。ただし俺たちが護衛するのは
魔王の前までだ。魔王との戦闘は
勇者と勇者一行に任せて俺たちは
手を出さない。」
『レン、どうしてそう思ったの?』
シヴァが興味ありそうな目でレンに聞く。
「代々の魔王は勇者が倒してきた。
その歴史は変えちゃいけないと思うんだ。
勇者が魔王を倒せなかったという事実が残ると、
今後、人々は勇者に期待しなくなる。
代々勇者が魔王を倒してきたからこそ、
大陸の国中は勇者が魔王を倒すまで
皆が協力し魔族に立ち向かっていけるんだ。
勇者は人々の希望で、魔王を倒せる唯一の人間だと
皆が信じているからだ。」
そこで一旦言葉を切って、神獣達を見ると、
再び口を開く。
「魔王が誕生して魔族の襲撃が
激しくなってきてから俺たちは
あちこちの村や街に行ってきた。
するとわかったんだ。全ての村や街の人は
勇者が魔王を倒すと信じてるってことを。
信じているから今の不自由な状況も
受け入れているんだ。
勇者が魔王を倒すまでの辛抱だってね。
だから、今回も魔王を倒すのは
勇者であるべきだと俺は思うし、その為に
俺とティエラが一行を護衛して魔王の前まで
連れて行くのも使命だと思っている。」
『そうやってレンとティエラが魔王の前まで
勇者とその一行を護衛して、その戦闘で
勇者が倒れたら?』
「その時はその場で俺とティエラで
魔王を倒す。でもそれでも魔王を
倒したのは勇者とその一行だと言うべきだと
俺は思う。」
今まで頭の中でモヤモヤとしていたものを
口にすると、すっきりしたのか
晴々とした表情で神獣に説明していくレン。
『ティエラはどう?』
振られたティエラは、少し考えてから
「レンが今言って気がついたけど、
魔王が誕生してからあちこちの街や村に
魔獣や魔人退治に出向いた時、多くの人達に
勇者が魔王を倒すまで頑張ってね。
って言われました。
確かに勇者というのは人々の希望の星に
なっています。なのでレンの言う通りだと
私も思います。」
レンとティエラの話を聞いた4体の神獣達は
お互いに顔を見合わせている。恐らく
念話で話をしているのだろう。
しばらくするとシヴァが二人を見ながら、
『わかったわ。レンとティエラの好きになさい。
私達は貴方達に加護を与えた。
それをどう使うかは貴方達次第。
勇者を護衛し、魔王を討伐するサポートを
してきなさい。
ただし、魔王は必ず倒さなければならない敵。
そこは忘れないでね。』
大きく頷く二人。
「我儘を言って済まない。
神獣達との使命は忘れた訳じゃないので。」
やさしい目でレンを見ながら、
『気にしなくていいのよ。
決めたからにはそれを完遂してきなさい。
私達も応援してるから。』
二人が最下層のフェンリルのボス部屋から
魔法陣で地上にあがっていなくなると、
『ふふふ。あの二人は我々の想像以上じゃないか。』
イフリート
『確かに想像以上の人間だ。まさかここまで
崇高な人間がいるとはな。』
リヴァイアサン
『わしの目、節穴ではないだろう? それにしても
確かに想像以上の2人ではあるな。』
フェンリル
そしてシヴァが
『あの二人にとっては地位や名誉、名声という
普通の人間が欲する欲望は些細な事なのよ。
私達が与えた加護、どうすればその加護を最も
有効に使えるか、それしか考えてないわ。
人間の中にも彼らの様な純粋な人がいるって
知ったのは新鮮な感覚ね。
フェンリルはいい人を見つけてくれたわね。』
4体の神獣は2人が去っていった魔法陣を
見ながらいつまでもその場で話をしていた。




