第75話
宿でゆっくりと休んだ二人は翌朝ホテルを
チェックアウトし、街の外に出ると
丁度そこには昨日二人をからかった犬族の槍を
持った戦士とそのパーティがいた
犬族の戦士が2人、人族の白魔導士に
狼族のナイト。 構成は悪くないなと思って見ていると
「おやおや、昨日のおぼっちゃまとお嬢さんじゃないの
二人仲良くロチェスターまでデートかい?」
他の3人がリーダーの言葉を聞いて大笑いしているのを見て
「人の実力も把握できない内は余り街から遠くに行くなよ。
魔獣にやられても誰も助けてくれないぜ?」
レンが挑発する様に言うと彼らの目の色が変わる
「チャラチャラした恰好しやがって。これ見よがの
二刀流かい?」
「試してみる?この二刀流が見掛け倒しかどうか?」
頭に来たのかティエラもレンと同様、4人組を挑発する
城を出た所で睨み合う4人と2人、その周囲には
何事かと他の冒険者達も集まってきていて
人だかりができていた。
レンもティエラも出来るだけ波風立てずに
この街から出ていきたかったが、どうやらそれは
難しそうな状況になってきていた。
「俺の相棒もそう言ってる。見かけ倒しかどうか
ここで試すか?それとも自分達が無様に倒れるのを
周りに見せたくないのなら人気のないところに
移動してからでも構わないぜ?」
「ふざけやがって。ここで俺たちがよそ者を
ぶちのめしてやるよ。 俺はこのパーティの
リーダーをしている戦士のジムだ。
レベル48のランクBだ。他の3人もレベルとランクは
一緒だぜ」
「この国じゃレベル40代でランクBになれるのか?」
思わずレンが聞き返すと
「それだけ俺たちの実力が高いってことだろうよ」
自慢気に言うジム。
「そう言うことか、井の中の蛙っていう言葉があるが
この国の事だったんだな。
俺とティエラはロチェスターのベルグードの冒険者。
どちらもレベル73のランクAの魔法剣士だ」
「…レベル73? ランクA 魔法剣士?」
レンが言った言葉は相当インパクトがあった様で
今まで威勢が良かったジムの態度が急にそわそわと
落ち着かなくなってくる。すると周囲で見ていた
冒険者の1人が、
「聞いたことがあるぞ、ロチェスターの中で一番
強いギルド、ベルグードのギルドに赤魔導士から
魔法剣士に上位転生した男女二人組みがいるって。
なんでも神獣の加護をいくつも持っていて
ギルドからいつでもランクSにしてやるって話を
断り続けてる。桁違いに強くてベルグードで
No.1の実力者と言われているってよ」
その冒険者の話しを聞いてジムの背後にいた他の3人
は戦意喪失したのが一目でわかる程うろたえている
「そう言うことだ。で、あんたはどうするんだ?
このままやるか? ここで自分の発言を謝るなら
許してやるが?」
「ばかやろう!」
そう言うとジムが槍を突き出して突っ込んできた
その動きはレンやティエラから見るとまるで
スローモーションを見ている程遅く、
突き出された槍を余裕を持って躱すと、
そのまま右手に持った片手剣を下から上に振り上げると
ジムの手から槍が離れて遠くに飛んでいった。
とそれと同時にレンの片手剣の剣先がジムの喉元に
伸ばされていた。
「あのジムの槍が飛ばされただと?」
「見えなかった。何が起こったんだよ」
口々に言う周囲の冒険者の声を聞きながら
剣先を喉元に突き出したまま
「まだ続けるのか?今度は手加減しないぜ」
暫くそのままでいるとジムの口から
「…参った」
という言葉が出たので剣を鞘に戻すレン。
周囲はシーンとしている中レンが
「自分の力を過信する奴は長生きしないらしい。
自分達が一番だってうぬぼれを持ってる内は
成長しないらしい。じゃあ俺たちは行く。」
それだけ言うとティエラと並んで周囲を
取り囲んでいる人の輪から抜けて南西に向かって歩き出していった
去っていく二人の背中を見ながら
「何て野郎だ。強いってもんじゃねぇ」
ふと自分の手首を見ると槍を弾かれた衝撃で手首を
捻挫したらしく腫れあがっている。
その痛みも感じない程の絶望感をジムは味わっていた
2人は街を出るとギルマスに言われた通り
街を出て南西に向かう道をひたすら歩いていく
「それにしてもよくレベル48でレンに突っかかって
来たよね」
「あの街じゃ恐らく上位の冒険者なんだろうけど
あれは早死にするな。」
時間が早いせいかすれ違う人も少ない道を
並んで歩きながら周囲に目を配り、探索
スキルを作動させて魔獣をチェックしていく。
その日は魔獣を見つけることも無く
夕刻に小さな街に到着した
街に入って宿屋で部屋があるかどうか聞くと、
1部屋空いているという
ここでもギルドカードは見せず、現金先払いで
部屋を確保した二人
案内された部屋は小奇麗で、その部屋のベッドに座り
「やっぱりギルドカードを見せるとまずいよね」
ティエラがレンの目を見ながら聞いてくると
「俺たちが来たという痕跡は残さない方がいいと
思うんだ。ギルドカードを見せないと
この国の冒険者だと思われるだろう?
余計なトラブルはできるだけ避けたいしな」
「確かに。この国はどうも好きになれそうもないけど
あのギルマスさんには迷惑かけたくないよね」
「そういうことだ」
その後も点在する街や村に泊まってギルマスの言った通り
王都を出て5日後、二人はミッドランド南西にある
ロチェスターとの国境検問所にたどり着いた。
入国時と比べて出国時は特に何もなくあっさりと
検問を越えてロチェスターに戻ってきた二人
「やっぱり落ち着くわね」
「そうだな。気が付かなかってけど緊張してたんだな」
そんなことを言いながら国境を越えてロチェスター側
に入ってしばらく歩いた小さな街で一泊した。
翌日、宿を出た二人はベルグードに向かう道から外れて
辺境の地を南に向かって歩いていく。
この辺りはロチェスターでも村や街がないので
夜はテントで野営しながらの南下となった。
翌日も南に向かって歩いていると左手に川が見えてきた
「あれが国境の川ね」
「そうだな。いい目印だ」
それからは川を見ながら南下をし、夜は河原で野営を
すること、再入国してから4日目、二人は河原にたって
対岸を見ていた。その右手には魔族の領地との境であろう
大きな森というか山裾の広い山が遠目に見えている。
川幅は30メートル位で、流れは速いものの川底が
見えていて…しばらくそれを見てから
おもむろに川に脚を入れて流れに逆らいながら対岸へ歩いていった。
対岸に渡る前から探索スキルを作動させていた二人
「ここらは魔獣の姿は見えないわね
「もう少し山の方、南に向かってみるか」
そう言って歩き始めて少しすると探索スキルに
複数の赤い点が現れた。
「固まっている?」
「瘴気溜まりかも?」
やり取りをしながら駆け出し、魔獣がいると思われる地点に
行くと、そこは小さな窪地になっていて、
窪地の底には瘴気が溜まっているのが分かる程瘴気は濃く
二人が見ているまさにその前で魔獣が誕生していた。
「ここは魔獣の湧くポイントの1つだね」
「間違いない。早速仕事しようぜ」
窪地の周囲には何体かの魔獣が徘徊しており、
近づいていく二人を見つけた魔獣たちが
一斉に二人の方に駆け出してくる
「ランクAか」
近づいてくる魔獣のランクを確認し
そのままレンとティエラも駆け出して魔獣5体との
戦闘となった。
とはいえ、力の差は明らかで、戦闘と言っても
あっという間に5体を倒し、証拠となる魔石を取り出して
アイテムボックスに入れると
「あの瘴気だまりも塞いでおこう」
「窪地だから空気が澱みやすいのかもね」
魔獣が湧き出ている窪地の周辺を土魔法で
盛り上げて壁らしきものを作って
瘴気が南から流れてきても窪地の左右に
流れいき、堪らない様にした二人
「取り敢えずこれでOKかな」
「そうね。」
再び探索スキルを作動させて付近を捜索していく
その後もう1か所瘴気溜まりを見つけその周辺にいた
魔獣を倒してから先ほどと同じ様に空気が澱まないに
手を加えてから久しぶりにベルグードの街に
戻っていった。
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