第7話
勇者一行がロチェスターの王都を出て次の訪問地の
アルゴナ公国のバンドールに向かった頃、
レンとティエラの二人はいつものルーティーンを
こなしていた。
自宅での鍛錬を終えると、ウッドウォードの
ギルドに顔を出し、
それから今度はベルグードに移動して
そこのギルドに顔を出して魔族との攻防の状況を聞き、
必要があれば応援に出向く、
急ぎでの必要がない場合には二人で
テレポリングでロチェスターや
ミッドランドの南部に飛んで魔族の間引きをしていた。
「この前結構倒したからしばらくは
大きな集団にはなりそうもないわね。」
ティエラが3体いた魔人の最後の1体を
倒して言うと、
「そうだな。数体程度ならランクAの冒険者が
10名程いれば対応できるだろう。」
倒した魔人から魔石を取り出すとテレポで
ウッドウォードに戻っていった。
ギルドに顔を出すと丁度ギルマスのアンドリューが
奥から出てきていて、二人を見て手をあげて、
「よぉ、今日も南の方に行ってきてくれたのか?」
「ええ。この前、それなりに南の魔族を
間引きしておいたので、今日行って見てきたけど
大きな集団にはなってなかったですよ。」
ティエラが答えると、
「当分は安心か。それにしてもお前達が
いてくれて本当に助かるよ。」
ほっとした表情でギルマスが言う。
「瘴気溜まりの方はどうなってる?」
レンが問うと、
「相変わらずだな。定期的に湧き出してる。
冒険者達が交代で瘴気溜まりに張り込んで
魔獣や魔人が湧くたびに即倒してくれてるよ。
湧き出てすぐは奴らもボーっとしているのか
それほど脅威でもないからな。」
瘴気溜まりから湧き出た魔獣、魔人は
その直後は何もせずに突っ立っているのが多く、
そのタイミングであれば上位の敵であっても
倒す事ができるという事がギルドから発表されている。
従い、冒険者の中には上位の敵を倒せる
数少ないチャンスである瘴気溜まりの
見張りをしている者が多い。
上位を倒せばたとえ複数人での討伐であっても
得られる経験値が多く、自身のレベルアップに有利だからだ。
ベルグードの冒険者ギルドの中は相変わらず
にぎやかで、人が出たり入ったりしている。
その冒険者達がレンとティエラを見ると、
手を上げて挨拶したり言葉を交わしたりする。
「ティエラ、南はどんな感じ?」
「いることはいるけど、レンと二人で
間引きしてるから、当分は大きな集団に
はならないと思うよ。」
「ティエラとレンに任せておけば安心ね。
こっちは街の周辺の瘴気溜まりの管理に
専念できるわね。」
「そういうこと。」
冒険者は年上であろうがタメ口で話すのが
当たり前になっていてレンとティエラもそれに
慣れているので何の違和感も覚えずに
会話をしている。
冒険者と最近の情報を交換してギルドを
出た二人。
「ちょっと王都に行ってみるか。それから
北西の火山の麓の山の様子を見てみないか?」
レンの提案に 「そうしましょう」と
同意したティエラ。
二人は街を出るとテレポリングで王都に飛んでいった。
「よう。久しぶりだな。」
王都のギルドに入ってギルマスを頼むと、
すぐに奥からギルマスのシールが顔を出してきた。
シールは以前ランクBの時に、まだレンの
レベルが40台後半だった頃にベルグードで
勝負を挑んで打ち負かされたが、その後は改心し、
上位転生をしてランクAになってそこで冒険者を終え
今は前任のオースティンの後を継いで
王都のギルドマスターをしている。
冒険者時代から王都のギルドでは
冒険者のリーダー的存在であった為、
彼がギルマスになる時には大きな反対はなく、
むしろ冒険者からはシールがギルマスに
なることに大きな賛同を得ていた。
そのせいもあろうか、王都のギルドは
辺境のベルグードや新しいギルドで頭角を
表しているウッドウォードに並んでまとまりの
良いギルドという評価を国内で得ている。
レンとティエラと握手をしてから奥の応接に
案内するシール。席に座るなり、
「ギルマスがすっかり板についてきたじゃないか。」
「うん、似合ってる、似合ってる。」
二人に茶化されて顔の前で手を振りながら、
「よしてくれよ。今でも毎日覚えることが多くて
大変なんだぜ。それに魔王復活だろう?もう毎日
てんやわんやだ。」
「王都周辺の様子はどうだい?」
レンが問う。
「南の辺境領程じゃないとは思うが、それでも
瘴気溜まりから定期的にランクAの魔獣、時々魔人が
湧き出している。王国のギルドで瘴気溜まりを
管理しているので、こっちのランクAの奴らが複数で
瘴気溜まりに張り付いて討伐してる。」
「どこでも状況は同じか。」
「こっちは集団で街を襲ってきたりはしてるの?」
ティエラがシールを見て言うと、
「幸に今までそういう話しは聞いてない。
まぁこれからはわからないけどな。
「北西の火山のふもとの村の辺りはどうなってる?」
とイフリートのいる火山の麓についてシールに聞くと、
少し間をおいて
「なんとかもってるって感じだな。あの村は最初に
城壁を強化したので村の中にいる限りは安全なんだが、
王都からあの村に向かう道路は魔獣の発生回数が増えたので
物資を運ぶ回数が減ってきている。
もちろん、冒険者や騎士も常駐してるし、物資だって回数は
減ったものの一応届けてるしな。今の状態が続く限りは
大丈夫だろうと見てる。」
「じゃあこれから私達が補給物資を
持っていってあげようか?」
「ついでに魔族も間引きしておくよ。」
ティエラが言い、続いてレンがシールに提案すると、
「そうしてくれると非常に助かる。
お前らはアイテムボックス持ちだしな。
ちょっと待ってくれ、職員に言って物資や武器、
矢などを準備させるから。」
そう言うと応接の扉を開けて廊下で職員に
至急北西の村に持っていく物資を揃えてくれと
指示をしている。
そうそう、レンとティエラの二人。
アイテムボックス持ちだから量は
気にしなくていいぞ…という声も聞こえてきて
レンとティエラが顔を見合わせて苦笑する。
職員に指示すると再び応接に入ってきたシールは
「準備ができるまでちょっと待ってくれ。」
そう言ってから続けて、
「ところでこの前勇者一行が王都に来て、
今はアルゴナ公国に向かっているが、
お前達は会ったのか?。」
と聞いてくると、
「いや。俺たちは会ってない。
特に会う必要もないしな。」
レンガ答える。続けてティエラが
「シールさんは会ったの?」
二人を向き直して
「チラッとだがな。王都に入場して城に
向かうこの前の道を歩いている時に見た。
片手剣の剣士の勇者とその一行だった。」
そこで一旦言葉を切って
「二人とも知ってると思うが、
勇者一行が移動するときは
その領地の冒険者が同行するって
決まりになってる。
奴らがオムスクから国境を越えて
うちの国に入ってきた時からここ王都の
冒険者が随行してここまできたんだが、
彼らの話を聞いている。」
そして少し間を開けて話だすシール。
レンとティエラは黙って彼の次の言葉を
待っている。
「勇者一行はランクSかそれより
少し上のレベルらしい。
勇者は一行よりは2ランクほど上だという
報告が来ている。」
シールの言葉を聞いて、
「勇者でトリプルSランクくらいって
ことかぁ」
ティエラの口調にシールが反応し、
「レベルが低いってティエラは思ってるのか?」
「正直、そう思っている部分も少しあるんだけどね。
でも魔王のレベルがわからないから
何とも言えないわね。」
続いてレンが、
「勇者一行のレベルが低いなと俺は思った。
ランクSプラスのレベルなら魔王城の
最深部まで行けないんじゃないかと。」
「ああ。そうかもしれないわね。」
レンの言葉にティエラも同意すると
その言葉にギルマスのシールが反応する。
「お前ら、魔王城の中の魔人や魔族の
ランクを知ってるのか?。」
「もちろん、知らない。知らないが俺たちは
南のダンジョンを攻略してクリアしている。
その最深部の魔人のランクは最後は
ランクSSレベルだった。」
レンの言葉に思わずギルドの応接室の
天井を見上げるシール。
「なるほど。そうなると正直きついな。」
「ただ、勇者に同行したランクAの冒険者にとったら
ランクS以上なんて見ることが無いだろうから低めに
評価してるのかもしれないぜ。実際はもっと強いかも
しれないしさ。」
レンがシールに言うと、
「そうかもしれんがな。ただ、
一緒に同行した連中が皆口を揃えて
言っていたのは、勇者一行よりも
レンとティエラの方がずっと強いってさ。
お前らの腕前は見て知っている連中が
言ってるからな。」
シールの言葉にティエラが
「と、とにかく勇者一行が魔王を
倒してくれればそれでいいのよ。
私たちは人族の領内で少しでも
魔族を退治することが使命だからね。」
レンもティエラも神獣と約束はしているが、
それを外部の人間に漏らすことは
極力避けていた。
ティエラの言葉に続けてレンも
「ここから魔王の領地に移動している間に
自分の強い身体や魔族との戦闘にも慣れて
さらに強くなるかもしれないしさ。
俺たちは俺たちができることをしっかりやるつもりだ。」
レンとティエラの言葉にシールも
うなずきながら、
「お前たちの言う通りだな。魔王討伐は
勇者って決まっているし、
そこはここでうだうだ言っても仕方がない、
こっちはこっちで国内の雑魚退治だ。」
ちょうどそのタイミングでギルドの職員が
応接に入ってきてギルマスのシールに
耳打ちをする。
聞いていたシールは、
「すまない。荷物の一部がどうしても
明日朝になるそうだ。
申し訳ないが明日の朝、ここに来てくれるか。
それまでに荷物は用意しておく。」
「わかった。」 「全然問題なし」
そう言って明日朝もう一度来ることにし、
ギルドを出て一旦ウッドウォードの
自宅に戻った二人。




