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第2話


 城壁が完成した数日後、ウッドウォードのギルドに

顔を出すと、レンとティエラの担当受付窓口になっている

人族のユーリーが2人を見てにこやかに微笑み


「こんにちは。今日はどうされますか?」


「今日は街の外に出て出来上がった城壁を外から見てくる。

夕刻にはここに帰ってくる」


 レンが答える。ギルドがウッドウォードに支部を出した

当初からユーリーが二人の担当窓口になっていたが、

LV92の二人に依頼クエスト等は殆どなく、

大抵はギルマスへの取次と彼らの予定管理が仕事であった。


「よう。今日は街の外に出るのか?」


 奥の扉が開いてここ、ウッドウォードのギルマスの

アンドリューが顔を出して二人に問いかけてくる。


 アンドリューは以前ベルグードのギルドマスターを

していたが、50歳を過ぎ、後進にギルドマスターを譲り、

引退するつもりでいたタイミングで丁度ウッドウォードに

ギルド支部を作る話しが持ちあがった。


 ベルグードで冒険者になった当初から知り合いだった

レンとティエラと気心が知れているということで

ギルド本部からウッドウォードのギルドへの異動を

打診され、それを了承したアンドリューは家族を連れて

この街に移住してきていた。

 

 この移動はレンとティエラのランク、レベルを

対外的に秘匿しておくのにもちょうどよかった。

二人の窓口になっているユーリーはこの事情を

知っているが、彼女もギルドの職員としての守秘義務を

十分理解しており、彼女から漏れることもなかった。


「こんにちは。マスター。ええ、城壁も出来たし

外からグルっと城壁の廻りを見てみようかなと」


 ティエラがギルマスに答えていうと、


「なるほど。瑕疵はないと思うけど、一応見てくれるか?」


「わかった」


 そう言うと二人でギルドを出て、出来たばかりの

城壁の門から外に出ていった。



 外に出ると外壁に沿って歩いていく。将来の発展を

見越して作られた外壁は広く、そして堅牢に見える。


「しっかり出来ているわね」


「これなら問題なさそうだ」


 城壁の出来栄えに納得しながらゆっくりと

街の周囲を歩く二人。


 丸1日かけて周囲を歩いて夕刻にギルドに戻って

ギルマスに問題ない旨を報告。


 LV92になった二人にとっての日常は、日々ダンジョンに

籠ったりクエストを受けて魔獣を倒すことではなく、

来るべきに備えて自己鍛錬をすることであった。


 その訓練のために二人は週に2,3度はフェンリルのいる

ダンジョンに潜ってその79階で魔獣、

魔人と戦闘をしていた。


 フェンリルを含む神獣達も二人に協力して

彼らのレベルに合わせて79階の魔獣、魔人のレベルを

調整していたので、今や79階の魔人のランクは

全てSS以上の強さ、トリプルSもしくはそれ以上の

レベルになっていた。

 

 当然二人以外の普通の冒険者がこのフロアに来ると

あっという間に瞬殺されることは明らかであった。 


 尤も依然として彼ら二人以外で79階まで到達している

冒険者はいないのだが…。


 今日も79階で立ちはだかる魔人を一刀両断し、

光の粒となって消えていくのを見ながら、


 「腕はなまって無い様ね。」


 「ああ。それにしてもフェンリルもいやらしい配置を

してくるよな。」


 レンの視線の先には通路の奥に戦士タイプの魔人と

魔法タイプの魔人が複数体固まっているのが見えている。


 「毎回配置を変えてくれるのはうれしいけど、

ちょっと数が多すぎない?」


 ティエラが文句を言うが、その表情は普段と

全く変わっていなくて、


 「とりあえず突っ込むぞ」


 言うなりレンが通路の奥に向かって走り出していく。

 

 ティエラもその後に続いて走り出すと、

直ぐに通路の奥にいた魔人達がこちらを向いて、

戦士系の魔人はこちらに走り出し、魔法系の魔人は

その場で魔法を詠唱し始めた。


 二人は走りながら左手に持っている剣を突き出し、

無詠唱で<<サンダー>>を唱え、魔法詠唱している魔人の内

2体の魔法の詠唱を止める。

 

 そしてそのまま近づいてきた戦士系魔人の剣を躱すと、

すれ違い様に自分の片手剣で魔人の胴を切り裂いた。


 そのままスピードを緩めずに更に進んでいく二人。

結局6体固まっていた魔人の攻撃を一度も受けずに、

剣と魔法で魔人達を討伐した。


 両手に持った剣を鞘に収めながら、


 「この速さで倒せるならまぁまぁかな?」


 「もうちょっと早く討伐出来そうだけどな。

最初のぶつかりあいは敵の攻撃をかわす前にこちらから

攻撃する様にしたら討伐時間が早くなるんじゃないかな」


 戦闘後は二人で話し合って改善点を確認していく。


 そうやって半日程ダンジョンの79階で鍛錬をした二人は

そのまま地上に戻っていった。


 二人ともLV90になった時点でレベル上げは

意識しなくなっていたがこうやって79階で鍛錬している間に

更に2つレベルが上がってLV92にまで到達していたのだ。


 実際LV90になるとLV80台より更に2ランクも3ランクも

能力がアップしており、地上に存在する魔人、

魔獣では全く相手にならない位であった。


 唯一魔王だけが二人に立ちはだかる壁となっているが、

その魔王については実際に戦闘してみないと

自分たちのレベルとの差は分からないのだが…

 

 いずれにしても未知の魔王を除くと地上で二人より

強い魔獣、魔人はもう存在していなかったのだ。


 そういう訳で二人はフェンリルの好意で

地上には存在しないレベルの魔獣や魔人を相手に

日々鍛錬をして自分達のスキルを更に高める努力を

していた。


 そうしてダンジョンで鍛錬を続け、街の外で魔獣討伐の

手助けをし、それ以外の日はウッドウォードか

ベルグードの街にいるか、或いは亜人の村やシヴァの

洞窟を訪問するのが今の二人のルーティンになっている。


 ベルグードのギルドに顔を出すと、今のこの街の

ギルマスをしているアレンが丁度奥から出てきたところで、

二人を見ると、


「久しぶりだな、レンとティエラ。ウッドウォードの

防御柵が完成したんだって?」


 「ええ。先週ようやく完成しました。

想像以上の出来栄えですよ。」


 ティエラが答える。


 「そうか。アンドリューも喜んでるだろう。

ところで今日は何か予定があるのかい? 

なければ俺と一緒に領主に会わないか?

丁度領主に呼ばれて今から行くところなんだが、

二人なら領主も歓迎だろう。」


 「久しぶりに領主様に合ってみるか、

何か情報を持ってるかもしれないしな」


 レンがそう言うと、ティエラもうなずき、

ギルドの馬車に乗って3人が貴族街に向かっていく。

アレンも二人の実際のレベルを知っている一人であった。


 貴族街の奥にある大きな領主の館の前に着くと

馬車を降り、執事が開けてくれた扉から中に入っていく

3人。


 そのまま領主の執務室に入ると、机に座って

仕事をしていた領主のヴァンフィールドが

レンとティエラを見て破顔しながら机からテーブルに

やってきた。


「よう。久しぶりじゃないか。元気にしてたか?」


 30代で父親の後を継いだ領主も今や50前の年齢に

なっている筈だが、相変わらずがっしりとした体躯で、

肌にも艶がある。


 握手をし、挨拶を交わしてから、勧められるままに

ソファに腰かけると、


「ベルグードのギルドに顔を出したら、ギルマスが丁度

領主様のお屋敷に行くところで声をかけてもらったので

ついてきました」


 ティエラの説明に、


 「お前らならいつでも歓迎さ。

アンドリューも元気でやってるか?」


 「ええ。すっかりウッドウォードに馴染んでますよ。」


 「そりゃよかった。そういえばウッドウォードも

街の防護壁が完成したんだってな?」


 領主がレンの顔を見ながら聞く。


 「先日出来上がりました。これで一安心です。」


 レンの答えに満足そうに頷くと、


 「これでほとんどの街の防護壁は出来たな。

あとは騎士の訓練だな。アレン、

ギルドの方はどうなってる?」

 

 話を振られたアレンはかしこまって領主を見ながら、


 「定期的に瘴気溜まりは巡回して様子を見ながら

魔獣を討伐しています。これはここでも王都でも同じです。

オールバニー全土でギルドは横の連絡をとりながら

来るべき時に備えています。」


 アレンの前任、今のウッドウォードのギルドマスターの

アンドリューは若い頃は領主のヴァンフィールドと

パーティを組んで冒険者をしていた旧知の間柄であったので

会話も仲間同士の口調であったが、

アレンは領主よりも若く、また過去領主と接点が

なかった為、敬語で対応している。


 レンとティエラは口を挟まずに二人のやりとりを

聞いている。


 「で、瘴気溜まりの濃さはどうなってる?

日々濃くなってるのか?」


 「残念ながら、ご指摘の通りです。

冒険者からの報告にも土木工事をしても、

巡回する度に濃くなっていていつ魔人が出現しても

おかしくないとの報告が上がっています。」


 「そうか…。5年以内とかじゃなくて直ぐにでも

魔王が復活する可能性がありそうだな。」


 独り言の様につぶやいてから、


 「それで、勇者の情報は何か持ってるか?」


 領主の問いにアレンは首を振る。


 「王都でもその情報はまだ無いんだよな。

一体、いつ、どこで復活するのやら。」


 言ってからレンとティエラを見て


 「まさかお前たちじゃないだろうな?」


 突然振られた二人、ティエラがびっくりして

顔の前で手を左右に振りながら、


 「それは無いと思いますよ。神獣からも勇者に

何かあったときには頼むといわれて

加護を貰っているくらいですし。」


 隣でレンも、


「ティエラの言う通り。俺たちはあり得ない。

年も食ってるしな。それよりも勇者が誕生したら、

うちの国だけに限らず全土で情報を共有して勇者を

フォローする事になってるんだよな?」


 レンの問いかけに領主が


「その通りだ。魔王が復活して、勇者が誕生したら

世界中で勇者をフォローすることになっている。」


領主が答え、そのまま続けて、


 「いずれにしてもここ辺境領は魔族と国境を

接しているので、魔王復活の時には最初に侵略される

可能性が高い。


 俺としては準備はしっかりしときたいのさ。

いくら準備しても不安はあるが、何もしないよりは

マシだからな。」


 領主の言葉にレンが頷きながら


「俺達も協力するよ。住んでる街や村を魔族の連中に

壊されたくは無いからな。」


領主の隣に座っているアレンがレンとティエラを見ながら、


「その時はよろしく頼む。お前たちがこの辺境領の

命運を握ってると言っても過言じゃないからな。」


 領主もその後を続けて、


「その通りだ。よろしく頼んだぜ。」


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