第5話
数日後、自国南部を魔族に蹂躙されている
ミッドランド王国から周辺のロチェスターおよび
アルゴナに対して救援要請が出た。
これに対して両国は即座に対応。
直ちに騎士と冒険者を派遣することを決めた。
と同時にアールバニー大陸の国境が全て解放された。
これは対魔族との戦闘時の非常措置で、軍や冒険者が
速やかに移動できる様にするためであった。
自国内でも日々湧き出てくる魔獣と対している両国だが
ミッドランドが魔人の手に落ちるとその後の大陸の
勢力図が大きく変わる可能性が高く。
人族としては自分達の領地を何としても
死守しなければならない理由があったのだ。
ロチェスターからは主として王都のギルドと騎士達
がミッドランドに派遣されていった。
辺境領はそうでなくても魔族と国境を接しており
王都以上に激しい戦闘が日々繰り返されている事は
ギルドや辺境領から日々報告がでており、
王都としても辺境領の戦力を他に割くのは出来ないと
理解していた。
レンとティエラは日々辺境領各地を回り、
魔獣、魔人を討伐していた。
「これでおしまい!」
ティエラの剣が魔人の首を刎ねると、
その場に立っている魔人は居なくなり、
相当数の魔人、魔獣の死体が横たわるだけとなった。
「何だよ、あの二人は。」
「ランクA、Sも雑魚扱いだもんな。」
「強さの桁が違いすぎる」
縦横無尽の活躍でここ港町ナスコの南の森から街に
進軍していた殆どの魔獣、魔人を討伐し終え、
砦に囲まれた街に戻る二人を砦の上から見ながら
ナスコの冒険者や騎士達が驚愕の目で見ている。
「これでとりあえずの脅威は去ったけど、
またしばらくすると徒党を組んでまたこの街に
攻めてくること思う。」
街中に戻ったレンが守護隊の司令官である
騎士の元に出向いて報告すると、
「助かった。次の攻撃までにこちらも体制を
整えつつ出来るだけ瘴気溜まりで沸く獣人の
掃除をしておこう。」
「それがいいと思います。では私達はこれで。」
ティエラが言い、レンと二人で街を出たところで、
「ちょっとミッドランドに寄ってみるか。
苦戦しているかも知れないし。」
「そうだね。様子を見に行きますか。」
二人はウッドウォードに戻らず、
そのままテレポリングでミッドランドの南部に飛ぶ。
飛んだ先の村は既に魔族に蹂躙された直後の様で、
村の中からはまだ煙が立ち上っていた。
そして二人が村に入ると目を覆いたくなる様な光景が…
「…ひどい。」
ティエラが呟く。
「蹂躙された直後か… 北に上がれば追いつけるかも。
ティエラ、急ぐぞ!」
街を出ると細切れにテレポリングを使用して
北上を続けていると、二人の前方に村を囲む砦とその
周囲を包囲して攻撃する魔人、魔獣の姿が目に入ってきた。
「あれだ!」
鞘から剣を抜いて走り出す二人。
近づくと、街の城壁の周囲を多数の魔獣、魔人が取り囲み、
城壁の上からは冒険者や騎士が矢や魔法を撃っている
二人はその背後から魔族の集団に近づくと
中に突っ込んでいった。
背後から不意を突かれた魔人達が大きく倒れていくなか、
両手に持った片手剣を止めることなく魔族の集団を
蹴散らしていく二人。
城壁の上から魔族に攻撃をしていた冒険者や騎士達は
突然魔族の後方でバタバタと倒れていく魔人達を
一体何が起こったんだという目で見ていたが、
その内に一人が
「ベルグードの魔法剣士のレンとティエラだ!」
と叫ぶと、あちこちから
「本当だ。助っ人に来てくれたのか。」
「俺たちもやるぞ!」
防戦一方だった冒険者、騎士達もレンとティエラを見て
城の城の上から矢や魔法を撃ったり、門から外に出て
魔獣と対峙する冒険者達も出始めた。
レンとティエラは魔族の集団の中を縦横無尽に走り廻り、
剣と魔法を使って魔獣や魔族を次々と倒していく。
特にティエラは先ほどの村の惨状を見たせいか
普段よりも激しい剣の動きで魔獣を倒していた。
二人が合流して形勢が逆転し、今まで優勢だった
魔族の軍団が徐々に倒されていき、とうとう、
最後の魔人の1体がティエラの剣で地面に横たわった。
「やったぜ!」
城の上で口々に勝どきを上げる冒険者達、
レンとテイエラは周囲を見て生き残っている魔族が
いないのを確認すると開けられた門から村の中に
入っていった。
「今聞いたが、君達はロチェスター王国の
No.1の冒険者だってな。
君達が来てくれて助かった。礼を言う。」
この村の守護隊の隊長らしき騎士が
右手を差し出してくる。握手をしてから、
「この南の砦は全滅だった…。」
「もうちょっと早く来ていれば
助けられたかもしれないのに。」
レンとティエラが無念そうに隊長に言う。
「わかっている。この村にも南から逃げてきた
冒険者や騎士達がいて状況は聞いている。」
そう言うやりとりをしていると、突然、
「お前ら、来るのが遅いんだよ。
どうしてもっと早く来られなかったんだよ!」
二人と隊長とのやりとりを聞いていた
一人の冒険者が二人を睨みつけながら叫ぶ。
レンが口を開く前に、隊長がその冒険者を逆に
睨みつけて、
「わざわざ他所の国から応援に来てくれた人に
貴様は何ということを言うんだ!
この二人が来てくれなかったら
俺たちは全滅していたかもしれないんだぞ。
そもそもお前達冒険者が普段から他所の国の同業者を
バカにするだけで、自分たちは全く
精進してこなかったからこうなったんじゃないのか?
恥を知れ!」
一気にまくし立てるとレンとティエラの方を向いて、
「申し訳ない。君達も知ってると思うが、
この国はあいつみたいなプライドだけが人一倍強く、
自分勝手な奴が多くてな。魔王復活がわかってるのに、
自分達は努力せずに、誰かが倒してくれるだろうと
都合の良いことしか考えてない奴が多いんだ。
情けない話だ。」
言われたミッドランドの冒険者は騎士に正論を吐かれ、
ふてくされた顔をして小さくなっている。
守護隊の隊長の騎士の話を聞き、レンは暴言を吐いた
冒険者に向かって、
「俺とティエラは以前このミッドランドに
来たことがある。その時も今のお前みたいな奴がいて
不愉快な思いをしたよ。思い出したくないくらいにな。
でもな、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう?
魔王は復活し魔族は勢いを増している。
俺たち人族が一つにまとまらないとこの大陸が
魔王に蹂躙されちまうんだぜ。
ここはお前達の国だろう?自分の国は自分で守る
気概を見せないと絶対に勝てないぜ。
少なくとも俺とティエラは人族が住んでいる
この土地を魔族に渡す気は全くない。
その為にはどこにでも飛んでいって片っ端から
魔族を討伐してやる。お前も冒険者の端くれなら
それくらいの気持ちを持ってみろよ。
今からでも十分に間に合うと思うぜ。」
レンは周囲にいるミッドランドの冒険者は
騎士達にも聞こえる声でいい、
そして隊長の方を向いて
「ミッドランドの冒険者や騎士が全てあいつの様な
奴ばかりじゃないということも知っている。
ここは魔族の領地から一番攻められやすい場所にある
国だしこれからも大変だと思うけど頑張ってくれ。
俺たちもできるだけ顔を出す様にする。」
「ああ。わかっている。今のレンの言葉で
目が覚めた奴もいるだろう。
勇者が魔王を討伐するまでミッドラントは
魔族の手には渡さん。」
そういってもう一度握手をして砦から出た二人は
テレポリングでウッドウォードの自宅に戻っていった。
「それにしても15,6年ぶりだっけ?
ミッドランドは全然変わってなかったね。」
夕食を食べながらテーブルの向かいに座っている
ティエラが話かけてくる。
「全くだ。あの隊長はあの国では
まともな人なんだろう。
相当苦労していると思うとかわいそうになるよ。」
「あの時レンが言わなかったら私が無言であいつに
魔法を撃ってたかも。それくらいに頭にきてた。」
「きっと南の砦か他の場所で知り合いが
魔族に殺されたんだろう。
それにしても、あそこまで自分の能力の低い事を
棚に上げて人を非難できるなんてすごいよな。」
「なんだかミッドランドはどうなってもいいって
気がしてきたわ。」
「そう言うなよ。あそこはこの辺境領とかなり長い
国境線を接してるし、あそこが魔族に落ちると
こっちが大変になる。ミッドランド人のことには
目を瞑って、魔族退治に集中しようぜ。」
「そうね。いや、わかってるんだけどさ、
レンには愚痴も言いたくなるじゃない。」
その後もブツブツ文句を言っていた
ティエラだったが言いたいことを言って
スッキリしたのか、
「それで、明日はどうする?」
「朝の鍛錬の後はギルドに行って勇者のスケジュールを
聞いてみよう。彼らの戦闘を見るのは
ミッドランドを出て南に降って(下って?)魔族領に向かう時が
いいと思う。相手の魔族のレベルも高いだろうしな。
なので、ミッドランドをいつ頃出るのか
聞いておきたい。それからはまた辺境領の
拠点巡りかな。」
「そうね。瘴気溜まりの方は他の冒険者に任せて、
私たちは拠点防御の応援の遊軍の方がいいわね。」
翌日、二人は朝の鍛錬を終えるとウッドウォードの
ギルドに顔を出した。彼ら専用の受付嬢のユーリーに
アンドリューに取り付いでもらう。
応接に入るとすぐにアンドリューが
部屋に入ってきた。
「どうした?」と問うギルマスにレンが、
「勇者一行のスケジュールを教えてもらおうと
思って。」
そう言ってから自分たちの目的を説明していく。
黙って聞いていたギルマスはレンの話しが終わると、
「なるほど。勇者の実力を見ておきたいって事だな。」
「神獣によると、今回の魔王は前回よりも
強そうだとの事ですので、それを討伐する勇者と
その一行のレベルを知っておいた方が良いかなと
思いまして。」
ティエラが補足説明をしていく。
「わかった。お前らの使命は知っている。
そのために必要な事だというのも理解できる。
ちょっと待ってろ。」
一旦応接を出たギルマスはすぐに戻ってきて、
テーブルの上に地図を広げていく。
地図の上には勇者一行のルートと大きな街の
到着予定日が記入されている。
「これは機密扱いの各国の貴族の領主達だけに
配られている予定表だ。俺はこれを領主から
もらったが、お前達は特別な人間だから
これを見せても大丈夫だろう。」
そこで一旦口を切って果実汁を飲むと、
地図に指を走らせながら
「レンが言うミッドランドの王都の出発予定日は
この日だ。今から2ヶ月後だな。
それから徒歩で魔族を倒しながら南の国境線から
魔族領に入る予定になっている。
なので、2ヶ月後なら勇者一行は南に向かって
進んでいるだろうからそのどこかで戦闘が
見られるんじゃないか?
このミッドランドの南部は相当激戦になって
るみたいで、いくつかの村や砦が魔族に
蹂躙されていると聞いている。」
「実は昨日ミッドランドの南部に飛んでみたが、
酷い有様だったよ。」
レンがいい、詳細をティエラが説明する。
聞いていたアンドリューは、
「結局ミッドランドの奴らは魔王誕生まで
何もしなかったって事じゃないかよ。
それでレンに八つ当たりか…
全く相変わらずどうしようもない国民だな。」
「とはいえ、ロチェスターとして救援要請に
応えている以上は無視もできないしな。
いやな奴らだとは思ったけど、その砦の指揮官の
騎士はまともな軍人だったし、
そういう人の為にも協力はしていくつもりだ。」
「不愉快なことはあるかも知れないが、
よろしく頼む。
それで、どの辺りで勇者の戦闘能力を見るのか
決めているのか?」
アンドリューの問いかけには、
「いや、ただこの予定表を見ると2ヶ月後に
ミッドランドの王都を出るとしたら、
南の国境線まで約3週間程か。彼らが王都を
出てから10日後くらいに
ミッドランド中部に飛んでみるかな。」
「そうね。それくらいのタイミングかな。」
ティエラもレンの考えに同意する。
「じゃあ、ミッドランドを出て南に向かったという
連絡が入ったら二人に教えてやろう。
それでいいか?」
「「お願いします。」」
ギルマスの了解をとりつけて、
ギルドのカウンターに戻ると、
その場にいた冒険者達が二人を見つけて
「今日はどこに行く予定なんだい?」
「特に決めていなくて、辺境領内の拠点都市を
順に見ていこうかなと思ってる。
この周辺はどんな具合だい?」
レンに聞かれたウッドウォード所属のランクAの
冒険者は、
「この周辺はまぁ静かだ。せいぜいランクBが
たまに来るくらいで大きな戦闘はないな。
なので、俺たちランクAの冒険者は瘴気溜まりの
管理がメインになってるよ。そっちじゃあ
ランクAの魔獣が頻繁に湧いてるらしいので、
6ー7名の冒険者で討伐してる。」
「じゃあ瘴気溜まりの方は私たちが
行くまでもないわね。」
「ああ。レンとティエラが出張ってくるほど
酷い状態じゃない。むしろ俺たちが行けない
南の砦方面や東のミッドラントとの国境線の方が
心配だな。」
「わかった。俺たちはそっちに行ってみる。
瘴気溜まりの管理はよろしく頼む。」
ある程度の情報交換をするとレンとティエラは
テレポで南の砦に飛んでいった。