第76話
ベルグードに着くとその足でギルドに顔を出して
ギルマスの部屋で報告する。
「ご苦労だった。それにしてもアルゴナはともかく、
ミッドランドは話を聞く限り、俺の想像以上だな」
「実力はないのにプライドだけは超高い人って初めて見ました」
ティエラが心底驚いた表情で報告する。
「よその国のことだからこちらから口出しはできないが
その中で数少ないまともなギルマスに同情するよ。
それで南の様子はどうだった?」
本題に入るとレンが魔石を取り出してテーブルの上に置いて
「今日倒してきたのは全部で9体。ランクAが7体、ランクBが
2体。 いずれも荒野の窪地が瘴気溜まりになっていて
そこから発生している様だ。」
「なるほど」
魔石を手に取ってみているギルマスのアンドリューにレンは
話を続ける
「ミッドランドの南の魔人族との国境は、
高い山で仕切られていなくて裾が広い山で
仕切られている様だ。なので魔族領からの瘴気が
流れ込みやすくなっている様に感じた。ロチェスター
よりも魔族が発生しやすい地形になってるな」
「とういことは今日見つけた瘴気溜まり以外にも
いくつもありそうな雰囲気か?」
アンドリューの質問に
「そう思う。なのでギルマスの言う様に
1か月程ミッドランドの南を探索してみる。
気付いたことがあればその都度報告するが、
それ以外の時は倒した魔石をキャシーに渡して
おけばいいかな?」
「そうだな。そうしてくれ」
ギルマスとの打ち合わせが終わり
ギルドの受付に戻ってきた二人を見つけて
知り合いの冒険者が声を掛けてくる
「よぉ、久しぶり。暫く見なかったけど
どっかに行ってたのか?」
声を掛けてきた方を向いて
「ああ、ちょっとアルゴナとミッドランドにな」
そう言うと、びっくりした顔で
「ミッドランドに行ってきたのか。不愉快な
思いしたんじゃないのか?」
「まぁな。そっちも行ったことあるのか?」
何か情報が取られるかと思い、ティエラと
2人で受付横にあるいつもの酒場兼打ち合わせの
テーブルに移動する。
ミッドランドという言葉に反応した複数の冒険者も
その周りに集まって来た。
最初に話かけてきた冒険者、彼はランクBで
もうすぐランクAじゃないかと噂されている黒魔導士。
その男が、
「俺たちのパーティがミッドランドに行ったのは去年だったかな。
たまには場所を変えてみようぜってことでパーティ4人で
行ったんだけどよ」
そこで言葉を切ってグイっとエールを飲み
「あっちのギルドに顔をだすなり、先ずは受付嬢が
他国の方が受けられるクエストは今は有りませんって
ぬかしやがってさ、
そこの掲示板にクエストいっぱい貼ってあるじゃないかよ。
って言っても
あれはミッドランド冒険者用のクエストで、他国の
冒険者用ではないです
って言いきりやがって、頭に来てさ、
冒険者はどこでもクエスト受けられるんじゃなかったのかよ
そう言ったらギルドにいたミッドランドの冒険者達が
我が国のクエストは難しいのばかりだからよそ者には
無理じゃないの?
だとさ。」
レンとティエラは黙って話を聞いている
「頭に来たけどクエスト受けられ無ければ稼げないしな。
仕方ないととりあえず掲示板にどんなクエストあるかだけ
見てみたのよ。そしたら何と、こっちで言うランクC
のクエストが殆どでさ、俺たち4人で何じゃこりゃ?
こんなの受けても仕方ないぞってことで引き揚げて来たって訳さ」
話を聞いていた他の冒険者からは
「そんなに低レベルのクエストしかなかったのかよ?」
「ああ。ミッドランドの王都のギルドって言うからちっとは
まともなクエストがあるんじゃないかと思って行ってはみたものの、
余りのレベルの低さに逆にびっくりした。
あれならアルゴナの方がずっとマシだよな」
「そういやミッドランドの連中って殆ど他の国に来ないよな」
別の冒険者が言うと、そうだそうだと同意する声があがる
「自分達の狭い世界が一番いいんだろう?
けどよ、あの調子だとちょっと強い魔獣が出たら
全員討ち死にだぜ」
黙って話を聞いていたティエラが口を開いて
「それ1年程前の話しだよね? じゃあ今も余り変わってなかったわよ。
プライドが高いのか、私達他の国の冒険者を馬鹿にする発言してたわ。
それでレンが頭に来て向こうの冒険者を叩きのめしたのよ」
それを聞いて
「レン、お前あの国の冒険者をのしちまったのかよ?」
「ああ。街を出たところで絡んできたからな。
当人はランクBだと言ってたが、どう見てもベルグードなら
ランクCクラスの腕前だったよ」
その話で冒険者達が声を出して笑って
「しかしそいつも災難だよな、レンとティエラに喧嘩
売って、反対に叩きのめされてさ」
「こっちはもめ事を起こす気はなくて、用事が済んだら
とっとと帰るつもりだったんだがな。」
「まぁでも、レンが倒したらあいつらも自分達のレベルの
低さが分かったんじゃないの」
「だといいけどな」
酒場で酒を飲みながらそんなやりとりをしてから
2人は久しぶりに自宅に戻って旅の疲れを取った。
翌日からは朝起きるとテレポリングでミッドランドの
南部に飛んで魔獣を倒しつつ、瘴気溜まりを探しては
その場所を補修する作業を根気よく続けていった
ミッドランドを東西に横切る様に移動して、魔獣を
討伐しながら徐々に南下していくこと約1か月、
2人は魔族領との国境の山近くまで来た。
「せっかくだから山に入ってみるか」
「当然。山の中も調べないとね」
山に向かって歩いていくと、探索スキルに赤い点が
多数集まっているのを見つけ、
「多いわね。大きな瘴気溜まりがあるかも?」
「行ってみよう」
戦闘準備をしてから山の中を赤い点に向かって
進んでいく、
暫く行くと山あいの谷間の底に大きな沼があるのを
見つけた。
沼の湖面はどす黒い瘴気が漂っていてこちらからは
沼の対面が見えない程で、沼の周囲ではところどころで
瘴気が地面から渦を巻いていてその中から
魔獣が生まれ出てきている。
大きな木の陰からそれを見ている2人。
「これは大きな瘴気溜まりだね」
「谷間の底だし、完全に空気が澱んでいるな。
ここが恐らく最後で最大の瘴気溜まりだろう」
湧きだした魔獣は沼の廻りを徘徊していたり
中には山に向かって歩き出したり、こちらの方を
向いているのやら統一性のない動きをしていて
「ランクAが多いな。一気に蹴散らすぞ!」
そう言うと木の陰から出て沼に突進していく
近づいてきたレンとティエラを見つけた魔獣が
雄たけびを上げながら二人に向かうと、その雄たけびを
聞いた他の魔獣達も一斉に二人の方に駆け出してくる。
その数20体以上。
近づいてくる魔獣を遠隔から精霊魔法で倒し
足止めさせて、魔獣の群れに突っ込んでいく二人。
両手に持った剣を左右に薙ぎ払う度に魔獣が
真っ二つに切られたり、首から上がなくなったりして
その場に倒れ込んでいく。
実質ランクSかそれ以上の実力になっている二人に
とってはランクAの魔獣は雑魚扱いで、
20体以上いたの魔獣をあっという間に討伐した。
そして二人はLV74になった。
倒した魔獣からレンが魔石を取り出していると、
沼を見ていたティエラが
「はてさて、この沼、どうしようか」
魔石を20個以上集めたレンがティエラの横に立って
同じ様に沼とその周囲の景色を見て
「谷底にある沼だし、丁度向こう側から瘴気が流れ込んで
くる地形になってるな。そしてそこの山裾でぶつかって
沼の上で溜まってしまっている」
「でしょう? どう見てもここに瘴気が溜まる様に
なってるよね」
「このまま放置したらまたすぐに魔獣や魔人が
湧きそうだ」
「でも、魔獣じゃなくて普通の動物たちにしたら
この沼が水飲み場になってるかも知れないしさ。
私達が勝手に水を抜いたりしたら動物が困っちゃうよね」
「水はそのままで瘴気が溜まらない様にしないと
いけないな。」
流石のレンとティエラもこれ程大きい沼の地形を
変える程の魔法は使えず、また使えたとしても
地形を変えてしまって普通の動物達の水飲み場がなくなるのも
忍びない。途方に暮れてしばらく沼をぼんやりと見ていた。
沼は相変わらずどんよりとしており
瘴気がゆっくり溜まっていく様が見えていて
「何かいい方法はないかしらね」
「そうだよな」
そうして二人暫くボーっと沼を見ていると
ティエラが立ち上がって
「瘴気が来るのは止められないとしたら
瘴気を分散させて強い魔獣が湧かない様に
するしかないんじゃない?」
「なるほど。瘴気を薄めることはできそうだな
魔獣が湧くのは仕方ないとしてもランクの低い
魔獣なら討伐できるか」
ティエラの言葉にレンも同意して、立ち上がって
「となると沼のあの部分、瘴気が流れ込んでくる所に
障害物を作って瘴気の流れを沼の左右に分かれる様に
するか」
2人は沼の南東の瘴気の通り道に歩みを進めていき
「この辺りか」
沼から少しだけ離れた場所に立つと、
土魔法で壁をV字に作っていく
この辺りにいるであろう小動物の邪魔にならない様に
土壁の一部に隙間を作って通りやすくする。
南東から来た瘴気はV字の壁に当たると左右に分かれて
沼の両端に流れていく様に土壁を調整すること約2時間
「こんなものだね。OKだよ、レン」
ティエラが少し離れた場所から土壁の場所と高さを
確認すると作業していた手を止めてティエラがいる
場所に移動して一緒に確かめるレン
「これで少しはマシになるといいけどな」
「うん、でもこれ以上自然に手をくわえられないよね」
自分たちができる最善の作業を終えた二人は、
「ミッドランド南部の間引き、これで終了でいいだろう
後はこの国の冒険者と軍隊に任せよう」
最後にもう一度土壁の状況を確認して
テレポリングでベルグードの街に戻っていった。
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