第3話
その後はまだ領主と話しがあるというギルマスの
アレンは残り、レンとティエラは領主の館を出て
徒歩でベルグードの貴族街から商業区に向かって
歩いていた。
商業区に入ると二人の知り合いが多くなり、
挨拶したり立ち話をしたりと歩くスピードが落ちるが、
レンもティエラもそんなことは気にせずに
知り合いとの会話や屋台での買い物と
普段と変わらない時を過ごしていた市場で食材を買い、
久しぶりにベルグードの家に入る二人。
そこでの夕食時、テーブルをはさんで
向かい合って座って夕食をとりながら
「ギルドも貴族も情報は持ってなかったな。」
「ね。となるとしばらく”待ち”なのかしら。」
「そうだな。こちらから仕掛けることもできないし。
俺達は今まで通り地上の魔物を倒しつつ、
鍛錬は欠かさずにしておこう。」
その夜をベルグードの家で過ごした二人、
翌日ベルグードの街を出るとテレポリングで
南の”亜人”の村に飛んでいった。
いつもなら亜人の村に薬を渡して戻る二人だったが、
この日は亜人の長に取り次いでもらえないかと
薬を取りに来た亜人に言う。
二人とももう何年も定期的にこの村に来ているので、
多くの亜人とも知り合いで、彼らは快く二人を
亜人の長の家に案内してくれた。
中に入るといつもの村長が中央に、
その左右に付き人が立っている。
レンとティエラを見ると村長は立ち上がって頭を下げ、
「いつも済まないな。」
「いえいえ。お気にされずに。それより薬以外で
何か必要なものが有ったら遠慮なく言ってくださいね。
たいていの物なら用意できますので。」
ティエラが話をしている間、レンは隣でじっと
黙っていた。
ティエラとの会話が途切れたところで、
村長がレンの方を向いて
「ところで、今日私に会いたいというのは
何かあるのかな?」
話題を振られたところで今まで黙っていたレンが
亜人の村長の顔を見ながら、
「魔王復活について話を聞きたくて来た。
俺達の領土では日々瘴気の濃度が濃くなってきていて、
間もなく魔王が復活するんじゃないかって囁かれている。
そこでこの辺りはどうなっているのか、
何か変わった事がなかったかどうか確認したくて。」
レンの言葉を聞いて亜人の村長はしばらく目を閉じて
考える仕草をしてから、徐に目を開けて、
「確かに日に日に瘴気が濃くなってきているのは
間違いない。
獣人のレベルも上がってきておる。ただ、幸いというか
この辺境の地では元々魔獣の数もランクも
低いのが多くてな、我々の生活を脅かすほどには
なっておらんよ。」
ここで一旦話を切り、間を開けてから村長が話を続ける。
「山の向こう、魔族の領のことは分らぬが、
瘴気の増え方から見て今回の魔王復活は想像より
早いかもしれん。感覚的なもので根拠が
ある訳ではないが。」
とは言え、人族より瘴気や魔素の動きを感知する能力が
優れているであろう亜人が話す言葉は重い。
その価値を知っているからレンもティエラも黙って村長の
話しに耳を傾けている。
「俺達の中でも、今回は早い時期に魔王が復活するかも
しれないって言う声もある。
亜人の人達もそう感じているのなら
悠長に待ってられないな。」
レンの言葉に村長やお付きの亜人達もうなずき、
「その時が近いかもしれん。しっかり準備しておくが
よかろう。」
「貴方たちはどうされるのですか?」
ティエラが問うと、そちらを見て村長は微笑みながら、
「我々は今までも、これからもこの土地を離れる気は無い。
いつも通りの生活をするだけだ。
そなたたち人族が魔王を討伐して再び平和な
世になることを祈っておる。他力本願だが、
これが我々の生き方なのだ。」
「わかった。無事魔王討伐が終わったら報告に来よう。」
そう言って二人は亜人の村を出て自分たちの街に
戻っていった。
それから約1年後、瘴気溜まりはますます
その濃度を上げ、湧き出てくる魔獣のランクも
1ランク以上あがり、各街のギルドに所属する冒険者達は
日々湧き出てくる魔獣の討伐に明け暮れていた。
レンとティエラも時間を見つけては討伐に参加…
と言っても二人は街から遠い場所の瘴気溜まりを
重点的に巡回しては周辺にたむろしている
ランクA以上の魔獣を処理していた。
世間は間もなく魔王が復活するだろうという話しと、
いつ、どこで勇者が登場するかとう話題で持ち切りで、
ギルドでも酒場でもレストランでも、人が集まると
その話題になっていた。
そんなある日、知らせは突然やってきた。
「オムスク王国で勇者が現れた!」
この一報はあっという間にオールバニー大陸を
駆け巡っていった。
レンとティエラはウッドウォードのギルドで
その話しを聞くと、直ぐにテレポリングで
南の洞窟に飛んで行った。
洞窟の奥に行くと、神獣シヴァのほかに
フェンリル、イフリート、リヴァイアサンもいる。
「勇者が現れたという話を聞いてきた。」
挨拶もそこそこにレンが切り出す。
神獣4体も頷き、
『私たちも感じました。勇者誕生を。
そこでレンとティエラにここに来る様に
妖精に頼もうかと思ったら、貴方達がここに
向かってくるのが見えたので待っていたの。
そう、オムスクで勇者が誕生したのは間違いないわ。』
シヴァがレンとティエラを見ながら答える。
「ということは魔王も誕生したの?」
ティエラが問うと、
『いえ、そちらはまだよ。でも勇者が誕生したから
魔王の誕生ももうすぐね。
勇者は魔王が復活するとわかる様になっているの。
魔王が復活すると勇者から国民に魔王復活の報が
いくと思うわ。
もちろんレンとティエラには私たち神獣から伝えます。』
それを聞いて、
「いずれにしても魔王誕生も時間の問題か。
それで俺達だが以前から神獣に言われている様に
動けばいいのかな?」
「流石に勇者達より先に魔王城に行くわけには
いかないよね?」
レンとティエラが交互に思った事を言う。
『そうね。今までの摂理を変えるのは良くないと思うの。
なので、貴方達は待機しながら万が一に備えて
準備をしておいて。』
「わかった。しっかり準備しておくよ。」
『お願いするわ。万が一の時は貴方達が頼りなのよ。』
シヴァが言うとほかの神獣もよろしく頼むと
頭を下げる。
「神獣からもらった加護もあるし、レベルも
一応92まで上がってる。
勇者一行にもしも何かあったときは
直ぐに出かけられる様に普段から準備はしている。
任せてくれと言うほど自信はないが、ティエラと二人で
最善を尽くすさ。」
「そうそう。いろんな加護を頂いた
お返しをしないとだよね。」
ティエラも神獣に言うと、それに応える様に
フェンリルが
『最後に、もう一度我らの加護を与えよう。
お主たちも相当強くなっているが
我らもそれなりに成長して加護も強くなっているからな』
フェンリルがそう言うと、4体の神獣が光を発しはじめ、
その光がレンとティエラを包んでいく。
しばらくして光が消えると、フェンリルが
『言うまでもないが、我ら神獣の加護を
上書きしておいた。お主たちなら得た力を
間違って使うこともあるまい。
与えられる最大限の加護が二人に宿っておる。』
シヴァが言葉を続ける
『頼むわよ。レン、ティエラ』
新たに加護の上書きをしてもらった二人は
洞窟の奥で4体の神獣にお礼を言ってから
ウッドウォードの街に戻っていった。
ウッドウォードに戻るとギルドを訪ね、
ギルドマスターのアンドリューと面会する二人。
洞窟での神獣との話しを報告すると、
「なるほど。まだ魔王は復活していないが、
復活すればお前らに連絡があるんだな」
「勇者は魔王が復活したらわかるそうですが、
それとは別に神獣達は私たちに教えてあげる。
そう言っていました。」
ティエラが答える。
「じゃあそっちは連絡待ちってことで。」
「ところでギルドは勇者について情報を持ってるのかい?」
レンの問いに対しては、
「まだだ。間もなく勇者とその一行についての
情報が入るだろう。入ったら連絡する。」
二人はギルマスのアンドリューと別れると、
自宅の隣にあるレンの両親の家に顔を出して、
食事をとりながら神獣との話し、ギルマスとの話を
報告した。
話を聞いたレンの両親は
「勇者が誕生したのなら、間もなく魔王も復活だな。」
「しばらくは大変な日々が続きそうね。レンとティエラが
しっかり街の防護壁を作ってくれていたから安心だけど。」
元冒険者であるレンの両親はこの世界の仕組みを
理解している。
「で、お前達の出番はありそうなのか?」
ジグスの問いかけにレンは、
「分からない。ただ神獣からはしっかりと
準備をしておいてくれと言われている。」
「はっきりとは聞いていませんが、恐らく勇者と魔王との
決戦の結果が出次第、私たちに連絡があると思います。」
「なるほど。そこで勇者が魔王を討伐すればそれでよし。
万が一討伐出来なかったときにはレンとティエラが
魔王城に向かうってことになるんだな。」
ジグスの言葉にうなずく二人。
「神獣の加護を貰っているんだからそれは二人の使命よね。
でも気を付けてね。」
マリエも二人を見ながら言う。




